「みんな、おばんナチー。ヒトラーでーす」
「ヒ、ヒムラーです」
「ハイドリヒだ」
3人の男がいる。やや顎を丸くした碧眼の男、あまりに特長的なちょび髭。中肉中背の一見冴えない中年の男。それとは打って変わって、キツイ目つきをした金髪碧眼の美男。カメラに向かって挨拶をする彼らはYouTuber。たくさんのメンバーの日常を映す、そこそこ名の売れた動画投稿グループである。今日はその中でもメンバー限定配信、お金を払っているパトロンに向けた生配信の日だった。
「はい、というわけで今日はメン限の……おっ、『レイニー』さん!早速スパチャありがとうございます。」
コメント欄は今日も大盛況。
あちらこちらで〈こんナチ〜〉というお決まりの挨拶が流れている。
「えー、『小博士強火推し』さん、赤スパありがとう。まだ始まって5分も経ってないけど大丈夫ですか、ん…?読めない、なんだ?『ぅち@最才隹ι、今日見ぇナょレヽレナー⊂″もιカゝιτ…?』なんて書いてあるんですかこれは…。まあいい、次からは私でも読める文字で送ってくださいね。」
〈キャー眉根寄せ日村たそ最高ォォオオオオ!!れ!〉〈近い!近い!!!!〉〈ファンサ神、全国指導者しか月券ナニω〉〈罵倒して!!!〉〈ギャル文字も読めない日村のざーこ❤️〉〈推しの顔面ドアップ死ぬ、ビジュえぐいて〉
赤スパによって一気に活気付くコメント欄。
「ビジュ…はまあ、仕事終わりだから多めに見てくださいね。結局なんの話してたんですか、わかりますか長官?」
長官、と話を振られた金髪は無愛想に答える。
「そんなの俺だって分かりませんよ」
〈やっぱ分かってない 長官は雑魚だってはっきりわかんだね〉〈ホラホラホラホラ〉〈窓際いってシコれ金髪〉〈これもうわかんねぇな〉〈頭にきますよ!〉
それぞれのメンバーには固定ファンがついていて、メンバー内でもまたずいぶんと毛色が違う。
「俺のファンは変なのしかいないのか?」
「まぁまぁそれは置いといて、ほら、早く今日の本題に入りましょうよ」
そこでようやく、ダンマリを決め込んでいたヒトラーが口を開いた。
「今日はドッキリ企画〜!!!題して、『博士の執務室の肖像画、本人ドッキリ〜!!』」
目をギュッと閉じ、飛び跳ねながら拍手するヒムラーと、無愛想に手だけ叩いておくハイドリヒ。
「まず、博士の部屋には私のクソデカ肖像画が飾ってあるんだが」
「何だその前提」
途端振り向き、まるで名探偵にでもなったかのように、柔らかくおでこをつっつくヒムラー。
「まぁまぁ黙って総統のお話を聞きたまえ、ハイドリヒくん。」
〈うわっ〉〈こ れ は 惚 れ る〉〈顔面良すぎ大発狂〉〈しゅ、しゅき…💕〉〈メロい〉
その指を無言で払いのけるハイドリヒ。
〈やっぱ好きなんすねぇ〉〈†悔い改めて†〉〈この辺がセクシー…エロいっ‼︎〉〈カンペ見ろ〉〈硬くなってんぜ〉
「おっほん!その肖像画と、私とを交換するわけだ」
「あの、強度とか大丈夫なんですか?」
「お前はいいのか」
「ヒムラーくん、非常にいい気づきだ。」
実はだな……と声を潜めるヒトラー。
「大丈夫!今回はなんと、私直属の研究者に作ってもらった!」
「本当に大丈夫かそれ」
「いけるはずだ。分からないけど。多分。」
「博士だってそこまで馬鹿じゃないでしょうよ」
「まぁものは試しって言うからな、ドッキリだと気づいた時のヨーゼフの顔も見ものじゃないか。」
「まぁ……はい」渋るハイドリヒ。
「というわけで、ゲッベルスの執務室へと〜〜let's、Goーー!!!」
「なんですかそれは」
腕を突き上げながらうきうきで出ていくヒトラーを追う二人。この時はまだ三人とも、こんなことになるとは夢にも思っていなかったのだ。〈続きますよ!〉