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    SOUYA.(シメジ)

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    SOUYA.(シメジ)

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    📕彼ただ
    TwitterSS供養。完結させてるの珍しいな…。
    美冬の一人称間違えてるのはしれっと修正しました。

    ##彼ただ

    「何か、聞こえませんか?」
    ある日の夕刻頃、美冬君がそう言った。何かと聞くと「歌のようなものが聞こえます」と僕も耳を澄ましてみるけれど何も聞こえない。聞き間違えじゃないかな、と首を振ればそうですかね、と寂しそうに居間の本を片付ける彼に僕は立ち上がって書斎に籠る旨を告げた。

    歌……、歌ねぇ……。
    そう言えばこの時期だった気がする。涼夏と共に妖怪退治に行ったのは。歌で人を惑わす妖怪で彼女に悪意自体は無かったけれど依頼だから、と涼夏は彼女の声を奪った。暫くは大丈夫だろう、なんて哀しそうに微笑んでいた彼だって本当は奪いたくなんてなかったんだろう。

    暫くは、だなんて。自分が奪った声の先に居ないって言うのになんて無責任な師匠なんだと思わず八つ当たりしそうになる。寸で思い留まり、息を吐いた。
    兎に角、美冬君に聞こえて僕に聞こえないっていうのはどうしたらいいのかな…。僕はあの時、涼夏が依頼を受けた時、何をしていたっけ。

    ―――――――――・・・。
    「秋彩、お出掛けしようか」「はあ?」怪訝そうな顔をして涼夏の言葉に答えた秋彩は既に外出用の着物を用意している彼に近寄った。
    「出掛けるって何処にだィ」「少し厄介な依頼を受けてしまったんだ」そこまで言ってから休みたいだなんて言った涼夏に秋彩は冷めた目を向けた。

    そうして涼夏に手を引かれるままに連れて行かれた先は異様な雰囲気のする街だった。秋彩は自分の側を通る街人とふよふよと漂う霊魂に気味悪さを覚えて涼夏の着物の裾を掴んだ。
    「ふふ、離れないようにね」「迷子になんてならねェよッ!」
    涼夏は町長と思しき男と話していた。

    話が終わるのを待っていると何やら楽しげな歌が聞こえてきた。街の子供が歌っているのだろうか、と見渡すが子どもの姿どころか先程まで歩いていた街人も漂っていた霊魂すら見当たらなかった。歌は終わること無く続いている。不思議に思い、涼夏を見上げると苦しげに眉を寄せていた。

    「な、何でィ、どうしたんだよッ!?」焦る秋彩にシャンっと錫杖を鳴らした涼夏は頭を振り、いつの間にか蹲っていた町長を立ち上がらせる。
    「そうだね、確かにこれは『人間には』キツいかもね・・・秋彩は何とも無いんだろう?」
    問いに頷いた秋彩に涼夏はもう一度更に大きく錫杖を鳴らす。

    「さて、参ったな」
    先程よりかは随分と楽になったような顔をして涼夏は周りを見渡す。どうやらこの歌を奏でる『何か』をどうにかしに来たらしい。人間には、という言葉に秋彩は自分の身体を見下ろしてみる。神の子、嫌な“レッテル”だと思っていたが便利な事もあるらしい。

    「という訳で秋彩、血を少しくれないかい?」「何が『という訳』なのか教えろィ、ただじゃあやれねェぞ」
    にこやかにそう言った涼夏に虫けらを見るような目を向けた秋彩。話の流れからして血の用途は妖怪退治に使うのだろう。ハグレと言えども神の血。覚悟半分に使えば大変な事になる。

    「勿論、使い方は心得ているさ」
    生きてきた年数は明らかに秋彩の方が上だが、知識と経験は涼夏の方が遥かに上だ。そんな事秋彩だって知っている。その事実にすら腹が立つのは敵わないと分かっているからだろうか。いいや、きっと。生きてきた今までが無駄だったと再確認されるのが嫌なだけだ。

    「……。悪気のない妖怪を退治するのはね、一瞬でなければ心が痛くてやってられないんだよ」
    子供みたいな理由だな、と秋彩は思った。思ったけれど口には出さなかった。その言葉の意味をこの幼い神子は知っていたから。
    秋彩はす、と涼夏の方へ腕を差し出した。

    「有難う」と言って涼夏は秋彩の腕を優しく触る。痛くない。人の子よりずっと痛みに鈍感だからだろうか。……そういう事にしておこう、と秋彩が一人で納得した時に涼夏がよし、と言った。
    そちらを見遣れば細長い瓶の中に少し色の薄い血が入っていた。

    あまり見たくなくて視線を逸らした秋彩は視界の端にふわりと舞う白装束を見た。反射的にそちらに目を向けた秋彩は咄嗟に涼夏の裾を掴んだ。
    それに気付いた涼夏は秋彩の視線の先を見遣った。くるくると笑いながら唄を歌う妖がいた。
    「……見つけた、」
    どうやら目の前の彼女こそが退治対象らしい。

    『私の唄、どう?綺麗でしょう?』と悪意のない笑顔で言った彼女に涼夏は微笑んで首を振った。彼の答えに彼女はきょとんとした。何を言っているのか、と本当に思っているようだ。
    『母様も父様も兄様だって私の唄は綺麗だと褒めて下さったのよ?』
    それは、彼女の血筋が妖だからだろう。

    『人間は、どうかな。君の唄を褒めたろうか』涼夏は出来るだけ言葉を短くして妖に問うた。妖は暫く考えてから『そう言えばヒトは私を褒めなかったわね』と言う。彼女は夢にも思わないのだろう、人間が自分の唄で苦しみ続けているという現実がある事を。

