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    yu_459

    推しカプ全部うまい

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    yu_459

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    瀬戸鬱
    四国襲撃は二人の勘違いからのすれ違いがきっかけだった、四国襲撃前日譚みたいな話。
    ナリ様もチカちゃんもどっちも誤解したまま緑ルートを完走しちゃうチカナリ。

    をだらだらと書いたので前後がめちゃくちゃな気もするけどこういうの読みたいですというパッションだけはあります。

    果実.

    --ピリ、と口内に痛みが走った。


    初めて目見えてからどれだけの季節が過ぎていったのか。
    惚れた何だのと騒ぎながら訪れる長曾我部から贈られる四季折々の贈物。
    何度追い返そうとめげずに甘言と共に差し出される贈物は物であったり食べ物であったりと様々である。
    我が甘味を好むと知られてからは甘味の比率が上がった。迂闊であった。
    二度目の春を迎えた頃、もう追い返すのも面倒になり適当に相手をして適当に帰すようにした。けして絆されているわけではない。
    「どうしてもお前に食わせたくてよ」と子供のような顔をして差し出してくるあの男に絆されるなどあるものか。帰れ帰らないだのの攻防が面倒だからだ。


    贈物は本人が持参するものもあれば使者が持ち込む事もある。
    此度は外海へと旅立ったあやつは戻らず、使者が南より持ち帰ったものだと言う。
    本人は来ぬのか、と思いながら執務中に家臣から言伝と共に受け取ったその箱を持ち、ちょうど良い休憩に使えそうだと茶の用意を言いつけて自室へと戻ることにした。

    居室に持ち帰り見事な装飾の蓋を開ければ見慣れぬ菓子がぎっしりと詰め込まれていた。
    あまり長く持つものではないから早く食せ、とその大柄な見かけによらずたおやかな筆運びの一筆付きで。
    菓子を一つ手に取り、半分に割ってみれば餅のようなその菓子は中に何か包んであった。
    慣れぬ菓子に少しの戸惑いを覚えつつ、匂いを嗅いでみれば果実の甘酸っぱい香りがする。
    (果物を餅で包んでおるのか…)
    どれ、と一口齧ってみると硬めの餅の食感と果物の酸味を感じる。
    このような果物は初めて食べるな、と思った瞬間覚えのある痛みが口内を刺した。
    危険だ、という自覚と共に込み上げた吐き気を側の懐紙で受け止める。
    けほっ、と吐き出す為に背を丸めた瞬間を茶を持った下女に見つかり「元就様!」との叫び声と共に控えていた側仕えが駆けつける。
    「騒ぐな、水を持て」
    ぴりぴりと小さな痛みを感じる舌を動かしながら指示を出すが少し呂律が回らない。
    ただちに、と慌てて広縁をかけていく側仕えと下女を見送り、出来るだけ早く口の中を洗おうと茶を含み吐き出す。
    (このような馴染みのない果物であれば毒殺は容易…とでも考えたか)
    誤算は元就が毒に慣れており、敏感だったことだろう。
    これまでの贈物や甘言は全てこの為の布石…と考えるのが妥当であろうな。
    あやつのような力で制す男が何年もかけて成すことか、と一瞬過ったがそういった裏をかくからこそ策となるのだ。我が一番よく知っておる。
    「……そうよな」
    騙されるところであった、と思うと同時にちくり、と痛む胸に毒の影響かと不安が過るがこの類いの毒は痺れが主なため、胸の痛みは関係がない筈。
    「元就様、お持ちしました」と側仕えが水桶と共に匙と隆元を連れてきた。
    手拭いと桶を受け取り早急に口を濯ぎ、一通り吐き出してから毒を食んだようだ、舌が痺れると伝え、匙の診断を受ける。何故か胸の痛みは言い出せなかった。
    「ほとんど飲み込まれずに吐き出されておりますので大丈夫でしょう」
    さすがのご判断でした。との匙の診断に隆元が大きく息を吐く。
    「毒などと…長曾我部殿が何故そのような…」
    「知れたことよ」
    「父上…」
    「もうよい、下がれ」
    回らぬ舌で、それでもはっきりと下される命に何か言いたそうな目をしたままの隆元と、匙も側仕えを連れ「何かありましたらすぐにお呼びください」と言いながら下がっていった。
    一人残された居室で菓子の入った箱をぼんやりと眺めながら「…何故であろうな」と、誰に言うでもない言葉が漏れる。
    あやつは何故甘言など吐いたのか、何故このような策を使ったのか、何故我の胸は痛むのか、この何故はいったい何に対しての何故、なのか。

    「我にもわからぬわ」

    フ、と自嘲めいた笑みを浮かべたところに大谷吉継より文が届けられた。



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