お題:アイスコーヒー 連日の暑さから解放された、と言う意味ではプールでのトレーニングはありがたかった。こいつの提案だということで少し身構えもあったが、ただ単に自身も涼みたかっただけだったんだろう。
コンビニで買ったアイスコーヒーを片手に帰路に着く。夕方とはいえ濡れた髪も乾くほどの暑さの中、氷で冷やされた手が気持ちいい。ふと、悪戯心が湧く。
「冷たっ!」
少し前を歩く男の首に手を当てれば、飛び上がる猫のように大袈裟に肩が跳ねる。振り向いたその顔はとても恨めしそうで、普段から振り回されている身としては悪戯が成功して嬉しい。
仕返し、と言って首を触られたところで分かりきった行動に驚きはない。確かに熱中症の時は首を冷やすといいと言うよな、などとぼんやり思いながら効果を実感する程度だ。
「もう髪乾いとるやん」
「暑いからな」
「でも、パサついとる」
「そりゃそうだろ」
いつの間にか首から毛先に移動したその手を払いのける。塩素でダメージを受けたところに自然乾燥とくれば、どうしたって髪の毛は痛む。帰ったらリペアシャンプーが必要だろう。
自分から振っておいてあまり興味がない話題だったのか、ふーんと返事をするだけで再び前に向き直り歩き始める男の後ろについて行く。
普段よりも随分とスローペースで歩く男に合わせて、こちらもゆっくりと足を動かす。帰り道を急ぐ小学生や家族連れにどんどん抜かれていっても気にならなかった。手元のカップには少しだけ薄くなったコーヒーがまだ半分残っている。