立ち寄った村での、祭りの時の事。
「……む?」
屋台の少ない人通りの疎らな道で、若い女性が男に絡まれている。男女間の縺れか? それとも。
(! 不味い!)
悪い予感が的中した。男が女性に暴力を振るおうと、手を上げたところを狙い。
「なっ……!?」
「……え、?」
男女が一緒に声をあげた。そりゃ驚きもするだろう。一瞬の間に別の男――若い青年が間に入ったのだから。
「嫌がる女を捩じ伏せようってか? 良くないと思うぜ?」
そういうの、と言葉を続けると、男が突然激昂する。やれやれといった様子で女性に離れてな、と伝え、ひょいっと男の拳を避ける。体勢を崩したところで持っている扇を武器代わりに、男の脇腹を叩くと情けない声と共に崩れ落ちた。
「す、凄い……ありがとうございます!」
「怪我する前に助けられて良かった。後は何とかするから、今の内に逃げな」
言うと女性は深々と頭を下げ、急いでその場を離れて行った。よし……とそれを見届けた青年はくるりと振り返り、蹲る男を見遣る。
「何なんだ……その強さは……!」
「こちとら普段魔物とやり合ってるからな。お前さんみたいな一般人、屁でもないってこった」
それより、と青年は言葉を続ける。お前さん、他のところでも悪さをしているな? と。
男は途端に黙った。図星だろう。村で迷惑な奴の噂話が流れていたが、此奴か、と青年は確信する。ならばと青年は持っていた扇――烏の絵が描かれた黒いそれを広げ、口許を隠し、銀の目をちらりと男に向けた。
「なあお前さん。女のような柔らかさってもんは与えられんが……俺と、しないか?」
男は固まった。といっても、何言ってんだ此奴? という類ではない。
細いながらも健康美だと分かる体格、端正な顔立ち、月に光る似せ紫の髪――妙な色香を漂わせる目の前の青年に、見事に当てられたのだ。
こりゃ上手く行ったな、と青年は男からは見えない口許をにやりと上げる。後はもう、実行に移すだけ。
「いい場所を知ってる。勿論、来るよな?」
――次の日。
「いやー良かったなあ、あの迷惑な奴、捕まったんだって?」
「みたいだな」
「誘われるがままに来てみれば役所だったって……ぷぷっ、間抜けだよなあ!」
「ああ、あれは実に面白かった…………、あ、」
「やっぱり! お前だったんだなシレン!」
そう、いい場所と称してへこへこと着いて来る男を連れ出したのは役所だったのだ。騙しやがってえええ! と青年――シレンを攻撃しようとしたものの、当然返り討ちにされ、そのまま捕まったのである。
「力も弱い、閨の誘いにも弱い。てんでいい所がなかったな、彼奴」
「シレン……お前さあ~~……」
当たり前のように無茶をする相棒に、ホントにもう……とコッパは呆れながら項垂れるのだった。