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    malcyn7

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    malcyn7

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    遺跡山脈の途中のマリヴァレ

    ブライト王国領内、遺跡山脈──。
    突如始まった魔像襲撃の真実を探るために、稀代のメイジ・マーリンと護衛騎士ヴァレン、聖堂騎士団のテシミアとルシウスは山脈に赴いて調査を行っていた。道中に難民たちに遭遇したり、山脈に住まうメリスやソヨゴ学会の学者たち、その卵であるフィーとの邂逅も経て、少しずつ事の実態が掴めそうなところまで来た。今は彼女らとは別れ、日も落ちてきたので野営地に腰を落ち着けて束の間の休息を取っているところだ。
    思えばユグドラシルでの難民救助がひと段落して、ようやく聖石町に帰れたと思ったら直様いけすかない聖堂騎士たちと共に遺跡調査を命じられ、マーリンもヴァレンも本当に息つく間がない。ホーガンも大事な友と部下に対して、もう少しくらい労いの気持ちを持って貰ってもバチは当たらない気がするのだが。
    そんなことをヴァレンが密かに考えながら、集めた小枝を焚き火に投げ入れた時だ。
    「ヴァレン、少し良いかい」
    顰めた声で呼び掛けられた騎士がそちらを振り向くと、そこには自らの護衛すべき高名なメイジがいる。短い付き合いではありつつも、様々な局面を共に乗り越えてきた自分には、その蒼い瞳が何を訴えているのかが分かってしまって内心苦笑い。しかしそれはおくびにも出さずに一つ頷いた後、ヴァレンは今行動を共にしている二人に一言伝えておく。
    「お二人、メイジ様と俺は少し席を外すよ。すぐ戻るから気にせず休んでいてくれ」
    「そうか、承知した」
    「夜分です、くれぐれもお気を付けて」
    「ありがとう。ロンロンとメイメイちゃんをよろしくな」
    マーリンの可愛い使い魔の二匹は、慣れぬ行軍で疲れたのか丸太に寄りかかって既に夢の中だ。それは正直なところ都合が良かった。幼い子どものように無垢な彼らに、自分たちの爛れた様を見せるのはさすがに気が進まない。
    そんなこんなで使い魔たちをテミシアたちに任せ、松明を持ったマーリンが先導する形で二人は野営地を後にする。煌々と燃えるそれは魔法であるらしく、このメイジの思うままに操れるらしい。魔法使いと言うのは諸々便利だなぁと、物心ついた頃には既に剣を握っていたヴァレンは思う。まぁ人間向き不向きもあるものなのでとその辺は割り切りつつ、今は護衛として周囲への警戒を怠らぬよう務めた。
    「──ヴァレン」
    野営地から数分歩いた頃、マーリンがようやくこちらを見返った。二人は整備された道を逸れ、茂みを進んで立ち並ぶ木々の影に入っている。松明を消して息を顰めて仕舞えば誰にも気づかれることはないだろう。こんな所に連れ込んで、一体何をするつもりなのか──揶揄いがてら聞いてやろうかと思った時、ぐいと腕を引かれて近くにあった大木の幹に背中から押し付けられた。咄嗟のことで受け身が取れず、唐突な衝撃に身を硬くするなり唇を塞がれる。手の早い男め。
    「っ、…荒っぽいのは嫌われるぜ、メイジ様」
    「悪いね、早く君とキスしたかったんだ」
    二度三度、と触れるだけのキスを繰り返された後、一瞬離れたその隙に手荒な挙動を詰れば、悪びれた様子もなくマーリンは笑った。そして再び唇を重ねようとしてきたので今度は手を差し出して静止する。それに反応しきれずに剣だこだらけの硬い掌へキスする羽目になったメイジは、軽く眉を寄せてこちらを恨めしそうに見た。
    「………なんだい」
    「なんだも何もないだろ、俺は今護衛任務中なんだ。君の娼婦として来たわけじゃないぜ?」
    「それはもちろん、騎士として信頼しているよ。だけれど、ユグドラシルでは全然だったじゃないか」
    「そんな悠長なこと言ってられる状況じゃなかったろう?今だって、いつ商会の連中が襲ってくるか分からん」
    「………それは、そうだが」
    いつになく聞き分けのない彼は窘める言葉を聞いて珍しく不機嫌そうな表情を見せる。そんなに溜まっているのだろうか。
    (…まぁ確かに、森で死ぬかと思ったと言っていたしなぁ…)
    マーリンの言葉で思い出すのは、事の発端である聖石町での魔像の襲撃直前までの状況だった。自分のいない間の話を簡潔に聞いたところ、やはりブラックゴールド商会が一枚噛んでいたらしく、彼やヴェルディア連盟の諸君は生命を脅かされる事態にまで追い込まれたらしい。
    ──生き物と言うのは人間を含め生存本能があるので、そのように追い込まれれば誰かにその恐怖をぶつけたい、或いは守られたい欲求が高まるのはヴァレンは身をもって経験済みだ。…それが稀代のメイジにまで当て嵌まる理屈かと問われたら、まぁ微妙なところではあるのだが。
    (…おまけに、今回の件もなし崩し的とは言え、将軍の命には違いない)
    元を正せば自らの上司の頼みを聞いてくれた故のこの事態。いつも涼しい顔のマーリンにだって、ストレスが掛からないわけもなく。その発散に一役買うのもまた、護衛たる自分の仕事の一つだと思えば──許容の範囲ではある。
    そこまで考えたヴァレンは一つ溜め息。そんな仕草に気付いてこちらを伺うように見たメイジに妥協案を一つ提示する。
    「…分かった、魔像の件が片付いたら君のために時間を取るから。……だから今は〝お手伝い〟するだけで許して貰えないかい」



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