酒癖急いで,ただひたすら急いで、飛び込んだ果樹園。
目に飛び込んできた案の定の惨状に思わず頭が痛くなった。
確かに、問題物を出しっぱなしにしていた自分が悪いのだけども……。
「師匠、コレなんですか?」
机の上に置いてある数本の瓶を指差しバドが首を傾げる。
「あぁ、すずぶどうから作ったちょっと度数の強いお酒だよ。丁度いい頃合いになったから後でメイメイさんの所に持って行こうと思ってね」
「お酒って美味しいんですか?」
「んー……、こればっかりは物にもよるしバドの味覚にもよるかな?どちらにしろ、今はダメだよ。バドがもっと大きくなったら飲ませてあげるよ」
「ちぇー……」
「お酒はね、飲むと気分良くなって人によってはちょっと困った事を引き起こすこともあるんだよ」
「困った事?」
そのうち教えてあげるよと瓶を草籠につめておく。
「ほらバド、こっちはジュースだからコロナと一緒に飲むといいよ」
「わー!ありがとう師匠!!」
ジュース瓶を抱えて部屋にいるコロナの元に駆けていくバドを見送りつつふと思い出す。
「そういえば今日はアイリスが女子会するとかでダナエたちが来るんだったな。もう少しジュース用意しておくかな……」
用意したジュースの瓶。ちょっとしたおもてなしが後にとんでもない光景を生み出すとはその時は気づかなかった。
「……遅かった、か……」
目の前に広がる阿鼻叫喚(?)。
酔って上機嫌な顔でお酒片手に絡み、服を脱ごうとするアイリス,それを必死で止めているダナエ。
酒瓶を抱き込み幸せそうに眠るエメロード、付き添いで来たのであろう瑠璃の目を顔を真っ赤にして押さえている真珠姫。
もはや大惨事である。
「ルチル!ちょっと!!アイリスを!!」
ダナエに叫ばれ慌ててアイリスを引き離し捕まえる。
「ほらアイリス、しっかりしろ」
「るちるぅ〜」
「こら,落ち着けって」
なぜこういう時のアイリスは力が強いのか?中々好き勝手絡みつくアイリスに四苦八苦しながらダナエと共に何とか服を戻してやる。
「る〜ち〜るぅ〜❤︎」
「んぐっ?!」
少し大人しくなったアイリスにホッとして僅かに力が抜けたのが悪かったのか一瞬の隙を突かれた。
口に投げ込まれるように入れられる酒瓶の口、一気に流し込まれる濃厚なワイン。
吐き出すわけにもいかず無理に飲み込めば思わず咳き込んでしまう。
「ちょっと!ルチル大丈夫?!」
「だい……じょぶ……」
ダナエに背を軽く叩いてもらいつつもアイリスを捉えている腕に力を入れ直す。
不満げに声を上げるアイリスもしばらく抱き込んでいればやがて糸が切れたように静かになった。
「寝た……?」
「うん……」
グラグラする頭を振りとりあえずアイリスをその場に寝かせ座り込む。
実のところ自分もまたお酒はそう強いわけではない。
視界がぐるぐる回り始める。
「お兄様……大丈夫ですか?」
どう手を出していいか悩んでいたであろう瑠璃と真珠姫の声が耳に届くが意識がぼんやりし始める。
「ルチル……?っておい?!」
肩に硬い手の感覚を感じたのを最後にそこからの記憶は完全に闇に途切れ落ちた。
後日、アイリスには厳重な禁酒が言い渡され、何故か自分にはダナエからも真珠姫からももう一度お酒飲んで貰えないかとせがまれ、瑠璃からは悪くなかったという謎の感想を貰うことになり頭をさらに悩ませることとなったのであった。
(補足)
アイリスは酔うと脱ぎ症絡み酒に、
ルチルは酔うと陽気になり歌ったり踊ったりしてくれます。
ちなみに2人ともその間の記憶はありません。