無限遠「ねぇマイバディ?今度の休みに山行こう。山」
ほろかはなんの前触れもなくテレビから隣に座る此方へと顔を向け、そんな突拍子もない話を持ちかけてきた。
今流れているのは何の変哲もないニュース番組だ。内容も住宅街で何やら事件があり、その犯人の行方が知れないだとかで、これといって山に繋がるような話題ではない。休日の予定を考える穏やかさとはあまりに真逆なものだった。
「……別に構わないが、意外だな」
まるで脈略のない誘いもだが、何よりほろかはやや出不精なきらいがある筈だ。
それ故に他の場所ならばともかく。自ずとその様な場所への興味を示すのがどうにも俺の中では結び付かなかった。
そんな怪訝に思う気持ちが顔に出ていたらしい。ほろかは口角こそ相変わらず上げたままでも眉の方は若干下がっていく。
「確かに私はインドア派だけど、別にそういうのが嫌いって訳じゃないよ?」
「それ自体は知っている。巡に誘われれば快く付き合うしな。だが……今回は違う」
「ふふ。私だってたまには一人で──いや、君とだから二人かな?まぁそこはいいや。ただそんな時もあるってだけだよ。ほんの気まぐれさ」
軽く訳を聞けども違和感は拭い切れない。
……否、寧ろよりハッキリと『何かを隠している』という直感が働いた。
しかしニヤニヤと妙な機嫌の良さからするに恐らく、これ以上は話すつもりがない。故に俺は口で聞くのは無駄な気もし、珍しくじっと合わせてくるほろかの目を無言で見つめ返す。
「──ふふ、ふ……。君には敵わないね。でもホントに何となく、なんだよ?」
案の定、ほろかは耐え切れなかったようで一分も経たない内に目を逸らした。そしてまたいつもの様に視線をうろつかせ始める。
俺がそのまま黙り続けていると、次第に気まずそうに顔を背けてしまった。
かと思えばそろりと此方を見やったり、更には座り直したりなど。いつにも増して落ち着かない仕草を見せる。
「ホントだってばぁ……。本当に『ただ何となく』としか言いようがないの、分かってくれないのかい?」
すっかり困り果てた表情でその身を縮こませている。今度こそもう現時点では情報を引き出せないだろう、俺はそう判断した。
「……。すまない、困らせるつもりはなかった。ただお前にしては珍しいのが気になっただけだ」
「え、あ、うん。まぁ実際その通りだしね。君が気になるのも分かるよ」
特に会話が続くこともなく、ただテレビの音だけが部屋に響いている。
どことなく居心地が悪そうなほろかの様子に俺は薄らと罪悪感のようなものを覚えた。
だが、何と声を掛けたものか考えあぐねている内にも再び此方へニコリ、と。気紛れな微笑みを湛えて俺の顔に触れてきた。
「ふふ、楽しみだなぁ」
確かに今ほろかは俺を見ている筈だ。それなのに俺越しに何処か遠くを見る様な眼をしているのは、はたして気の所為だろうか?
