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    はごろも

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    はごろも

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    八色さんが一十さんをもし突き刺すような事があったら、悪夢に見る事もあったのかなあ、とか思ってできた小話。
    弱っている推しはかわいいですね。

    #クロケスタ
    croquetter
    #やいかず

    悪夢を見る八色さんの話ここは、どこや。

    ぱちりと目を開け、辺りを見回す。
    不気味なほど暗く、何もない空間だ。
    まるで、この空間だけ世界に置き去りにされてしまったかのような。
    その中で、自分の体だけが取り残されている。
    手足を動かすも、問題はない。こつりといやに自分の革靴の音が響いた気がした。
    こつ、こつ。何もない空間を歩く。そんな中。
    ぬぼ、と、真っ暗闇の空間なのにも関わらず、人の形をとった黒い靄が、揺らめきながらその場に現れた。

    「…!?物の怪か…!!!」

    腰に手をやる。かちゃりと自分の刀が重なる音に安堵しながら、暗闇の中佇む靄をにらみつける。
    靄の中にぼんやりと浮かぶふたつの空洞。あれが目なのだろう。それがこちらに気が付いたように、のっそりと向けられた。

    「———…蜈ォ濶イ縺輔s」

    深くノイズがかかったような、不快な音が耳に響く。
    化け物から発せられた声に思わず頭を押さえた。痛い。割れるようだ。

    「繧医≧繧、自由——縺ェ繧後∪縺励◆縺ュ」
    「うるさい…!黙れ…!」
    「螟ァ荳亥、ォ縺ァ縺吶°溘#豌怜縺悟━」

    化け物がこちらに手を伸ばす。
    不快なノイズをまき散らし、頭が、胸が、痛い。苦しい。

    「来るな…!!!!」

    耐えきれず、刀を抜く。そしてそのまま化け物の胸に刀を突き刺した。

    「————ッ……!!!」

    途端、化け物から靄が晴れる。
    こふ、と、それの口から鮮血が吐き出された。

    「や、いろ、さん」

    まさか、そんな。そんなはずはない。
    自分は怪物を切ったはずだ。けれど、今自分が刀を突きさしているのは……

    春海一十の形をしていた。


    「っは、はぁ、ッ……」

    跳ね上がるように飛び起き、自身の胸を押さえる。
    乱れる息を整え、目の前が真っ赤に染まったような感覚が落ち着いた頃、ようやく自分が眠っていたのだと気が付いた。

    「——……夢、か」

    よかった。もう一度布団に倒れ込み、自分の震える手を見る。
    夢の中なのに、今だにあの時突き刺した感覚が残っているようだ。

    (夢やったとしても、あんな事……)

    一十さんの胸に突き刺さった刀。流れる血と、それでも彼は、自分の名前を。
    たまらず、体を起こして顔を洗う。
    早鐘をうつ心臓は、顔を洗っても身支度を整えても収まる事はない。
    そのままコートをひっつかみ、逃げ出すように玄関の戸を開けた。


    **********


    は、と気が付く。
    目の前には、すっかり行きなれてしまった戸建ての玄関が。
    表札を見ずとも分かる。ここは、一十さんの家だ。
    手を伸ばせば、その戸は拒む事なく開く事を知っている。
    そして、いつものように声をかければ、きっと笑顔を携える彼が、「いらっしゃい」と来てくれるだろう。
    けれど。
    自分の手を見やる。今はもう震えてはいないその手を、小さく握り込んだ。
    情けない。夢を見て、まるで逃げ込むように来る先が、彼の家などと。
    軍人たる自分が情けない。
    やはり帰ろう。朝からこんな事で、彼に迷惑をかけるわけにはいかないのだから。

    くるり、と踵を返そうと扉から離れた瞬間、後ろでがらりと音がした。

    「……わ、や、八色、さん?」

    そこには、心底驚いたように、目を見開き、こちらを見やる一十さんがいた。
    その顔が、声が、悪夢と重なる。

    「——ッ」
    「八色さん…!どうなさいました…?」

    それはほとんど反射だった。
    恐らく朝のしたくをしていたのだろう。割烹着を来た彼の体を、離すまいと力強く抱きしめた。
    やせぎすの彼の体は、それでも暖かく。密着すれば、彼のとくとくと流れる心臓の音も伝わってくるようだ。
    それを感じ、安心するように彼の首元に顔を寄せれば、彼はそのままゆっくりと自分の背に手を回す。

    「……どうか、なさいましたか、八色さん」
    「………私、は」
    「いいえ、無理に言わずとも良いのです。今日は随分と冷えますねえ。お味噌汁と麦飯しかありませんが、よければご一緒にどうですか」

    暖かい手が、ゆっくりと背を撫でる感覚に、深く息を吐き出す。
    はい、と口に出した言葉は、自分でも驚くほど弱弱しかった。

    「よかった。では、折角なので昨日かきまぜた沢庵も味見してみましょうかねぇ。八色さんは沢庵はお嫌いではないですか?」
    「……はい。特には」
    「それはよかった」

    にこりと笑う彼に手を取られる。
    ゆっくりと離れる体を慰めるように、彼は両手で私の手を撫で、春の花のように微笑みをこぼした。
    あれほど恐ろしかった気持ちが嘘のように溶けていく。

    「お風邪をひかれてしまいますよ。ささ、中へどうぞ」
    「……お邪魔、します」

    今日は彼の言葉に甘えよう。
    悪夢も溶かしてしまうような、優しい彼の言葉に。



    END

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