『おまじない』「さぁバド!いくわよ!」
「はい、アイリスさん!」
青空が広がる空の下、よく通るアイリスさんの声に促されて玄関先で荷を背負いバドは元気よく返事を返す。今日は二人で魔法都市まで出かけるのだ。
「アイリス、バド、気をつけていってらっしゃい」
「ルチル、いってくるね」
ちゅ
ルチルさんがアイリスさんの額に軽く唇を寄せるこの光景。
片方だけが出かける際に毎度行われる出発の儀式。
私もバドも初めてそれをみた時はひどくびっくりして何だかみてる方が気恥ずかしい気分になってしまったものだった。
ルチルさんはそのままバドの頭を撫で私と共に二人を送り出した。
「ねぇルチルさん」
「ん?どうしたコロナ?」
よいしょっと屈んで目線を合わせてくれるルチルさん。
「ずっと不思議に思ってたのですが……。お二人が一緒に出かけない時,必ず残る方が私たちの頭を撫でたり額にキスするの何故ですか?」
「あれはね、無事に自分たちのもとへ帰ってきてくれますようにっていう『おまじない』なんだよ。」
「おまじない……きゃ!」
「俺らを拾って育ててくれた座長から教わったんだ」
座長、オネェだったけど……と小さく呟きつつも私を片手で抱き上げそのまま家の扉を開ける。
「アイリスはもちろん、バドにもコロナにも、無事でいてほしい。大切な家族だから…」
「ルチルさん……。ルチルさん、私も何かしたいです!」
「じゃぁ、一緒に刺繍でもしようか?お守り袋の縫い方,教えてあげるよ」
「はい!」
よしやるぞと心に喝を入れる。
キスはまだ恥ずかしいから、私にできる最大限の『おまじない』を。
失ってしまった両親,新たに得た師匠たち、今度は失わないように。