いつものように目の下辺りを撫でる指はそんな疑問を拭い去る──つもりなど無いだろうとは思っているが、つい──。俺はその感触への満足感から思考を止めてしまった。
故に。遠くない未来でこの時の《違和感》こそどんな点よりも追究すべきだったと俺は思う事になる。
────
当日になり、目的地へ来たらしい現在も尚何をするつもりか?その具体的な事は聞かされていない。
あの時から『何かがおかしい』とは思っていたが、やはり。今回の件に関してほろかは不審な点が散見される。
一言出掛けてくるとだけ告げいつもの格好で家を出る際特にそれらしい荷物を持たず。同行者の俺にすら話さなかった目的地はやたらと遠く。道すがら購入したのは飲食物等の他に何故か掘る道具まで──目立つから、と俺に持たせてまで──いたり……等々。
とにかく今日だけでもこの調子で枚挙にいとまがない。
しかし度々ほろかに詳細を尋ねても『内緒』の一点張りで、頑として話さないのだから実に困った話だ。
そんな風に頭を悩ませている矢先にもフラリと、数歩先でほろかがあらぬ方へ行こうとしていた。
「待て。そっちは危ないんじゃないか?」
俺が声を掛ければ、何とも機嫌良さそうな鼻歌と共に枯葉を撒き散らしながら歩く足が止まった。
ほろかは二つに結った長い紫紺の髪を靡かせてクルリと此方へ振り返る。
「大丈夫。ほら、行こ?」
落ち葉をカサカサと踏み鳴らして近寄ってくると、そのまま両手で俺の左手を取りにっこりと笑った。
「何も大丈夫ではない。俺ではカメラも無いこんな場所じゃ何かあった時──」
「大丈夫」
「だが──」
「大丈夫」
まるで聞き入れる様子がない。腕を軽く引っ張り有無を言わさんと、自分と共にこちらへ行かんと、道を外れたより奥深い所へ誘おうとしてくる。
だがそれでも俺に一切動く気がない事を悟ったのか、ほろかは次第に表情を曇らせていった。
「うーん、と。そうだなぁ、君なら正確に風景を覚えてる。その記憶と照らし合わせてけば最悪迷っても何とかなる筈。……だよね?」
アレコレ理屈を並べ立てて俺をテコでも動かそうとしてくる辺り、どうやら全く譲る気は無いらしい。
我儘──それも、恐らくほろかにしては相当なものだろう──を言う姿を俺は今まで見たことが無かった。そのせいかいつにも増して深い溜息が零れてしまう。
「まぁ出来ない事もないが……何れにせよそろそろ訳を聞かせてくれ。お前は一体何がしたいんだ?」
「…………」
ほろかは何も答えずにただ、酷く悲しげに顔を顰めつつも口端をつり上げた。同じくして数秒ほど目を閉じ、間もなく開けどその眼は右下の虚空を見つめ揺れ動いている。
「ほろか」
できる限り優しく名を呼んだつもりだが、少し震えていなかっただろうか?思った通りに発せていたか自分ではよく判らなかった。
──けれども、ほろかはちらと目を動かし俺の顔を見れば少しだけその表情を和げ、じきにゆっくりと口を開いた。
「……隠したいものが、あるの。絶対誰にも見つけられない様にしたいんだ」
「成程。で、それは何なんだ?」
そう聞くとほろかは若干申し訳なさそうな顔でふるふると首を振った。どうやら俺ですら教えて貰えないらしい。
「でも、君にしか、頼めない事だから……──ううん。君じゃないと駄目なこと、だね。コレは」
「……そうか」
沈黙。埋めようともされず場に流れるのは風の音など環境音ばかり。
すっかり静かに落ち着いた空気の中、そのままどちらともなく隠し場所とやらを求めて再び歩き出した。
────
鬱蒼と茂る木々の間を宛もなく。およそほろかの気の向くままに連れられる。
歩けども別段代わり映えのしない風景にほろかは何を思い考えているのか。俺にはてんで見当も付かない。
しかし、チラリと見た顔にはいつもの薄ら笑いに比べやや深めなものが浮かべられている。何がそうも機嫌良くさせているのだろうか──
「ここ。この辺でいい」
不意にそんな風に呟いてほろかが立ち止まった。いつの間にか手繋ぎから腕に抱きつかれる形になっていた為、ほんの少しだがほろかを引っ張る形になってしまう。
「む……、悪い。──で?俺は何をすればいい」
一度辺りを軽く見回しても特にこれといった目印はない。『人に見つかりにくい』という意味では悪くないだろうか?……もし探しに来る事があれば手間だろうとも思うが。
「まずは此処にね、大きめの穴を掘りたいんだ。手伝ってくれるかい?」
「大きめ、か……具体的には?」
「人が入るくらい」
「…………。誰か殺したい奴でも居るのか?」
それを聞いたほろかが地面の方へと向けていた顔を此方に向ける。ぱちくりと二三瞬き、やがてじわじわと溢れ出す様な笑いを漏らし始めた。
「ふふふっ君も随分と物騒な冗談言うね」
「お前の言い方も大概だろう。しかし、本当に何を隠すつもりなんだ?」
「な〜いしょ!……そんな不満そうな顔しなくても、後でちゃんと教えてあげるから、ね?」
「…………ハァ」
俺は仕方がないと言う代わりに、一時的にデータ化させていた荷物を元の状態にしてほろかに手渡した。
しかし、一応は了承こそしたものの俺は微塵も納得などしていない。
──それでもつい流されてしまうのは何故だろうか?