    『そう、それが答えだよ』
    涼夏がそう言った直後に彼女の足元に結界が浮かび上がる。驚いた彼女が身を引こうとすればそれを結界から喚び出された蔓が動きを封じた。
    『僕が、人間だから上手く処理出来ないのかもしれない。だけれど、ヒトである以上は君の声を奪うしかないんだろう』

    ――――――――――――。
    「秋彩さん、お客様ですよ」
    美冬君の声に目を覚ます。どうやら書斎で居眠りをしてしまったらしい。
    「ンー、っと。お客様?今日はそんな予定無いはずだけれど」
    伸びをしてからそう答えると「急ぎの用らしく、事前連絡し忘れたと」美冬君も首を傾げる。

    基本、神社に訪ねてきたヒトや妖怪の接待をするのは弟子の役目。前日の夜か明朝に手紙や式で連絡を受け取り、その日の予定に組み付け、弟子に伝えるのが神主の勤めの一つ。美冬君はもう何年も弟子をしているし、今日の予定も覚えているはずだから疑問に思うのも理解出来る。

    「見たことあるヒトだった?」「いいえ、ですが俺の名前も知ってらっしゃるようで」美冬君がそこまで言ったところで立ち上がる。相手が誰であろうと訪ねてきた人を待たせてはいけないからね。
    美冬君が見覚えのない…でも名は知られている…美冬君は賢い子だから記憶違いを起こす子じゃないしなぁ

    そうして美冬君にお茶の用意を任せてからお客様の元へ向かう。
    ……、嗚呼。美冬君と共に来なくて良かった。
    『貴方が、秋彩?貴方が、今の四季?』
    遠い記憶にある、綺麗な唄の彼女が憎悪を滲ませてそこに立っていた。美冬君に僕を連れてくるよう頼んだくらいだから理性はあるようだけれど…参ったな

    僕はスッと神社に霊力を送り込む。すると全ての障子や襖が勢いよく閉じた。これで美冬君は安全だろう。しかし本当に参った。僕はまだあの時涼夏がなんと言っていたのか思い出せないというのに――。
    『私の唄声、返して。私の綺麗を返して!』
    どうやら唄声は戻ってこなかったようだ。

    何年声が奪われていたのかは分からない。分からないが唄い続けていなければその分唄えなくなってしまうのはヒトも妖も変わらないらしい。
    「残念だけれど僕は返せない。君の声を奪ったのは僕ではないから」
    無責任だと言われても、憎まれてしまってもこれだけはどうしようもないのだ。

    “彼はもう、この世のどこにも居ないのだから”

    『そんなの知らないわ!返して!』
    喚き立てるようにして暴れる彼女はただ返してほしいだけ、だとは思えなくなっている。その気持ちの中に明らかな悪意を持って僕に攻撃しようとしているのだから。
    「唄えばいいんだよ」
    「唄ってあげればいいんだ」
    「それが人間でなければ誰も咎めない」

    涼夏の声が、聞こえた気がした。
    唄う……。
    「声を失った後でもいい。声が戻った後でもいい―――。
     
    「人間に聞かせなければいいんだ」」
     
    嗚呼、思い出したよ。涼夏。
    御前は…彼女の声を奪った後、そう呟いていたね。その呟きが彼女に届いていれば彼女が悪意を持たずに済んだのかもしれないね

    だけれど幾らたらればを唱えたって仕方ないんだよ。御前は居ない。ここの神主は僕だから。
    『え?』「今からでも唄えばいい。僕の師が考え足らずで申し訳なかったね。君の唄声は僕には綺麗なものに思えたよ」
    そう言えばぽろぽろと零れ落ちる涙に少し紅潮した頬。興奮するとそうなってしまうよね。

    何か飲ませてあげないで大丈夫だろうか、叫んだ後だと思うように唄えないと思うし…。と、あれ?
    「居ない…まぁ納得したのならいいか」
    そこまで考えてもう一度神社に霊力を送る。ススッとゆっくり開く障子や襖。僕はタイミング良く入ってきた風に目を細めた。

    「秋彩さん!急に障子が開かなくなって!大丈夫でしたか!?」
    「急に立て付けでも悪くなったんだろう。遅いから心配してたんだけど何も無かったみたいで安心したよ。ああ、そうそう。お客様ならもう帰って――美冬君?」
    「何か俺に隠し事してます?」
    おや、やっぱり騙されてはくれないか。

    「秋彩さん、気付いてないかもしれないですけど今“しまった”って顔しましたよ」
    「見間違いじゃあないのかい」
    「いいえ。これでも視力も反射神経も良い方です。そりゃ、危ない事をする時は俺が居ない方がいいかもしれませんがね、」
    こりゃあ参った、長くなってしまうな。

    「ちょっと秋彩さん。どこ行くんです」
    「いいや、どこにも行かないよ」
    「…………」
    「そんなにじっと見つめられては恥ずかしいよ、美冬君」
    どうにかして先程の事象の説明をさせたい美冬君だけれど、どうやら時間切れのようだね。
    「おや、酔っ払い十又のお帰りだね」

    「あっ!十又さん!またこんな昼間っから呑んで!」
    「ふにゃぁ~、妖精の酒はどれも強くて最高じゃわ~い」
    さて、酔っ払い爺は美冬君に任せて僕は伊苅の報告でも聞きに行こうかな。
    今日は、涼夏とのあの日々をまた一つ思い出せた、…少し気分が良いね…なんて。

    昔の僕が聞けば苦虫を噛み潰したような顔をするんだろうな。うんうん、それもずっと懐かしい。…いつか、そんな思い出に浸りながらゆっくり眠る事が出来たなら…その時は、嗚呼、今はあの子達を守る事を考えよう。
    さて、今日も神主業に励もうかな。
     
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