彼女の話彼女はエルフだった。人間の私より当然長生きして、私が先に死ぬ。そう思っていた。
彼女は事故で死んだ。
あっけなかった。事故に遭ったと知って病院に駆けつけた頃にはもう死んでいた。
現実ではないような気分のまま葬式が終わり、私は彼女の家族に遺品整理を頼まれた。
遺品整理をしながら、彼女との日々を思い出す。
彼女は恋人の私に一度も好きと言ったことはないし、いつもそっけなくて何を考えているかわからなかった。
私だけが彼女を好きで、長寿の彼女が人間の私に付き合ってくれたのは時の気まぐれ。私の一方通行。そんな感じだった。
部屋に入り、見渡す。
棚には一緒に水族館に行った時の魚のぬいぐるみが飾ってあった。
引き出しを引くと何度か練習したように見えるヨレヨレのシュシュや、開いたままのイヤリングがあった。全て私が贈った物だった。結局、一度も着けて見せてくれることはなかったけど。…練習してくれていたんだ…。
「あ」
日記を見つけた。人の日記は見るべきではない。でも私は、彼女のことを何も知らない。興味が湧き、ノートをめくってみた。
「6月12日 柊とメッセージでやり取りした。今日の課題が終わらないらしい。答えを教えた」
「6月13日 学校で柊とお弁当を食べた時、柊の弟が反抗期という話を聞いた」
「6月14日 「柊と授業中目が合った」
…………
私のことしか書いていない。
私ですら忘れていた、他愛もない日々。
9月13日まで毎日私のことが綴られていた。
「9月13日 明日は、柊に…」
読みかけたところでコンコンとドアがノックされた
「っ、は、はい」
「柊ちゃん、大丈夫?」
彼女の母親が尋ねてきた。
「…大丈夫です。」
「…あの子ね、最期まであなたのことを話していたの」
「………え?」
「まるで言い残していることを全部吐き出すみたいに。柊と一緒に生きて、たくさんのことをしたい、って」
「柊と出会えてよかった、って」
手元の日記に顔を落とす
「9月13日 明日は柊に好きと言ってみようと思う」
ポロポロと涙が出てきた。
一気にもう彼女がいないこと、もう一緒に過ごせないこと実感した。彼女のその日言うはずだった言葉を聞けなくなってしまった。本当に私のことしか考えていないくらい私のことを想っていた。本気だった。
そう気づき、涙が止まらなくなる。
「本当に私は、あの人のこと何も知らなかった、な…」
今までの彼女の温かさに気づき、冷めていた胸は温かくなった。
遺品整理が終わり、私は元の生活に戻った。きっと彼女も私より先に死ぬとは夢にも思っていなかっただろう。
もう彼女は戻ってこない。あなたが一緒に過ごしたかった日々を背負い、私はこの短い人生を生きていく。そう決めた。