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    l0on_dd

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    l0on_dd

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    アイドル×一般人

    ももみつ「あれ、三月今日も出勤?珍しいね」
     二十三時を過ぎ店内は二軒目や三軒目使いのお客さんで席が埋まり始めた頃、その中に紛れてトップアイドルであるRe:valeの百さんがカウンターに腰掛ける。
    「百さん!こんばんは!実は今朝アパートの一階にある飲食店が燃えちゃって…まぁボヤ騒ぎ程度だったんですけど、オレの部屋真上でしばらく住めなくなっちゃって…ネカフェでもいいかなと思ったんですけどできるだけ節約したいし、それなら働かせてもらおうって思って。勤務後は奥のソファ自由に使っていいよって壮五さんに言ってもらったんで」
    「えぇ!?災難だったね…朝から疲れたでしょ」
    「はい…今日休みだったので休みが潰れて寂しいような、仕事だったらここまで動けなかっただろうから良かったような…」
     いつも相談事に的確なアドバイスをくれる百さんだからか、今日一日気を張って辛い感情を表に出さないようにしていた反動もあり不安な本音が顔にも出て苦笑いをする。
    「明日も朝から出勤でしょ?」
    「はい、でも今月は閑散期なのでまだマシだったなって思うようにします!」
    「えらいね三月、オレにできることがあればなんでもするからまた声かけてね」
    「ありがとうございます!」
     そこで会話は終わり、他のお客さんと喋ったり軽いアテを調理しているとどんどん時計の針は進んでいった。
     百さんに何度目かのおかわりの一杯を差し出すとへにゃりと笑う様子から、来た時よりも陽気で良いぐらいにお酒が回っているのが伺える。
    「さっきさ、オレにできることするよって言ったじゃん」
    「はい」
    「三月、オレの家においでよ」
     あまりに唐突な誘いに、酔った勢いではあるかもしれないけれどドキドキと胸が高鳴ってしまう。
    「ダメ?」
     ねだるような声に赤みを帯びたほっぺたと潤んだ瞳…さすがトップアイドルだ、なんて気を逸らさないと二つ返事で「はい」と返しそうになる。
    「いやでも…明日以降は泊めてくれる友達探そうかな〜て思ってたので」
     嘘じゃない。なんとか冷静にその言葉を引っ張り出してきたオレを褒めて欲しい。
     これで百さんも引き下がるだろうと思ったけど、酒の影響か折れる様子はなく、むしろ前のめりに手を掴んできた。
    「じゃあオレでいいじゃん!」
    「や、さすがに…Re:valeの百さんの家に泊まらせてもらうのは…」
    「へぇー……オレのこと“Re:valeの百”扱いしない三月が好きだったんだけどなぁ…三月も結局そうなんだ…」
     演技は入ってるだろう、でもそんな子犬のような瞳でムッと唇を突き出しながら見つめられるとオレが悪い気がしてきて心が痛んできた。
    「本当に…いいんですか…?」
     オレがそう返すと百さんはさっきまでとはガラリと変わりはしゃいで飛び回る子犬のように嬉しそうに笑う。
    「もっちろん!じゃあ一緒に帰ろう!壮五、お会計して!で締め作業してくれていいから!」
     店内はBGMもよく聞こえるほどがらんとし、珍しく引きがよく百さんが最後の客だった。
    「ありがとうございます百さん。三月くん、本当にお世話になるの?」
    「そうですね、ひとまず今日はお世話になろうかと」
    「もう〜“今日は”じゃなくてしばらくお世話するって!」
     任せろと言わんばかりに胸をドンッと叩く百さんに乗っかり壮五さんが大きく笑う。
    「あはは、ぜひっ。じゃあ三月くん明日以降についてはまた連絡頂戴。ソファになるけど泊まるのは大丈夫だから」
    「ありがとうございます。オレ中片付けてきます!」
    「あ、まって!今日はもう上がって大丈夫だよ、ほら、百さん待たせても悪いし」
     さっきまでいたお客さんのテーブルは拭き上げは終わって少し洗い物が残っている程度。あとは百さんの席を片付けるのと在庫のチェックぐらいではあるし、バイトも含めて二人もいれば十分だろうと気遣いに甘えて先に上がらせてもらうことにした。