甚だ疑問だが、それはこれから進める作業の片手間にでも考えればいい。
ほろかはそんな俺の胸中など知る由もなく、スコップを地面に突き立てるとあぁ楽しみだ、などと一人悦に入っているようだった。
────
俺とほろかはただの『バディ』でしかない。
又、主従関係と言うにはやや語弊が生じる事もあるだろう(あくまでも俺達の場合はそうだ)。
少なくとも、俺からすればほろかとの関係は対等、状態で言うなら《良好》と認識している。特に大きな問題があったり、ましてや弱みを握られている等といった訳でもない。
故にこんな意味不明かつ、どこか危うい気配すら感じる頼みなど、本来であれば無理に聞く必要もない。
寧ろずっと止めた方がいいと思っている。
──にも関わらず。時に俺は愚直に聞き入れてしまう事があり、正に今回はその最たる例になってしまった。
(……全くもって訳が分からない)
気が付けば日も落ち始め、もう間もなく辺り一帯が暗くなろうとしていた。
「ほろか。これ位の深さならもう充分ではないか?」
俺がそう声を掛ければピタリとほろかの動きが止まる。
「そう……?じゃあ、もう、終わりにしよっか……」
スコップを支えにしながらユルユルと膝を折り、遂にはそのまま蹲ってしまった。
俺は荒く呼吸するほろかへ近寄り、疲労の滲んだその背を軽くさする。
「……少し休むか」
俯く頭が縦に揺れたのを確認すると俺もその場へ座り、ほろかが落ち着くまでの間その様子を見る事にした。
暫くして、ずっと下を向いていた顔がゆっくりと前を向く。ほろかは一度深呼吸を挟んだ後、此方へにこりと笑いかけてきた。
俺はそれを見て相応に回復したようだと判断して立ち上がった。すると釣られるようにしてほろかも共に立ち、そのまま服に着いた土を払い始める。
「急いで帰るぞ、ここからでは家に着くのは既に遅いなんて──」
「帰らないよ」
「──は?」
「もう、私は帰らない、よ」
意味が理解できなかった。
言葉は勿論。俺を見つめながらにんまりと笑みを深める姿も、結局何を目論んでいるのかも、俺は今どうすべきかも。何もかもが考える程に解らなくなり始め混乱を招く。
「お前は、一体何を考えている……?」
何とか絞り出せた言葉を乗せる音は随分と困惑の滲んだものだ、といっそ他人事にすら思う。
それを聞いてにこやかに微笑んだほろかの顔は、場違いにも輝いて見えた。
「そろそろ君に教えてあげるね。……これはね、《秘密の隠し場所》なんだよ」
そう言い終えるやいなや、ほろかは俺の右手を掴んで腕を持ち上げる。
甲の側を上にする形で自らの方へと向けさせ──腕にある銃をその胸元に突き付ける形にすると、そのまま右手はほろかの両手に包み込まれた。
「────」
「ねぇ、マイバディ」
言葉を詰まらせ、ただ己の僅かに震える手元から視線を移す事しか出来ない俺に対し。ほろかはゾッとするほど穏やかな表情で思いの丈を述べ始める。
「埋めるのは全部君任せになっちゃうけど、運ぶ手間くらいは省いてあげられたかな?」
「…………違う、そんな。ほろかお前、これは、違うと……何故……」
「ふふっ。ほら、君が『隠したい』と思ってるものを中に入れようね。でも……その前にちゃ〜んと、ね?」
分かるでしょう?とばかりに目を細め、手には軽く力を込めほんのり握り締める形で催促してくる。
だが当然そんな事は受け入れられる筈もない。俺には意図すら到底測りかねる事態に絶句するばかりだった。
