父親が最低になった記憶というのは僕の中でちっとも消えないでいる。誕生日とクリスマスには必ず僕と母に笑ってそれぞれプレゼントをくれたあの男は、ある日を境に気が違ってしまった。母に暴力を振るうようになり、その手は止めてと泣いて縋った僕にまで及んだ。母は僕を守るのに必死で、特に性暴力からは僕を遠ざけた。いつもは僕が泣いて縋ってもただ謝って泣いてるばかりなのに、あの男が服に手を掛けたとたん僕を部屋の外に放り投げて鍵をかけた。僕がどれだけ泣いても喚いても縋っても部屋と扉は開かなかった。そんな日々がいつまでも続いていたら僕と母はとっくに死んでいる。母はある真夜中、僕を連れてあの男がいる部屋を出た。
かつて家と呼ばれた場所はもうそのときの僕にとっては拷問部屋でしかなかったため、母と共にそこを離れるときには泣きもしなかった。あの男とはそれっきり。引っ越し先の人々は僕と母しかいない状況を面白がり、父親は川に飛び込んで死んだんじゃないかなんて噂されてる。そうだったらいいと、僕はずうっとひそかに願ってる。
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