     百さんの呼んだタクシーに乗り込み、お世話になるからにはと提案をする。
    「百さん、お礼と言ってはなんですが明日のご飯とか作っても迷惑じゃないですか?」
    「え!食べたい!オレの家泊まるの本当に問題ないから三月が疲れてない時はオレのご飯作ってくれたら嬉しいな」
     もはや決定事項になったのかしばらくの居候を推し進める百さんに、オレにとっても好条件すぎるしもう流れに身を任せてみようかと思い、もちろんですと返した。
    「地方ロケもLIVEもしばらく無いし毎日三月のご飯たべられるってこと!?めっちゃ幸せじゃんオレ!!」
     あまりに過剰な良い反応に思わず笑ってしまう。
    「百さんいつでもオレの料理ベタ褒めしてくれるんでオレも気分上がりますっ」
     本職である料理人として朝から夜まで働いている中で作り出した、自分の好みではあるもののコースなどに組み込むには店のコンセプトには合わない料理をバーで出させてもらっている。
     お客さんにも好評で嬉しい言葉は沢山いただくけど、その中でも百さんの言葉は特別だ。「美味しいね」のたった一言だけで十分幸せなのにその何倍も味の感想をくれる。
     あぁ、百さんの今の笑顔はオレの料理を食べて生まれているんだと思ったらそれだけで優越感を感じてしまう馬鹿なのだ。
     百さんとの間に次に会う約束なんてなかった。それでもいつも帰り際に「またね、三月」と言われるだけでオレの心ははずんだ。
     でも今日はいつもとは違う、明日を約束するようにおやすみなさいと交わして、目が覚めれば百さんと顔を合わせておはようの挨拶ができる。突然訪れた幸せに浮かれていたのか夢にまで百さんが出てきた。


     百さんは多忙だ。ファンとして見えていた部分の数倍は多忙なのを目にしてしまって、あんなに笑顔で居続けること、時に投げられる心無い言葉すらも受け入れる心、知ることのなかった裏側を目にしてオレの百さんへの恋心は強くなってしまった。
     けれど、だからといって何かが起こるわけでもなくて。百さんとはなかなか休みが被らず、一緒に過ごせたとしても数時間だけという日々だった。
     そして今日はオレが休みの日で百さんが夕方には帰ってくる日、多分今までで一番長く一緒に過ごせる日。百さんはお願いがあると相方である千さんを家に呼びたいと言った。
     もちろん拒否する理由も無く、とうとう千さんにお会いできるのか…という緊張に襲われながら朝から隅々までピカピカに掃除をしていた。
     いつかバーで会うのかもしれないとは思っていたけど初対面がまさか百さんの家だなんて、少しだけ面白みを感じてしまって一人で笑顔をこぼしてしまった。

