半自動サぐ♀①「やはり、私に触られるのは厭か」
「ち、ちがうの、そうじゃなくて……」
わたしは顔を真っ赤にして首を横に振った。
「他の人にはこんなふうにならないから……恥ずかしいだけで……」
サリエリさんに目を覗き込まれているだけで、心臓が破裂するくらいにうるさくなる。
「では慣れればよいのだな?」
「えっ!?」
聞き返す間にも顔が近づいてきて、気づいた時には唇同士が触れ合っていた。
(サリエリさんと、キスしてる……)
息の仕方なんて分からない。手の置き場さえ。ただ、力が抜けそうになるのに慌てて、彼のストライプスーツの腕にすがっていた。
頭がぼうっとしてきた頃、静かに唇が離れていった。最後に親指がそっとわたしの唇を撫でていく。
「……こういうことはあまりしない方がいい。嫌なら拒絶しろ」
突き放すような言葉なのに、その声はとても優しい。
「だって……いやじゃ、ないよ」
わたしの言葉を聞くなり、彼は少し困ったように眉を下げた。そして、もう一度軽く口づけてくる。
「お前の気持ちを確認しておかねばならない。立香。お前は、私が望めば受け入れてくれるのか?」
わたしは彼の胸に頬を寄せたまま小さくうなずいた。
「それならばいい。だが、忘れるな。私は男だ」
「……うん」
サリエリさんの指先が、背中に回る。そのままゆっくりと押し倒された。
(どうしよう……。まだ心の準備ができていないんだけど……!)
それでもやっぱり拒む気にはならなかった。
手のひらが頬から首筋に下りてくる。セーラー服のスカーフの端が、しゅるり、解けて遠ざかっていく。手のひらが頬から首筋に下りてくる。セーラー服のスカーフの端が、しゅるり、解けて遠ざかっていく。ブラウスのボタンを外されて、ブラジャーの上端に手がかかる。
ふと、サリエリさんの動きが止まった。どこか戸惑っているような気配を感じる。
「あの、どうかしたんですか? ……ひゃっ!?」
急に脇腹に触れられて思わず声が出た。
「この傷跡はなんだ?」
胸元にあったはずの手がいつの間にかお腹まで下ってきている。くすぐったさに身悶えていると、手はそのままするりとスカートの中に入ってきた。
「ここもだ。古傷と言うほどではないが、ただの怪我とは言えないだろう」
「お腹のは、まあ、ちょっと色々あって」
「その調子では、レポートを読めば全て分かるな」
溜息にも近い低い声に、わたしは慌てて顔を上げた。
「時間はかかるけど、綺麗に消えるから平気だよ」
「そういう問題ではない。が、今は目を瞑ろう」
言うなり、また顔が近づいてくる。今度は舌先で舐められて、ぞわりとした感覚に襲われる。
「ま、待って……!」
思わず両手で肩を押し返していた。けれど赤い両目は見透かすようで。
「本当に駄目なのか?」
見上げるようにして訊ねられれば、首を横に振るしかない。本当はもう少し時間をかけて……頼んだところで、聞いてくれるかどうか。
「ねえ、サリエリさん?」
わたしは自分のシャツの襟ぐりを引っ張って、鎖骨の下あたりを指し示した。
「ここにキスマークつけてくれないかな。マーキングっていうの?」
「……ああ」
短い返事とともに、ゆっくり顔が近づいてくる。思わずごくりと唾を飲んで動いた表面に、上手く間を縫って、ちくりと痛みが残る。
「これでいいか?」
唇が離れてすぐに尋ねられる。少し心配そうな表情に、わたしは深くうなずいた。
「ありがとう。嬉しい」
「そうか」
ほっとしたように微笑んで、サリエリさんはわたしの隣に身を横たえた。
「今夜は、ここまでにしよう」
「え?」
「もう急ぐ必要もないだろう」
(それはそうだし、確かに助かるんだけど)
拍子抜けしているうちに、大きな腕が伸びてきて抱きしめられた。
「あ……」
「立香。私はまだ諦めていない。お前の心が決まる時を待つ」
耳元で囁かれる言葉に体が熱くなる。
「だから今宵はこれで終わりだ。ああ、隣で眠ることは許してくれるか」
「……うん」
少しだけ身を離して答えると、彼は安心したように目を閉じた。
(わたし、ちゃんと応えられているのかな)
そんなことを思いながら、わたしもまた目を閉じる。
今日一日で色々なことがあった。それでも、こうして好き同士だと分かった今は――あなたもわたしを想っていてくれると知れた今日という日は、きっと特別な記憶になるはずだから。
終