シレン小話:やはり力こそ最大の防御! 目の前には大量のもののけ。アークドラゴンは根絶やした為に何処からともなく焼かれる事はないのだが、厄介な状況には変わりない。持っている資産も、踏破の為に惜しみなく使っている為に大分心許ない事になっていた。
「よし……」
そんな中、アスカがちゃんこおにぎり片手に、冷静に状況を把握していた。通路の壁に寄り掛かるシレンを、守るようにして。
――少し前の事。
風来街道も90Fに差し掛かる。此処まで来ればもうすぐ、というところで突然シレンが体勢を崩しふらっ……と倒れかける。
「シレン! 大丈夫でござるか?」
咄嗟にアスカが彼を支えてやる。シレンは頷くが、疲労を隠し切れていない様子だ。心做しか、顔色も悪い気がした。
無理もない。アスカの背中をずっと守っていたのに加え、少し前に混乱した彼女を止める為に余計な体力を消耗してしまっていた。困った時の巻物や背中の壺で傷は癒えても、心身はまた別の話である。異性故体格の違いも当然あるが、力も上手く入っていないようで、支える彼の身体は重く感じた。
(元はと言えば私の所為だ……すまない……)
先程の責任も勿論ある。それ以上に、大切な仲間を当然このまま見捨ててはおけない。
ならばとアスカは後ろを向き、シレン、と彼を呼び掛ける。意図が分かった彼は一瞬驚くが、素直に彼女の肩に腕を回した。
「ッ、は……アスカ、面目、ない……ッ……」
「大丈夫、大丈夫……今度は私が……!」
守る、シレンを。己の力を以て!
そこからのアスカの剣技は冴えていた。シレンを支えつつ的確な、見事な会心の一撃をぶつけ続けている。攻められる前に圧倒的な力でもののけを捩じ伏せる彼女を後方支援するように、シレンは杖や巻物を駆使しているが……助かる反面、アスカからしてみれば。
「シレンっ! それじゃ普段と変わらないでござるよ!」
「す、すまない……剣が振れないなら、別の事をしようと……」
「全く……癖のようなものか……」
困っている人を放っておけないシレンらしいと言えばらしいのだが。苦笑しつつ、デッ怪も乗り越え順調に階段へ向かって行く。
そして、99Fに到達し、初めの状況に戻るのである。
幸い、特殊モンスターハウスの類ではない事が分かり、アスカは安堵の息を吐く。聖域の巻物があればもっと楽だったが、生憎切らしている。
踏破まで後少し。諦める、なんて言葉はもうない。それは通路に避難しているシレンも同じ事を考えているだろう。
(寧ろこれはシレンに教わった事。私だって風来人だ!)
確実にもののけ達を倒すべく、アスカはちゃんこおにぎりを頬張った。あっという間に身体は丸々とし、体力という弱点を補った彼女の剣技は更に苛烈なものになる!
「さあ……」
かかって来い! と言わんばかりにアスカが吼える。シレンと違い長くこの状態は保てない。さっさと事を済まさなければ!
彼女が構えたと同時にもののけ達が襲いかかる――のだが。
「はぁっ!!」
会心の一撃、会心の一撃、会心の一撃!
攻撃する前に、いつの間にか前を詰められたもののけ達の悲鳴があがる。多少の傷を負いつつも臆せず前に出る女剣士の圧巻の強さに、さっきの一騎討ちがこの状態じゃなくて良かった……と、シレンが多少の恐怖を含ませしみじみと思ってしまったのである。
一瞬のうちにモンスターハウスが薙ぎ倒され、ドスコイ状態が解けたアスカはふう……と一息吐く。と同時に張り詰めていた気持ちがふっと切れたのか、駆け寄ったシレンに寄りかかった。
「ありがとう、アスカ」
「ああ……。私は、ちゃんとシレンを……守れただろうか?」
「勿論。後は……踏破を目指すだけだ!」
一緒に、と肩を貸し合う。モンスターハウスを発見したお陰でもののけの位置は把握出来ている。余計な戦闘を避け、罠に注意をしつつ、二人は無事階段を見付け――見事風来街道を踏破したのだった。
「全く、帰るなり二人ともぶっ倒れてびっくりしたぜー」
「面目ない……」
「まあ、割といつもの話じゃないか。また一緒に旅しよう、アスカ」
「! 勿論でござる! シレンとの旅は楽しいからな!」
「あっこら! 次はオイラも連れてけ~~!!」