    「初めまして、三月くん」
     サラリと長い髪を揺らして、ニコリと微笑む姿は一瞬男であることを忘れるほど美しいという言葉が似合うと感じた。
     もうすぐ住まわせてもらって二週間になる慣れたはずの百さんの家のリビングが空気が変わったみたいに思わず見入りそうになりながら、慌てて意識を戻して千さんと目線を合わせる。
    「初めまして!いつも百さんに大変お世話になっています。今もお部屋にお邪魔していることも恐縮ですが…よろしくお願いしますっ」
    「そんなに畏まらなくても大丈夫だよ。ほら、僕が料理するから三月くんはゆっくりしてて」
     そう言われてもやっぱり少し居心地が悪いような気がしてどうしようかと考える。
    「あの…!オレが作ります!というかおじゃまだったらちょっと外出てくるので!」
     携帯を手に持とうとするとそれを千さんに止められる。
    「せっかくの機会じゃない。まぁ料理人である三月くんが素人の僕の料理なんか食えたもんじゃないって言うなら、お願いするけど」
     満面の笑みで意地の悪い申し出をしてくるから思わず口をつぐむ。もちろんそこまで言われれば断れるはずはない。
    「…是非、お願いします」
    「決まりね!ほら、三月!この前面白いって勧めてくれたバラエティ観よ!」
     はしゃぐ百さんの言葉にチラリと千さんを覗き見ながら、料理をお願いしたばかりなのにまたそれが正解なのかグルグルと考える。
     そんなに…寛いでいいのか?いや、ただでさえトップアイドルに料理任せるんだぞ?やっぱりダメだよなそんなの。
     そんなオレからの視線に気付いたのか千さんは手に持った野菜を調理台に置く。
    「三月くん、僕は今日ね、毎日働き詰めな上に家に帰ってからも毎食用意してくれる三月くんを休ませてあげたいってモモにお願いされて来たんだ。何も遠慮することは無いよ」
     百さんの方が忙しくて大変なのにオレのこと考えてくれてたんだ…そう思うと途端に嬉しい気持ちが勝って、百さんのバツが悪そうな顔すらも可愛く思えた。
    「ぁ〜もう、なんでユキってば言っちゃうかなぁ…まぁそういうことだからさ、ほら、三月、おいで」
     トントンとソファを叩く百さんと早く行きなと視線を送ってくる千さんにおずおずとその場から足を動かす。
    「…はい、失礼します」
     初めの方は後ろから聞こえる調理音にドキドキしていたけれどそれに被せるようにバラエティ番組に反応して聞こえてくる笑い声に、プライベートな千さんを見れているようで少しだけ緊張がほぐれた。

     一本見終わる頃にご飯の炊き上がった音が聞こえ、部屋に充満した美味しい匂いに、思わずお腹が鳴りそうになる。
    「よし、食べようか」
     千さんの声が聞こえて急いで駆け寄る。
    「千さんありがとうございます!何か手伝います」
    「ありがとう、じゃあ料理持って行ってもらっていい?」
    「はい!」
    「モモ、グラスこれでいい?」
    「あ、ちょっと待ってその一個奥の」
    「あぁこれね」
     百さんが取ろうとする横から千さんがスッと手を伸ばしてシャンパングラスを三つ取る。
     二人が並ぶと顔の綺麗さと華やかさでそこは完全にテレビの中のRe:valeのように思える。
     あの店で働き始めて百さんと顔を合わせるようになってからRe:valeの番組をよく見るようになった。
     二人の空気感は店で見る百さんとはまた違い、良いグループなんだななんて思っていたけど、実際目の前で繰り広げられる二人のやり取りを見て心が痛まないわけがない。
     料理を囲んで食べ始めても楽しそうな二人の声に場違いなオレは、足のつま先をギュッと縮こめた。
    「ユキのご飯美味しいでしょ」
     嬉しそうに聞いてくる百さんに答えるために口いっぱいにつめていたご飯を飲み込む前に首を縦にブンブンと振って、しっかり噛んでから口を開く。
    「美味しいです!体に沁みます!いつもお料理されるんですか?」
    「うん、モモも好きだって言ってくれるしね」
    「モモちゃんダーリンのご飯がなかったら生きてけないっ一生養ってねっ」
     百さんの可愛らしいおねだりがオレにとっては毒かのように息がしづらくなって指がピクッと動いた。
     特権だと思った。自分の作った料理を美味しそうに食べてくれる百さん。そんな姿を見れるのはオレだけなんじゃないかって。
     そう…だよな。当たり前だ。百さんには千さんがいて、必要不可欠で。オレが敵う部分なんてひとつもないんだ。
     なにを夢見ていたんだろう。数分前までは寝ぼけたまま、まだこのぬるま湯に浸かって甘えていたいと思っていたけどはっきりと目が覚めた。覚めてしまった。
     こんな感情を持ったオレが百さんの側にいていいはずがない。ただのバーテンダーと客に戻らないと。百さんに触れられる距離にいちゃダメなんだ。
     そう思い、お風呂に入っている間に家を出る理由を考える。まぁもしかしたら急に出ていくことを百さんは何の引っかかりもなく受け入れてしまうかもしれないけど…せめて自分の心の整理に、といつもより少しだけ長く湯船に浸かった。
    「百さん、明日友達が泊まらせてくれるって言ってくれたので泊まってきますね!」
     結局当たり障りない理由で明日の宿泊先を作り出す。
    「そっか、オレも遅くなっちゃうかもだからちょうど良かった!楽しんできてね!」
     当たり前に“帰る家”であることを受け入れてくれる百さんの笑顔は嬉しくて苦しくて、大好きな笑顔だった。
     天日干ししたばかりの百さんの香りがする布団で眠るのも今日が最後だ。そう思うと涙が止まらなくて必死に声を抑えて気が済むまで泣いた。


