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    鶯時-おうじ-

    @koyadoo

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    鶯時-おうじ-

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    3人が、3人の生活をはじめたばかりの頃のお話。

    あたたかい光の戻る場所 美しい二羽の小鳥を飼っている。小さな籠の中で、優しく愛でる。一羽ははじめ、もっと大きくて立派な籠の中で育てられていた。立派な籠は小鳥に相応しいほど美しかったが、その籠は他人の物だった。俺は他人の籠で、小鳥を愛でない。眺めるだけでいい。‘アレク’は自分の籠の中で愛したい。
     一羽は俺の周りを元気に飛び回り、もう一羽は指の上で優しく囀る。この鳥は嬉しそうに体を膨らませて、期待で羽を震わせた―――。
     朝。まだ青さのない白じんだ空が薄いカーテンの隙間から見え、コマドリの囀りに耳を傾けながらソルはそんな物思いに耽っていた。小鳥は好きだ。ふわふわの羽毛に包まれた可憐な生き物。小さな翼をはためかせ飛んでいく、その身体からは想像もできない美しい声で歌う。
     薪を割る乾いた音が響き、コマドリの囀りは途切れた。
     小屋を出た傍にある薪割台の前に立っていたのはフェルナンド。肌寒さを覚える季節だというのに、薄手の木綿のシャツを着ている。引き締まった胸元は、一連の運動によってじんわりと火照りはじめていた。彼は口をつぐんだまま、眼前に広がる‘庭’という名の開けた草原を一瞥し、足元の薪に目を落として斧を振り下ろした。
    「上手なんだね」
    目を上げると、少し離れた草むらの上にしゃがみこみ、アレクがこちらを物珍しそうに眺めている。
    「薪割りやらないのか?」
    アレクは朝露に濡れる草を指先で撫でたり押し上げたりしながら、首を傾げている。
    「薪は買ってた」
    「・・・そうなんだ」
    お互いのことをまだよく知らない。この少年と出会って数日も経っていないから、距離の縮め方に困る。アレクとは友達になれるかどうかはまだ分からない。ただ、ソルとはもう十分仲が良いようだ。一日おきに夜な夜な彼の元に会いに行っていたなら当然か。
    「・・・割らないの?」
    草原にちょこんと腰を下ろしたままのアレクが、少し不満そうに呟いた。
    「あ、ああ」
    ナノが薪を割る音を心地よさそうに耳を澄ませている。・・・変わったやつだな。
     朝日が薄い雲の間から抜け出し、草原に光を落とした。金の髪が陽光にきらめき、白い肌はそのまま空気と一体になって溶け去っていくようだった。光の中この少年は瞳を閉じて、浅い深呼吸と共に、微笑した。

     「今日の稽古はどうしたい?」
    扉の前にもたれながら大ぶりのトマトを齧るソルに対し、麻ひもで括った薪を両手に持っていたナノが立ち止まる。
    「それ、朝飯のやつでしょう」
    「あまりにも美味そうだからつまみ食いしてる」
    ゆったりとした寝間着のシャツに、こげ茶のガウンを羽織ったソルがおどけた表情を見せる。彼はまだ気怠そうな目をしていたが、いつになく気分が良さそうだ。薄紅色の長い髪は軽く梳かされていたが、編み込みとビーズは、まだない。‘まだ’というのは、彼のこの‘髪弄り’のせいでナノが様々なシーンで待たされることがあったからだ。一晩中、あのビーズの髪飾りをつけたままの時もあれば、数時間で解いてしまう事もあった。編み込みにかける時間も量もその時の気分次第。彼の気まぐれにナノはよく振り回されている。
    「・・・弓がいいです」
    フェルナンドは少し考えてから口を開いた。
    「名案だ。そのまま夕飯の材料も調達できそうだしな」
    ソルがまたトマトに齧り付いて、頷いた。
    「3張用意するんだ。予備の弦と、3人分の十分な矢を用意」
    「え、3張?」
    「アレクも参加する」
    二人の視線の先には、淡い光を帯びながら幸せそうにうずくまっているアレクがいる。薪割りさえできない奴なのに・・・俺の稽古に混ざるのか、とナノは心の中で小さくため息をつく。だが師匠の言葉には逆らえない。きっとソルにも考えがあるのだろう。マイペースで、自己中で、ふざけてよく冗談を言うような人だけど、彼の実力は、心の底から尊敬に値する。現に彼の言う通りにするだけで、腕前はめきめきと上達している気がする。
    「おはよ、ソル・・・」
    「こんなところに座り込んで、なにか見つけたのか?」
    顔を上げ無垢な表情を見せたアレクの目には、夢の中を泳いでいるみたいな陶酔の色がわずかに含まれていた。指で露を弾いて遊んでいたせいで、袖がところどころ濡れてしまっている。着ていたガウンをアレクの背中にふわりと被せてあげると、少年は嬉しそうにソルの首に両腕を絡めた。
    「淡く発光していて、朝日に祝福されているように見えた。お前は地上に降り立った天使そのものだね」
    抱き抱えられ、ふわりと浮かぶ四肢。耳元で囁かれる言葉は木立を通り抜ける柔らかい息吹のよう。
    「詩人みたい」
    クスクスと笑い、ソルの長い髪を、指で弄る。その手つきには独特の艶めかしさがあった。
    「眠いのか?まだ」
    「ううん・・・ただ」
    「ただ?」
    アレクのうなじからお気に入りの香油の香りが鼻をくすぐった。思い出される夜の情景。ソルは静かに喉を鳴らし、こみ上げる獣の欲を紛らわせるべくアレクの頭にそっと接吻を落とす。ソルの秘めた熱を感じ取ったかのように、アレクは目を上げて再び笑みを浮かべた。その笑みは決して年相応のものではない。
    「昨日みたいにするの? 今日も」
    期待も不安もない瞳。なのにそれは、磨かれたサファイアのようにこの上なくきらめいている。
    「嫌ならそれでいい」
    ―――うそだ。
    「俺の口から言わせたいんでしょう、ソル」
    挑戦的な瞳は、全てを凌駕していた。
    「いじわるなんだね、ほんと」
    ソルの手に持っていた齧りかけのトマトをさらい、小さく開け放たれた口に運ぶ。その扇情的な薄い唇に知らないものはない。

