Graphium doson 「俺なら君にそんな顔させない」と言うことが出来たならば、どれだけ良かったことか。
秋の夕暮れ。風がぴゅうと吹き抜けていく中、目の前で彼女はぽたりぽたりと涙を溢す。目が腫れ、制服の袖がひたひたとする程となる結末。いつかはこの日がやってくることは、疾うに知っていた。しかしながらそれを阻止する魔法を持ち得てはいなかったのだ。
「源一郎、あのね、私、浮葉さんに、振られちゃった」
嗚咽を堪えながら、彼女は単語をひとつひとつ丁寧に紡ぎ出す。濡れた瞳からは、自分達に向ける太陽のような輝きが消えていた。
自分の主が彼女に対して向ける感情は、間違いなくプラスの感情だった。だが、それが恋心だったかと問われると、正直なところ分からない。それでも彼女の心が主に拐われていることに気付いていた。彼女が主を見つめる眼差し、浮かれるような声色、そして赤らめた頬。挙げ出したらきりがない位、彼女は主に夢中だった。
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