    《今日泊まらせてくれる友達がしばらく泊まっても良いと言ってくれたのでそっちでお世話になろうと思います。
    忙しい百さんにこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないと思い続けていたけど、結局長い間お世話になってしまいすみませんでした。
    今できるお礼は料理かなと思ったので、おかずを冷蔵庫に入れてるのでよかったら食べてください。
    また改めてお礼させてください。
    本当に助かりました、ありがとうございます!》
     ラビチャを送信して携帯を閉じてからバーに入る。今日は営業と並行して次のコースの試作をしていたからいつもより遅くなり、賑わっている店内で壮五さんに声をかける。
    「お疲れ様三月くん。ごめんね、姉さん夫婦が来てなかったら僕の家に泊めてあげられたんだけど」
    「いえ、ソファを貸していただけてほんとに助かります、むしろあと三日も使わせてもらって申し訳ないです」
    「気にしないでゆっくり休んでおいで、おやすみ」
    「おやすみなさい」
     自宅へ帰れる目処も立ったし眠れるだけでありがたい。店の奥まで進みバックヤードのソファで布団を被る。バイトしなくたって泊めてくれる壮五さんは救世主だ。
     遅くまで営業している銭湯に行ってから来たから寝る準備は完璧で、閉じそうな瞼を必死に持ち上げて目覚ましを合わせて眠りについた。


