「孫悟空の息子め……忌々しい……」
舞い戻ってきた地獄にて恨み辛みを吐くのは仕方がないことで。ドラゴンボールの力で蘇り、孫悟空への復讐の為にこの私がわざわざ修行してまで地球へ出向いたというのに、まさか復讐相手を見ることも叶わず息子に敗北するとは。何度思い出しても腹が立つ親子だ。
「ちくしょう……絶対に許さんぞ孫悟空の息子……」
「フッフッフ……どうやらようやく貴様にも孫悟飯の強さが理解できたようだな」
「その声は――セルさんですか。すみませんが今は貴方の相手をしているほど私は気が長くないんですよ」
「フリーザ、余裕がない貴様をからかうチャンスを私が逃すわけないだろう?」
どこからともなく背後から聞こえてきた声は地獄で同じ釜の飯を食べた中の人造人間であった。同じく孫悟空へ恨みを持つ者として共に過ごしてきたが、今はその愉悦を楽しむ存在が鬱陶しい。無視して反対方向に足を進めるが瞬間移動で正面へ回り込んでくる。まるで子供のような悪戯が妙にカンに触った。
「なんですかセルさん、これ以上私の邪魔をするなら殺しますよ」
「面白い冗談を言う、我々地獄の住民には死の概念はないというのに。既に一度死んでいるからな」
「気持ちの問題ですよ。付きまとってきて目障りったらありゃしない。暇なんですか?」
「ああ、貴様がいなかった半年間は少々退屈だったな。だがこれからはまた楽しくなりそうだ」
「私に喧嘩を売っているんですか?」
「そうだと言ったら?」
「フン、馬鹿馬鹿しい。今は貴方に付き合ってるほど私は暇じゃないんですよ」
「――孫悟飯に負けたからか?」
振り返りざまに一発蹴りをお見舞いするがガードされてしまう。どうやら私が現世で修行をしている間に相手もまたあの世で修行をしていたらしい。出会った最初こそ相手に遅れをとっていたが以降の実力は拮抗していた。実力が拮抗しているということは勝負が長引くということだ。今はそんな気分ではないので構えた足を地面に下ろした。
「孫悟飯……ですか、ヤツの名前は」
「ああ。孫悟飯、エイジ757年生まれ、趣味は読書と釣りと研究。食べ物は好き嫌いなし。好きな乗り物はハウスワゴン」
「……やけに詳しいんですね」
「ヤツのデータは全てインプットされているからな」
「そうですか」
得意げに笑う相手を一蹴する。しかし相手は気にせず減らず口を叩き続けた。
「本当の孫悟飯はあんなものではない。フリーザ、貴様は修行を怠り身体が訛っていた孫悟飯如きに負けたんだ。どうだ今の気分は?」
「最悪以外にあると思います?」
「フフフ……それもそうだな。孫悟空に復讐するどころか、眼中にすらなかった息子におめおめと負けてしまったのだからな」
「……随分と知ったように喋りますが、貴方は今より幼かった孫悟飯如きに負けたんですよね。どうですかセルさん、今のお気持ちは?」
「そんなもの最悪以外にあると思うか?」
「ふっふっふ、それもそうですね。分かりますよ貴方のお気持ちは。貴方も眼中になかった孫悟飯に負けたんですもんね」
「貴様にしてはやけに突っかかってくるじゃないか、フリーザ」
「さあ、そうかもしれませんね。でも今なら貴方の気持ちが少しは分かりますよ。さぞお辛かったでしょう。貴方には自分を復活させてくれる有能な部下もいませんからね、可哀想に」
「いや、そうとも限らないぞ?まだ地球には我が子と言える存在が残っているからな」
「ほう、それはさぞ大変ですね。実の子にも見捨てられたんですか」
「フッフッフ……」
「ほーっほっほ……」
一触即発の空気があたりに立ち込める。悪役同士のやりとりというものは所詮こんなものだ。暫く見つめ合った後に、お互いに目線を逸らして微笑む。
「孫悟飯、次に復活した暁には今度こそ家族諸共八つ裂きにしてやりますよ」
「そいつは聞き捨てならないな、孫悟飯は私の獲物だ。貴様は孫悟空やベジータでも相手にしていればいいだろう」
「復活する人望もない人が偉そうに言いますね」
「貴様とて今回有能な部下とやらは全員孫悟飯に倒されたではないか」
「……彼らは皆生きていますよ。父親に似て優しい孫悟飯が手加減をしてくれましたからね」
「そうか、孫悟飯の甘さのおかげで命拾いしたな」
「ええ、おかげさまで」
ああ、思い出しても腹が立つ。我が宇宙最強のフリーザ軍相手に殺さないという手を抜き、私に対しても父親同様に情けをかけて。本当に私を怒らせるのが上手い猿親子だ。
孫悟飯、貴様の名前は覚えたぞ。次は真っ先に貴様を八つ裂きにしてやる、覚悟しろ。