永遠より永くあれない「セルって、いつか消えてしまうの?」
わたしの唯一で無二のすきなひと。彼は屍から作られたクローン体で、普通の人間とは違う。
「考えていたの。不老不死はお父様ですら叶えられなかったものだから、きっと違うでしょう。だから心配になったの」
セルの綺麗な瞳を見つめた。彼の隈に触れる。
あなたのその目はいつか光失うものなの?それは、わたしが生きているうち?それともわたしが死んだ、ずっとずっとあとのこと?
不安を含んだ目で見つめれば、茶化さずにわたしを見つめ返してくれた。
「…お父様の血から作られたものだからな。長寿である可能性が高いと思っている」
お前が死んだずっとそのあとも生きているだろう。ぐらり、ぐらり。頭が痺れて熱くなる。
わたしがいない世界で、あなたは生きて、生きて、誰かに出会って。別の人を愛するの?わたしではない誰かと幸せになるの?わたしではない誰かの隣で笑うの?その瞳を向けるの?それを祝福として見送らなければならないの?わたしはそこで終わるのに。
わたしはそんなの耐えられない。
わたしだけのセルであってほしい。
わたしの全部をあげるから、あなたのぜんぶがほしい。わたしが死んだそのあとも、ぜんぶわたしだけであってほしい。
あなたを残していくぐらいだったらこの手で終わらせたい。他の誰かのものになる前に。他の誰かを映す前に。ああ、間違っている。わかっているのに、わたしはずっと変わらない。自分勝手な愛で、想いだ。
わたしの想いはすべて呪いじみたもので間違っているのをわかっていた。だからなにも言えない。普通を知っているから、間違っているとわかってしまう。一緒に暮らして、依存されて。心を抱いてくれて。感情を抱いてくれて。わたしは手に入れてしまった。あなたのせいで独占欲を生んだんだ。セルのせいだ。そばにいれればよかったのに。セルがわたしを受け入れたから。
一生わたしだけ、わたしだけを刻んで。他の誰かなんて入れないで。
こんな想いは伝わっているのだろうけれど、セルの生涯を考えたら、彼の幸せを考えるのなら、そんなことを言ってはいけない。綺麗に愛する方法を知っているのに、わたしにはそれができない。
「わたしを置いて生きていかないで」
ねえセル、わかっているの。
わたしの生涯をかけてあなたのそばにいても、わたしが還ったあと、あなたはひとりこの世界で生きていくの。
たまらなく悲しくて瞳が濡れる。人間の身体で、寿命があって、生き続け、それでもセルのそばで永遠より永くあれないことが。
あなたが好きな永遠を体現できないことが。
わたしの言葉が、ずっとだという言葉が嘘になっていくようで。なによりも悲しいの。ああ、いつかのお父様も永遠を望んでいたっけ。気付けば泣いていた。困った顔をしないで、どうしようもできないわたしをどうか見捨てないで。
「お前が死ぬのなら、僕の命もその時まででいい」
いつもより優しい声が鼓膜に届く。わたしの揺れていた瞳を捕まえるように、真っ直ぐ見つめられる。
え、口から溢れた言葉を掬い上げられる。「わからないか、心中の話に乗ってやると言ってるんだ」と続けられ、そんなの、間違っている。わかっている、それでも止められない歓喜。涙が止まらなくなる。「本当にほんと?」「嘘で命かけるか」おでこをすり合わせて見つめ合った。
ねえ笑わないで、わたしは真剣に悩んでいたの。焼けるような思いでいたの。焦がれていたの。
「っセル、セル」
セルの腕の中に身を寄せた。わたしのいちばんだいすきな場所。
あなたの腕の中で、あなたの隣で、あなたのそば。
わたしの人生に、セル以外はいらない。
なにもいらない。伝えられないほどのおもいをどうしたら伝えられるだろう。
あなたを殺してでもずっとずっとずっとあなたをわたしだけにしてほしい。叶うことならずっとここにいて、外にも出ずに、わたしに鎖だってなんだって繋いで良い。それでもいいから。絶対が欲しい。命が欲しい。あなたのすべてが、ぜんぶが。
外の世界なんてなにも知らなくて良い。すべて捨てて、ずっとここで。わたしにはあなただけ、あなたにもわたしだけ。ああ狂っている。わかっているのに。
あなたの背中にしがみついて、あなたもわたしを抱いて。
「それぐらいには、お前に参ってるよ」
ねえセル、わがままでごめん、あなたを縛ってごめん、けれどあなたがくれた言葉に、この瞬間の安堵に、堪らなくなる。わたしのせいで魂を感じたというあなた。わたしのせいでこの世界に落ちたあなた。ああ、わたしがあなたを見捨てるはずなんてないのに。そんなはず、ないのに。いつだって見捨てられるのはあなたのはずなのに。わたしの執着を受け入れてくれるあなた。いっしょにいてくれようと、わたしの傲慢さに添い遂げようとしてくれている。
わたしだけのわがままじゃないのか。
わたしだけの想いではないのか。
ねえ、セルは幸せ?そう聞きたかったのに。
「わたし、世界で一番幸せ」