     冬の陽光が木立の間に差し込む様は、束の間の暖かさを含んだ金のビロードのカーテンのようで、ソルとフェルナンドとアレクは、その光のカーテンの中をかき分けるように歩を進めていた。葉の落ちた針葉樹は地面からの伸びた煙突のように黒く真っ直ぐに伸びていて、地面はところどころ低木と枯れ葉で覆われていた。
     朝食を済ませ、庭で軽く弓を扱ったところで、少し早めの狩りに出かけることにした。今日は戦闘訓練というよりサバイバル的な趣旨に近いものとなった。歩みを進めながらソルは、ナノにあらゆる知識を分け与え、時折実践を交えながら行った。
    「やはりお前は、いい筋をしているな。俺がお前くらいの時なら足元にも及ばんだろう」
    「目がいいだけですよ」
    こげ茶の髪を揺らし、少し照れくさそうに振り向くナノを見てソルが声を上げて笑った。金の陽光がナノの碧の瞳に入り込み、眩しそうにはにかむ。
    「かわいくないやつめ。そのまま俺を越えて行ってくれ」
    どこか慈しみのある声色だったので、冗談で言ったのではないと静かに悟ったナノは何度か瞬きをして返した。
    「越えられるなら越えたいよ」
    そう言って、すぐに踵を返して矢を回収しに行こうとする。これはナノが照れている証拠だと知っている。
    「それこそ俺が求めてる強さだ」
    ソルはその背中に向かってはっきりとした口調で答えた。まだ少年だが、戦いに向き合う準備が整いつつある男の背中に見える。
    「・・・アレク!フェルナンドは頼れる男になるぞ」
    にいっと白い歯を見せながら、ソルがアレクのほうに振り返る。彼はだらりと肩を下ろして、深々と倒木に腰かけていた。背中には弓と矢筒を背負っているが、まるでおもちゃのような見せかけに成り下がっている。
    「ふうん、良かったね」
    まるで関心のない返答。
    「俺も頼れる男になろうかなぁ」
    無関心を畳みかけられて、ソルが苦笑した。
    「もうだいぶ遠くまで来たよね?・・・ちゃんと帰れるの?」
    「俺に任せろ。アレク、疲れたか?」
    まるで幼子をあやすみたいに、片膝をついて目線を合わせる。ソルが持ち合わせるだけの最大限の慈愛を込めながら。
    「俺さ」
    少し間があった。
    「なんだ?」
    「・・・剣が良かったな。」
    ・・・触れそうで触れない、まるで、高価な人形でも愛でるような手つきで、アレクの金の髪をわずかに指に取る。それを見、それからゆっくりとアレクの細めた瞳に視線を戻し、ソルの口元は徐々にほころんでいった。
    「そうだな・・・」
    まるで夢の中で現実だと実感しているような恍惚とした表情。
    「明日は必ずそうしよう。 お前が望むなら」
    それを聞いて、アレクがわずかに微笑んだ。
    「歩き疲れたよ。一昨日みたいに本を読んでお留守番していれば良かった」
    「アレクがそう望むなら、もう帰るか」
    そう言って、不機嫌な少年の腕をそっと持ち上げる。
    「帰る? これから狩りだろ?」
    片手に矢束を持ちながら、戻ってきたナノの声が背後から聞こえる。
    「アレクが帰りたいって言ってるから帰るぞ」
    「もう歩けないの。おんぶしてよ」
    唇を尖らせながら、ソルの腕を引っ張ると彼は言われたままにしゃがみ込んだ。
    「ほら、引き返すぞ。ナノ」
     アレクをおんぶしたソルを先頭に、その数歩後ろをナノが、風が止んで恐ろしいほど静まり返った林を歩いている。
     景色を眺めていたアレクがふいに、ソルの肩を掌で叩いた。
    「ね!あれ見て!」
    視線の15メートルくらい先か、動めく小さな影を見た。
     シーシーシーッと言いながら素早くソルが立ち止まる。
    「ナノ、見えるか?デカい野ウサギだ」
    彼が言い終える前に、弓を素早く横につがえてソルの指さす方向を確認する。フェルナンドは獲物を見つけると、身を屈め狙いを定めた。ウサギは油断しきっているのか、こちらの方向へ飛び跳ねてくる。
     息を止め、指を離す―――。
     ナノの放った矢は見事ウサギに命中し、反動で無惨に後ろへ転がる様を見たアレクが声を上げる。
    「うわ、かわいそう・・・」
    「よくやったアレク」
    怯えるアレクをなだめるように、ソルが囁く。それから、ウサギの元へ向かうナノに向かって声を張り上げた。
    「フェルナンド!上出来だ!」

