双子の親「これは……。夢じゃなかった、ということか……?」
何もなかったはずの手の中、いつの間にか握っていたソレを目にして思わず口元を覆ってしまった。
夢の中,俺は見たこともない巨大な大木の根に囲まれた場所に立っていた。
ただすべてが曖昧でぼんやりしているのは何故なのか。
『『瑠璃』』
「ルチル!!アイリス!!」
届いた双子の声。
振り返れば突如行方知れずとなり俺だけでなく皆がずっと探していた双子だった。
ただし,その姿は透けておりまるで陽炎の如くゆらゆら揺れていた。
「お前たち、今どこに……」
『ごめんね瑠璃。説明してあげたいけど今は時間がないの』
『一方的で悪いけど,瑠璃にしか頼めないんだ』
何かを必死で訴えようとしている双子。
今まで見た事がない色んな感情が入れ混じった表情に知らずに息を呑んでしまった。
『コレを……』
ほぼ押し付けられるように差し出され渡されたソレは柔らかな赤い布に大切に包まれた……
「核……?!」
傷だらけで綺麗に半分に割れた珠魅の『核』だった。
「どういうこt『その人は,大切な人なんだ!』『だからお願い!』」
姿がさらに歪み始まる。
『ココにいたらこの人は吸収されてしまうから……!』
『俺らは時間はかかるかも知れないけど、必ず帰るから!!』
どうかこの人を……私たちの……
最後の言葉が聞こえるか否か、完全に双子の姿は消えさり、弾かれるように俺視界も真っ白になった。
ガバッと体を起こせば何ら変わらない自室で、夢かと何気なく手を握ればそこにはあるはずのない硬い感触があって、あれが夢であって夢でなかった事を思い知らされた。
「水晶……か?」
傷だらけで割れていたとしてもその透明度は驚くほど高く、ごくわずかだが核に宿るマナの気配がこの珠魅がまだ生きている事を示していた。
そっとこれ以上傷つかぬよう布に丁寧に包み直し出かける支度を素早く行なっていく。
これは自分だけの手には負えない事態と判断し、仲間の元へ素早くでも慎重に核を運んでいった。
玉座の間には蛍姫とレディパールが控えていた。
「どうした瑠璃、そんなに慌てて……?」
「レディパール」
足早に側によると二人に先ほど見た夢と託された核を差し出した。
「ひどい……」
かつての自分より酷い状況の核を目にして絶句し今にも涙をこぼしてしまいそうな蛍姫に対してレディパールはじっとカケラを手にし、しばらく考えるように、そして確信に辿り着いたように長い息をついた。
「瑠璃」
「なんだ?」
「すまないがコイツを私が預かってもいいか。……昔の恩人だ」
「!!」
自分の手からレディパールは割れた核を受け取り蛍姫の元に持っていくと何か囁く。
「では彼が……」
口元を押さえひどく驚いた表情を浮かべながらも核を受け取る蛍姫。
「あなたに珠魅の未来は繋げられました。今度は私たちが貴方にお返しします」
蛍姫の瞳からこぼれ落ち割れた核に降り注ぐ。
淡い光が溢れて割れていたはずの核がくっつき急速に癒えていく。
しかし光はそこ消えてしまい綺麗になった核のみがそこに残った。
蛍姫はそっと核をレディパールに差し出せば、しっかりと核をその胸に抱きしめた。
美しいその瞳から一筋の雫が静かにこぼれ落ち割れた核の上吸い込まれるように落ちていった。
「クォーツ,あの時の借り,今返すぞ」
さらに強い光が溢れ徐々にヒトの形を成していく。
やがて光が消え去ればそこには長身の男型の珠魅が現れたが意識がないのかレディパールに倒れかかった。
「っと」
「レディパール!」
一瞬バランスを崩したレディパールを咄嗟に後ろから支え手助けをする
「瑠璃,すまない。もう大丈夫だ」
体勢を立て直したレディパールが意識なき男を軽く抱き上げ場所を開けた蛍姫の横に寝かせた。
「彼はクォーツ。かつて私と蛍姫に涙石を授けてくれた水晶の珠魅。……ルチルとアイリスの親だ」
「?!」
最後まではっきりは聞こえなかったあの言葉を思い出す。
だからこそ必死だったのだろう……。
あのまま死んでしまうかも知れない状況だったのだから。
「彼の身柄はこのままこの都市で預かろう。」
傷が深すぎて今だに目覚めぬ双子の親である珠魅。
コイツがここにいるかぎり双子は戻ってくる、その時何故かそう確信したのだった。