逡巡。俺ならこの手を振り払おうと思えば造作もない。その気になれば、この場から無理やり引き離すのだって可能な事くらい、頭では十二分に分かっていた。
それが出来ない──より正確にはしたくない──からこそ膠着状態に陥り、ただ時間だけが過ぎているのだ。
「そろそろ、腕が疲れてきちゃった……」
先に沈黙を破ったのはほろかだった。苦笑しながら如何にも渋々といった様子で腕が下がっていく。
漸く進展し何とか最悪を回避した安堵も束の間、ふつふつと湧いてきた怒りが口を衝く。
「巫山戯るのも大概にしろ!!」
突然大声を浴びせられたほろかはビクリと肩を震わせる。未だ繋がれたままの手にもぎゅうと力が篭もるのを感じて俺は我に返った。
若干怯えの混じった表情を見てじんわりと罪悪感が滲んでくる。だがしかし事が事な以上あまりそうも言っていられないだろう。
「……、今回ばかりはお前が悪い。何故こんな、こんな事を……?」
「それは……だって、ねぇ?マイバディ?君はさ、形はどうあれ『私のことを隠したい』って心の何処かで思ってるでしょ」
「──そんなことは」
「嘘。もし本当ならどうして今も私から顔を背けてるの?」
その言葉でハッとさせられた。俺はいつ何時もほろかから目を逸らすことなど無いと思っていたのに。
再びほろかへと視線を戻せば何とも不思議そうに首を傾げる。ただじっと俺を見つめている眼、それにまるで内側を覗き込まれる様な錯覚。
「俺、は…………」
不味いことに反論の言葉が一つとして出てこない。『違う』とただほんの一言でも何でもとにかく否定をしなければいけない。決してそれを肯定してはいけない。
けたたましい程の警鐘に反し、思考は空回り続け、唯一浮かぶのは『完全には否定できない』。
否、本当に己を直視するならば──
「良いんだよ、スコープ。君がしたい様にして。他でもない私がそれを望んでるんだからさ」
黙ったままの俺に、ほろかはそんな甘言を囁きながら抱きついてきた。
こんな時ですら顔が見えないなどと、余計な事だけはハッキリ湧く頭のせいで更なる自己嫌悪の念が生じる。
「違う。嫌だ。やめてくれ。こんなの、俺は。違う、違うんだ…………」
音声にノイズが混じる程に今の俺の思考回路は制御不能になっているらしい。だが、当然ほろかはそんな事露も知らず理性を揺さぶり続けてくる。
「いいよ、君ならいいよ。むしろお願い。君にそうして欲しいの」
まるで宥めるように酷く優しい声音。狼狽える俺を落ち着かせんとでもしているのか、ほんの僅かな力で背を叩く手。きっと柔らかな笑みでも浮かべているのだろうと思うと、状況とのチグハグさに尚更気が狂いそうだ。
「頼む。俺は、したくないんだ。お前を手に掛けるなんて……御免だ……」
そう拒絶の意を伝えてほろかの肩を掴み、そのまま離れるように促そうと──
「……あぁ、そこ?」
そんな矢先に、突然気の抜ける様な台詞が聞こえてくる。俺は予想外な反応に思わず固まってしまい、結果的にはただ肩に手を置いただけに留まった。
「別に、そんなの前から解ってたし……。だからコレは無駄になるかもな〜とも思ってたし……。最悪君の心の奥底を知れれば、まだ、それだけでもって……」
「いや、俺は何もそれだけじゃ……。ハァ……」
ほろかは一体今どんな顔をしてそうも困った口ぶりで話してるのやら。緊張の糸が切れたせいか、考えるのも億劫な位にどっと疲れが押し寄せてくる。
「私は『君がしたいように』って言ったんだからさ、好きにすればいいんだよ?例えば私を何処かに閉じ込めたっていいし……」
