Battlecryというバンド　Battlecryとしての俺にとって、バンドとはなんだろう。ライブを前にして、ふと、そう思った。
　これまで、何度もインタビューで聞かれてきたし、答えてきた。音楽とはなにか、ロックとは、バンドとは。糸口こそ異なるものの、大抵同じ答えに辿り着く。しかしそれらは、今この疑問の答えにはならなかった。
　Battlecryは、特殊なバンドだ。ベーシックな楽器構成ではあるが、活動範囲が音楽のみではない、パフォーマンスを多く盛り込む、年齢幅が広い、家族同然の関係性であるなど、特異な要素がいくつもある。それでも、俺はこの場所を、たしかにバンドだと思っている。それはどうしてなんだろう、と。俺は、Battlecryというバンドの本質をどのように感じているのだろうと、それが不思議だった。
　メンバーの顔を見る。それは友達の顔であり、仲間の顔であり、家族の顔であり、そしてやはり、バンドマンの顔をしていた。

「……彰次、どうしたの？」
「珍しくね？　あっきーがぼーっとしてんの」
「音合わせで喉乾いちゃいました？　フラペチーノ飲みますか？」

　しばらく見ていたところ、視線に気づいたらしいメンバーらが振り返った。アストリアが来る途中で買ってきたらしき呆れるような数のドリンクから一本が差し出されて、喉の渇きに気がつく。

「たしかに乾いていたな。ありがとう！」

　ありがたく受け取って、すっかり飲み慣れたフラペチーノを飲み干す。その勢いのまま、天へと拳を突き上げた。

「よし！　今日も、最高のライブにしよう！」

　口々に掛け声をあげる。Battlecryの見せ場はもう目前だった。




　割れるような万雷の拍手と歓声が、Battlecryを出迎える。大きく両手を振り上げて、全身でそれに応じて見せた。三人もそれぞれのやり方で会場に応える。マイクを手に、全力で口上を述べて、俺たちの世界へと観客を引き込めば、痺れるような振動が空間を揺らした。そして、タイミングを合わせて火花を散らすように、第一音目を響かせる。そのまま駆け抜けるように、会場を音楽の奔流が襲った。

　音がひとつになる。指が、腕がひとりでに走り出す。それでもよかった。息を合わせようとなんて意識しなくたって、呼吸はすでに、ここにひとつしかない。
　同じ息を吸いながら、視線を移した。会場に声を響かせて、その美しい指でギターを操るアンセムに。音楽の第一歩を築いてここまで駆け抜け、鍵盤上で指を踊らせるMr.フォルテに。紙の下にたしかな熱狂を宿して、その昂揚を乗せたバチを振るうヒビキに。時間が弾け飛ぶような意識の中、疑問が湧いたときと同じように、その答えは、ふと降りてきた。

　俺は、Battlecryのファンなんだ。気づいた瞬間、観客の歓声がさらに大きくなって、肌に迫った。振動と熱気を、圧倒的なリアリティをもって体感する。
　俺も彼らも、Battlecryのバンドマンたちが鳴らす音をもっと聞きたいと、彼らが彼らのまま掴むものを知りたいと渇望している。バンドとは、まるで爆発のような、凝縮された非日常の塊だ。目が眩むような光だ。それは時として、気づいてすらいなかった壁を破壊して、己の立つその場所に、眩いばかりの光を射す。あるいは人生を狂わせて、その熱風に当てられた人間の望むものへと、腕を突き動かさせる。
　俺にとってのBattlecryは、まさにそれだ。Battlecryで弦を弾く高揚感は、何度繰り返しても非日常だ。会場で初めて完成するロックを体感したいから、戦場を目掛けて自由に駆けてきた。それが、その奔放さこそがBattlecryらしさで、バンドらしさで、それに惹かれている俺もまた、Battlecryのファンなのだろう。このうねりが俺たちの戦場にあるなら、俺たちは間違いなくバンドだ。

　あんなにも不思議だったのに、こんなにはっきり答えを見つけてしまうだなんて。まあ俺だからな。今日の音は、きっといつもにも増していいものになる。そんな確信に応えるように、Battlecryの音が、会場を、世界を貫いた。