    「三月」
     大好きな声に呼ばれた気がして目を覚ます。ボーッとしたまま視界に映るのは想像していた顔だった。
    「百さん?どうしました…?」
     寝転んでいた体をソファから起こして目を擦る。
    「しばらく友達の家でお世話になるって言ったじゃん。なんでソファで寝てんの?泊まる場所もないって壮五に聞いたけど」
     半分夢の中だったのに怒った様子の百さんに一気に目が覚める。
     ヤバい、変な嘘つかなきゃよかった、どうしようなんて説明する…?
    「ありがた迷惑だった?嫌なら嫌って言えばいいじゃん。なんで嘘ついて出てってこんなとこで寝てんの?」
     思わず逃げたくなるような、冷や汗をかくような感覚になる。
     ちょっと考えて何か上手く言い逃れることだってできた。でも自分の感情を誤魔化して怒らせたくなかった、嫌われたくなかった、だからもう嘘はつけなかった。
    「好き、なんです」
     ただそれだけで嬉しくて苦しくて。
    「百さんのことが、同性だけど…好きで。百さんの一生のうちのほんの少しの期間、百さんの心の内のほんの数センチ、オレが存在したことが幸せなんです。
    だから、ありがとうございます。オレは、百さんに出会えて幸せでした」
     本当に心の底から幸せで、自然と口角は上がって。最後は笑顔で終わりたいのに頰に涙が伝う。
    「百さん、ごめんねでいいですよ。店で会うのも嫌だったら店辞めますから」
     オレが言い終わると同時に百さんに抱きしめられる。大好きな、百さんの香りに包まれる。
    「何言ってんの、なんで勝手に終わらせようとしてんの?」
     押し潰されそうなほどの力で抱きしめられ、百さんの低い声が耳を刺す。
     なんでって…だって、オレは何の取り柄もない一般人で百さんはトップアイドルで。男を好きだなんていう奴が近くにいるのは良くなくて。
    「百さんの不利益にしかならないからです」
     ポツリと言葉を漏らすと体が一瞬で引き剥がされて今度は両方の二の腕をギュッと掴まれる。
    「はぁ!?オレが利益考えて人間関係作ってると思ってるの?いや芸能界では必要だけどさ!オレが、三月相手に、そんな不純な動機持って接してたと思ってるの?」
    「ちが、うけど…オレの好きはやっぱりどう考えても百さん相手に持っちゃいけない感情です」
     オレの言葉に何か言おうと思ったのか一度口を開いたけど考え直したようにその後キュッと下唇を噛むように閉じて少しの沈黙が流れる。
     百さんの手が伸びてきてオレの頭をふわりと撫でる。これ以上優しくしないでって思うのに大好きな手の温もりが離れていかないで欲しくて、我儘になる気持ちが膨らんでしまう。
    「三月、もういいや」
     溜め息を吐くみたいにボソリと呟く百さんの声音でもっと怒らせたんじゃないかって思わず目を見開くのと同時に百さんの両手が耳を覆い、頭を固定するように強くオレを離さない。
     そしてそのまま唇が重なった。
     あまりに衝撃で胸を押し返しながら頭を引き下げようとするのに背もたれ以上下がることは許されずにむしろキスが深くなる。
    「ん、、ぅ…」
     なんで、なんでキスなんか…オレなんかに、百さんが……?
     目を閉じていた百さんが急にオレを見つめて、閉じることができなかったオレの視線と交わる。
     その瞳はふざけているようには見えなくて、何か強い意志を感じて、抵抗していた手の力が抜ける。
     なんでそんな目してんの。なに、なんで、苦しい。好きだよ、百さん…
     何分にも感じたキスの終わりは唇をむにっと押し当てるように強く重なってから訪れた。
    「オレだって好きだよ、好きじゃなきゃ家に上げないよ」
     好きじゃなきゃって…百さんは優しいから好きな友人なら…
     そう考えているとオレの顎を掴んで顔を傾ける百さん。
    「まだわかってない顔してる。もう一回していい?キス」
    「キッ、まっ待って!待ってください!」
     顎に触れている手を両手で掴んで押さえ込むと百さんはフッと笑う。
    「じゃあ分かってよ、オレが三月のこと好きだって」
    「わかん、ないです…百さんがオレを好きになる理由なんて」
    「三月ってそういうとこあるよね」
     指と指が絡まりながらキュッと包まれる。
    「オレにとっては沢山あるよ。まず初めて会った時、急にオレが来て緊張して慌ててるのに他と変わりなく接客しなきゃって頑張ってるとこ可愛いなとか、そういう頑張れ〜って応援したくなるような一生懸命さ。
    お客さんには踏み込んでくノリなのに料理の話とかお昼の仕事の話を聞くと意外と真面目なんだなとか努力家なんだなって思うようになって。三月の作る料理を食べてみたくてランチしに行ったり、特別に試食させてくれるツマミ目当てにバーに来たり。
    いつでも笑顔を見せてくれる三月はオレにとってのとっておきの魔法で、疲れた時は顔を見たくなるし励まされたくなってた。
    三月が苦しい中頑張ってる時にLIVEに来てくれて、凄くパワーが漲ったって言ってくれたから、オレはずっと輝いてる姿を見せたかった。
    三月だからもっと知りたいって、もっと一緒にいたいって思ったんだ」
     百さんに並べられた言葉に耳を赤くしながら涙で顔がぐしゃぐしゃになったオレを見て笑う百さん。
    「春原百瀬は和泉三月に恋してるんだよ。伝わった?」
     鼻を啜っていると百さんがパーカーで涙を拭ってくれる。
    「はい…伝わりました…」
    「うん、よかった。じゃあいいよね?」
    「ぇ」
     ニッコリと笑った百さんが覗き込むように顔を近づけてきてまた唇が重なる。
     夢じゃ、ないんだよな。全部、全部ほんとで…オレと百さんが両思いで。
     唇がお互いの熱でずっと熱くなるような百さんとのキスは今まで何度か経験したキスとは違って、まるで小学生の初キスかのように心臓が跳ねて、うまく息ができなくて一度唇を離す。
    「待って」
    「ヤダ、だって三月勝手に離れようとしたもん。罰ね」
     もう一度重なった唇が何秒も、何十秒もオレを離してくれなくて初めて我儘な百さんを見られて嬉しく感じてしまったんだ。
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