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    その辺のR

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    その辺のR

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    ほろスコ。バレンタインの一幕
    (※後半ほんのり背後注意)

    弊スコが食べ物との相性が悪過ぎる……→急に何かきたな💡で急遽書いたやつです

    融点 気が付けば年の初めからもう一ヶ月と更に半月近くが経った頃。バレンタインデーが目前に迫り、私はそれに向けたお菓子作りをしていた。

     お菓子作り、といっても別にそんな大層な物ではない。ただチョコを溶かしてカラフルなデコレーションを散らしただけのささやかな物。
     それを可愛らしい小袋で包装すれば、あとはもう当日各人へと渡すだけだ。
    「よーし、これで全部終わりかな~」
     最後の袋にチョコを詰めて口をリボンで縛ったら必要な分は揃っているか数えてみる。
     そして特に問題なさそうな事が確認でき、袋を纏めて持って再び冷蔵庫へ仕舞いに行こうとした。

    「おい、これを忘れてるぞ」
     席を立った瞬間、向かいの席に居るスコープに呼び止められる。
     私は全部持ったつもりだったのでその言葉についアレッと口に出しながらテーブルの上へ振り向いた。
     すると、確かにそこには包んですらないチョコレートが一つ置きっぱなしになっている。
    「あぁ、それはいいの。ありがとね」
     そう伝える間にも私は冷蔵庫へと歩きだし扉を開けて適当な場所にチョコを入れた。
     用が済んで閉じられてゆく冷蔵庫から元来た方へ振り向けば、スコープは不可解とでも言いたげな顔で私を見ている。
     そんな様子に自分の口角が上がるのを感じながらさっきの席へと座り直した。

    「これはね~君宛だから今あげちゃおうかなって。ちょっと早いけど君にあげるね」
     はい!とそのまま差し出した──のだが、スコープは険しい顔をして一向に受け取ろうとはしない。
     段々とチョコを持つ手が下がり、間もなく甲へと伝わるテーブルの感触。私は静かにそこへ置き直した。
    「……。甘い物は、嫌い、だったかな……?」
     一応そう聞いてはみたものの、ただ嫌いというにはどうにも違う気がする。次第に不安は加速していった。

    「ほ、ほら……!バレンタインってこう、なんか色々あるし!日頃の感謝みたいなのもあれって言うし?……言うよね?いやどうだったっけ?──まぁ、とにかくそういうのだから、あの、えっと…………」
     なんとかこの気まずさを払拭しようと試みたものの、却って悪化した様な気がする。──実際、私は話してる途中にも気が付けばテーブルの木目を見ていた。

     顔も上げられなければこれ以上場を繋げることも出来ず、今流れている沈黙にただ息苦しさを覚えるばかりだ。
     きっと向こうもそんな風に感じているのだろうか?なんて適当に思考を紛らわせている内、スコープがぽつりぽつりと話し始めた。
    「その……申し訳ないんだが……。受け取ることは出来ない」

     それを聞いた瞬間、何かが小さくヒビ割れる様な音がした気がする。
     しかし音の正体を考えるよりも先にそんな錯覚・・を誤魔化さんと自然に口が動いていた。

    「そ、そうだよね~。ごめ──」
    「ん……?俺が経口摂取はできない、つまり『物が食えない・・・・』とはまだ話した事が無い筈だが?」

     予想外の答えに一瞬固まってしまった。
     どうやらお互いに何かを勘違いをしているらしい、と気付いた事でほんの少し空気が和らいだ様に感じる。
    「えっ?あっ?確かにそれは知らないかも。君が何も食べないのって単に必要ない・・・・だけで、一応は食べれるもんだとばかり思ってたから……」
     ぱっと顔を上げれば途端に目が合った。きっと相変わらず此方を見続けていたのだろう。──それを分かっていた上でもつい、少しドキリとしてしまったのだ。

     勿論そんなことなどスコープは知る由もなく、顎に手を当てながらただ淡々と話している。
    「まぁアプモン俺達は物理的な存在でないとはいえ、問題なく飲食可能な者も多いしな。そう勘違いするのも仕方がないだろう」
    (それならやっぱりサプライズじゃなくて前もって聞くべきだったなぁ……)
     私が内心反省している間にもスコープはそのまま語り続けていった。
    「実際に同種スコープモンでも飲食可能な個体は相応に居る筈だが……、あくまでも俺の場合は無理だ。まず口が無いからな」
    「え?!そうなの!?」

     今まで全く想定していなかった事実に衝撃が走る。
     突然大きな声を出したせいかスコープを驚かせてしまったらしい。きょとりと目を見開いたまま何も言わずに頷いた。
    「じゃあそのマスクの下ってどうなってるんだい?」
     ふと湧いてきた疑問に首を傾げると、スコープは口元を覆うそれをツンツンと指差しながら説明してくれた。
    「別に何もない。これを取ってもただ内部が──パーツや配線等が剥き出しになるだけだが。ふむ、そうだな……これはマスク・・・というよりもカバー・・・の方がニュアンス的には近い。とでも言えば少しは分かりやすいだろうか?」
     どうやら私が思っていた以上にスコープの身体構造は無機的・・・なものであるらしい。
     悩ましげに首を捻っているスコープに何となく分かった旨を伝えたら短くそうか、とだけ返ってきた。途中再び顎にとまっていた手はテーブルの上に下ろされていく。
    「へぇ~そうだったんだ。うわ、ちょっと見てみたいかも……」