     黄昏時の空にはいつしか羊の群れのような雲が飛び散り、日差しは陰りを見せはじめていた。暖炉には火が焚かれ、鍋に湯を沸かし煮込みの準備をする。フェルナンドとソルの間では料理当番が存在していたが、アレクが加わってからは3人がそれぞれ協力して夕食の準備をするようになった。アレクは料理が好きみたいだった。普段は放漫で我儘なアレクでも、手の込んだ料理の時だけはテキパキとこなすのだ。
     フェルナンドは閉まっていた道具を取りに、アレクは薪を補充しに、小屋の裏手にそれぞれ向かったところで、ばったり顔を合わせることになった。
     フェルナンドは少し睨むようにして、黙ったまま目を逸らした。アレクはそれが気に食わなくて、逆にナノをじっと見つめた。
     沈黙が訪れる。口をつぐんだままのナノがそのまま踵を返すと、アレクはムッとして手に持った薪でナノの背中を小突いた。
    「! なんだよ・・・」
    呆れと、少々の苛立ちが混ざった返答。
    「こっちが‘なんだよ’」
    アレクも負けじと口を開いた。またもや、ピリッとした沈黙が空気を支配する。
    「・・・・・・。」
    アレクにべったりのソルもいないことだし、いい機会だ。ナノはアレクの方へ向き直った。
    「昼間の稽古。興味ないなら、無理についてこなくていい」
    ぶっきらぼうな言葉がぶつかってくる。
     言葉の強度に耐えられなかったみたいに、アレクは身を揺らした。
    「俺は邪魔だった?」
    その返事は少しかすれて弱々しい。
     意外にも、帰ってきた言葉は少し悲しげで、ナノは堪らず顔を背けた。
    「邪魔なんかじゃないよ、別に・・・。そういうんじゃない」
    ゆっくり視線を戻すと、アレクの瞳には不安の色が滲んでいた。
     孤独に〝される〟ことを、最も恐れている目だった。
    「・・・俺は。 ・・・俺は、本気でやってるんだ。 師匠と二人で。お前を助ける前からずっと」
    対して、フェルナンドの瞳に宿っているのは闘志の炎。
     未成熟でも、追いついて、追い抜こうとする不屈の精神がある。
    「・・・アレクって、戦い向きに見えないから。稽古したくもないのに、ソルに無理矢理連れてこられているんだったら、ちゃんと断れ」
    アレクは下を向き、それから顔を上げた。
    「稽古はしたいけど、弓って気分じゃなかったんだ」
    「・・・え」
    呆気にとらわれる。呆れを通り越して、ナノは少し笑ってしまった。「・・・我儘にも程があるぞ」
    「ごめんね。」
    アレクが寄り添うようにナノの隣を歩き出す。
    「・・・。どうやったら、そんなにあの人と仲良くなれるんだ?」
    なんてことない問いかけ。しかし彼が喉の奥から押し出すように言ったのを、アレクは聞き流さなかった。
     空を見上げると、一番星が輝き始めている。
    「・・・ナノは、ソルの事、好き?」
    「好きじゃない」
    早すぎる返答に、今度はアレクが笑う。「それじゃあ、ずっとそのままだよ」
    「まずは好きになって。その人のいいところが沢山見えてくるから」
    うーん、と唸るナノを横目に、ようやく笑ってくれたな、とアレクは胸をなでおろした。
    「・・・やっぱり、今のままでいい」
    好きになったら、俺はきっと全力を出せなくなるんだ。
     全力を出せているから、ここまで来れているんだと思う。フェルナンドは心の底でそう答を得た。
    「・・・あんな遠くのウサギを一発で仕留めるなんてすごいな!」
    「いつもなら外してるよ・・・!」
    ―――今夜はご馳走だな。
     二人の少年は薄暗くなった庭を笑い合いながらぐるぐると駆け回り、やがて、オレンジの光が灯る小屋へと戻って行った。そこはとびきり暖かくて、美味しそうな匂いに包まれていた。
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