ほぼ半自動サぐ♀「おやすみなさい、サリエリさん」
「ああ、良い夢を」
その言葉を最後に扉は閉じられる。忘れずにロックを設定してから、寝台に飛び込んだ。
「……」
…………眠れない。
目を閉じたって、眠気はちっとも訪れてくれなかった。だって今日は色々ありすぎた。
明日になったら全部嘘だったなんてことは?全部現実だと言い聞かせられずに、枕をぎゅっと抱きしめたまま何度も寝返りを打った。その時――ノックの音が響いた。
「誰?」
起き上がると、もう一度ドアが叩かれた。こんな時間に誰が来たんだろう?予感しながら問いかければ、向こうからはおやすみを言ったばかりの彼の声。
「まだ起きているか、マスター」
「うん、どうぞ入っていいよ」
そう言えばするりと扉が開いてサリエリさんが入ってきた。さっきまであんなに寝付けなかったのに、彼が来ただけで少しだけ安心してしまう。
「何か忘れもの?」
「いや、大した話ではないのだが……」
珍しく歯切れの悪い物言いで、彼は言葉を濁す。そしてこちらを見つめて、
「……先程はその、すまなかったな」
「えっ」
いきなり謝られてびっくりしてしまった。何のことかわからなくて首を傾げていると、彼は続けた。
「おまえには悪いことをしたと思っているのだ。我のせいでおまえの平穏な日常を奪ってしまった。だから……せめて償わせて欲しい」
そう言って差し出された手の中には小さな箱があった。
「これは?」
「開けてみるといい」
言われるままに蓋を開けると、中には宝石のついた指輪が入っていた。
「これって……」
その意味が解らないはずもないのに、聞き返さずに居られない。元から真面目な性格な人だとは知っていたけれど、こんなもの、いつのまに用意したんだろう。
「どうか受け取って欲しい。本来ならもっときちんとした場所で渡すべきだったが、時間がないので許してくれ」
時間がないとはどういうことだろうか。まさか今からどこかへ出かけるつもりなんだろうか?そんな考えを読み取ったようにサリエリさんは言った。
「我と共に来てくれないか」
それは紛れもなく、わたしたちの未来を選択するための言葉。
「一緒に逃げよう」
まるでプロポーズみたいだと思いながら、差し伸べられた手をじっと見つめた。
……本当はこの手を取るべきじゃないのかもしれない。でももう後戻りはできない。ここで止めてしまえば、きっと一生後悔することになる。
「……本当に、いいの?」
「もちろんだ」
迷いなく即答されて思わず笑ってしまった。
「なんだ、何を笑うことがある?」
「ううん、なんでもない」
嬉しくて笑いが止まらなかっただけだなんて言えないけど、きっとこれで良かったんだと思う。
差し出された手に自分のそれを重ねると、ぎゅっと握られ引き寄せられる。
「行こう」
どこに逃げるのかとか、これからどうするかとか。そんな深刻で重大な問題だって、あなたとならばひとつも怖くない。
「うん!」
二人で一緒ならどこに行ってもいい。どんな困難が待ち受けていたとしても、二人なら乗り越えていけると信じてる。
***
「――というわけで、無事にサリエリ先生と立香ちゃんは駆け落ちしちゃいました! 拍手~!!」
パチパチと鳴りやまない拍手の半分はSEで、実際に音を立てているのはBBちゃんの掌だけだ。
「まったく、よくやるよね」
呆れたようなダ・ヴィンチの声に、彼女は胸を張って答える。
「お二人の幸せのためですからね~。私ったらなんて優しいんでしょう!」
「はいはい、そうだねえ。それで、君は一体何を企んでいるんだい?」