     うっかり本音を漏らした後に口を押えても意味はない。反射的に逸らした視線をそろりと戻せばスコープが怪訝そうな目で此方を見ている。
    「そんなに気になるものか?特に面白くもないとは思うんだが……。まぁ、少しだけならいいだろう」
     そう言うと何やら顔の横辺りを弄り始めた。数秒の内にもカチャリと小さな音が鳴り、マスクが外されていく──
    「わぁ……!すごい、本当になんかメカっぽい感じだ!え~?素敵~……!!」
     あらわとなった銀の鈍い煌めきに私は目を奪われた。
     ヒトなら口があるだろう場所にはスピーカーらしき物があり、それを中心に細々とした部品がひしめき合っている。間を走る配線もまた無機質な彩りを添えていた。

    「……そろそろいいか?」
     その一言でふっと意識を戻される。口元から目元に視線を移すとスコープはどこか恥ずかしそうに他所へと逸らしていた。
    「あ、うん。ありがとうね」
     許されたからといって遠慮なく見過ぎてしまっただろうか?いそいそと戻していく様に私はそう感じたものの、それを直接聞く事はしない。

    「まぁ、そういう訳だ。だから俺のはお前が食っていい。……悪いな」
    「ううん、そんなに気にする事じゃないよ。おかげでちょっといい物見れたし──なんてね?」
     不思議そうにしているスコープを見ながら私はチョコに齧り付く。それは他の物と味に差がない筈なのに、何故だか普段よりも特別甘い様な気がした。


    ────


    「なんて事もあったよね~。──君も忘れてないでしょ?」

     自室のテーブルの上には自分用・・・として買ったチョコの小箱。私はその中から一粒をつまんで口に運ぶ。
    「そうだな。……今思えば、随分と惜しい事をしたかもしれない」
    「へぇ?君が食べ物に未練だなんて、意外な事もあるもんだねぇ」
     次のチョコを求めた手が止まる。不思議に思った私は、目の前の箱から左隣に座るスコープへと顔を向けた。
    「……。別にそういう訳じゃない。ただ『データ化しておけば、あれも保存・・できたのだろうか?』と今更思ってな」
    「あぁ成程そういう──……うん??ちょっと待った。スコープ、それはどういう事かな?」
     一度は視線がチョコにまた移ったものの、強烈な違和感によって引き戻される。

     私が見るや否や、スコープはふいと顔を背けてしまった。
    「…………」
     すっかり黙り込んだスコープを静かにじぃっと見つめ続けても、頑として此方を向こうとはしなかった。
    「もう、本当に君ったら……。油断してるとすぐそういうコト言うんだから……!」
     ふつふつとこの胸に湧く感情を抑えることもせず。それによって口端に目端にと笑みが零れているのは自分でもよく分かった。

     昂る感情のままそっとスコープの肩に左手を置き、ゆっくりと身を寄せ距離を詰めていく。
    「私はね、ビターな風味も好きだし、ミルクだって好きだよ」
     更に目を細めつつ太腿へもう片方の手を添えれば、スコープは少し驚くようにして此方を見た。……だが、一向に何かを言う気配はおろか、ただ様子を窺うばかりで特に動きすらしない。
    「ふふ、鈍いねぇ」
     私はそれだけ告げるや否や顔へと迫り、数瞬目を閉じて軽く触れるだけのキスをした。
     そこでようやっと意味を理解したのだろう、見開かれた目は少し揺れている。

    「チョコの代わりに私をあげる。──受け取ってくれるかい?スコープ?」

     ニッコリと笑ってみせると、今度は恥ずかしそうに目を逸らしての沈黙。それが何とも可愛らしく思え、しかし同時に余計焦れったさも覚えてどうしようもない。
     
     そんなジレンマを楽しみつつ私は大人しく返事を待っていた。
     じきにチラと紅い瞳が私に戻り、それから小さく息を吐く様な音が聞こえてきた。
    「…………あぁ」
     相変わらず揺れ動く視線、しかし今度はジッと逸らさずに私を映さんとしているようだった。
    「ふふふ、嬉しいな──」
     響くリップ音。それを合図に私はその身へ絡みついて暫しその抱き心地を味わう。
     存分に満喫した後、いよいよスコープを押し倒しソファへと沈める。覆い被さるようにしてもう何度か口付けを落としていった。


     私だけのダークチョコは食べかけのチョコレートよりもずっと芳醇で、すっかり病みつき。一度その味を知ってしまった以上は他で満足などできる筈もなく。
     はたして先に熱で溶かされたのはどちらだったのだろうか?──そんな些事、既に同じ温度で混ざりあった後では判る筈もない話だった。
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