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    楽しいことしかない

    せきららら
    ごぎょう はこべら ほとけのざ
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    POIPOI 1879

    一枚絵全然描けなくなっててワロりましたねえ

    ##FGO

    前世の存在を信じるなら、きっと自分は大罪人であったに違いない。

    蘆屋道満には秘密がある。
    道満は体に人面瘡を飼っていた。否、飼われていた。
    二十を過ぎた頃に、それは道満の培った全てを壊した。

    幻覚めいてはいるが、触れるし、ものを食いもする。昔、膝に生えた顔にカッターを添えて舌でねぶられたことがある。突き刺そうとすると、するりと肌に消えて自分の体を傷つける羽目になった。痣は、痣を殺そうとしてまた痣を増やすさまを腫れ物の口で愉快そうに笑った。
    自傷癖を疑われて医者にも診せられた。痣はひとつの息もつかなかった。そうして一人の精神異常者が出来上がった。

    もちろん死のうと思ったことは一度や二度ではない。その度に痣が邪魔をする。死のう、と思った次には日を跨いで目を覚ますこともままあって、もはや痣は痣ではなく、道満の体に取り憑いた悪霊か何かだと思う方が正しかった。
    痣と付き合う秘訣は、大切なものを作らないこと。誰にも頼らず、一人で生きること。





    痣は道満を飼い殺している。

    ワアワアと叫び出すものだから、急いで首を手で塞ぐ。近くを行く人がぎょっとしてそそくさと逃げるのを見て舌打ちをした。逃げ出したいのはこっちの方だ。
    あの女を追え、と腹から膝から頬から叫び出す。
    ついに体がぎしぎしと音を立てて勝手に動き出した。だばり、と汗が溢れる。痣は道満の行く先々で邪魔立てはしたが、自ら働きかけることっは一度だって無かったはずだ。
    通報されでもしたらいよいよ人生が終わる、いや、このまま豚箱にでもお世話になった方がいいのかもしれない、世のため人のために……。
    そんなことを考えている間もずんずんふらふらと千鳥足の攻防は続き、道満の汗だくの手がついに目の前の腕を掴んだ。小さな悲鳴を上げて腕の主が振り向く。
    陽色の髪の、はつらつとした少女だった。
    謝罪の言葉を紡ぐ前に首元に露出した腫れが、道満と同じ声で叫んだ。
    少女はまっすぐ見ていた。道満ではなく、痣を見ていた。




    ますたあ、と喚き続ける。



    痣が震えた。

    「さようならば、仕方ありませんねェ……」


    痣はさめざめと泣きだした。併せて、首元がじゅるじゅると膿を垂らしているかのように湿る。










    少女と出会って痣の口数はめっきり減り、それから七日目の朝、道満は大量の汗をかいて夜半に目を覚ました。
    全身から噴き出したと思わしき汗はどろりと淀んでいて、あの日痣が流した涙と似ていた。
    それから痣が二度と腫れた口を開くことは無かった。

    あの痣にはとにかくうんざりしていたし、ずっと痣に怯える必要の無い生活を送ってみたい、それだけが願いだったのだから。少女には感謝しているが、あの瞳は正直、忘れたい。
    腫れ物をすら愛する人がいたのだと、思い出したくもない。
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