「──、……」
「君のソレって独占欲かい?私にはわかんないけど、なら人から遠ざけるだけでも……。いやこれは割ともう──」
「ほろか」
自分でも驚くほど低い声が出てしまったがそんな事はどうでもいい。
いい加減顔が見たくて俺からほろかを引き剥がせばやはり、訳も分からずにキョトンとしている。
「お前、さっきの言葉を撤回するつもりは無いよな?」
「……!アハハ!そんなのする訳ないじゃないか……!!」
実に愉快そうに断言する。それがあまりにもいい表情だったものでつい、また収めてしまった。
「そうか。俺は確かに今『確認した』からな」
「全く……君ってば際の際まで優しいねぇ。──いや、成程。よく考えたら逆かな?存外酷いヤツだね……♡」
「些事だな。そんな事よりも俺はお前が満足そうで何よりだ」
苦笑していたかと思えば途端に目を細め、しまいにはクスクス笑い始めるなど。笑顔一つでもなんと忙しない奴だ。俺からすればそういう所も含めて見ていて飽きないのだが。
「ところで、君はこれから私をどうするつもりなんだい?」
首傾げて当然の疑問を投げかけてくる。
だがすぐに答えるのも何だか面白くない気がして少し黙っていると、再度俺の名前を呼ぶことで続きを促された。
「これ以上、誰にも何もお前に関する一切を知られない様に秘匿する」
「秘匿……?どうやって?」
「そう急かさずとも直に分かる」
「そっか」
あえて婉曲的な物言いでぼかしたのに、まさかそんな一言で片付けられてしまうとは。しかし別段悪い気もしない辺り、やはり俺はほろかには敵わないらしい。
(あぁ、俺が今からほろかにしようとする事は本当に許されるのだろうか?)
『全ての情報を独占する為の手段』などほぼ限られている筈だが、当の本人は未だそのことに気付かず。ワクワクとでも言いたげな眼差しを此方に向けるばかりだ。
そんなほろかに対して抱く感情は仄暗いなんてものではない。思わずほろかの両肩を掴む手に少しだが力が入ってしまう。
「これは《お前が望んだことだ》というのを今度こそ忘れるなよ」
──およそ他意の部分に関しては解ってないだろうが、ほろかが頷いた事に変わりはない。とりあえずそれだけでも充分だった。
────
この選択がいつかお互いにこれ以上ない後悔を齎すのは明白だ。
少なくとも俺は既にほろかと出会ったことを悔いている。
(こんな事になるならば、やはりあの時に断るべきだったな……)
暗澹とした胸の内を知らないほろかは、あまりにも幸せそうに──正に満面の笑みを浮かべているものだから、とてもじゃないが俺には言えなかった。
それに今更後悔されて困るのは恐らく俺の方である。『これから一切を俺だけのものにできる』など、まさか叶う日が来るとは夢にも思わなかった。
故に手離すつもりなど毛頭なく、もういつかだって迎えさせやしない。……きっとほろかにとっては後者こそが何より辛いだろうとは薄々解っている。しかし今の俺にはもう許容できない、考えるのも嫌になる程だ。
物思いに耽って未だ何もしない俺にほろかは焦れったさを抑えきれなくなったのか、両手で俺の顔をそっと包み込むとどこか甘ったるい声で強請ってくる。
「ねぇ、スコープ?まだ私を隠してくれないのかい?」
月明かりが照らす笑顔はあまりにキラキラと眩く、暗雲の中でもさぞ輝き放つことだろう。
その光の一部始終を今度こそ見逃すことのないように──いや、有り得ぬ様にしてやるのだ。
これは望み望まれた事なのだから。