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    NaxEew

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    NaxEew

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    小学生時代の猿川と依央利の話を書いてみました。

    ミサンガ「これあげる!」
    小学校の帰り道。突然いおが手渡してきたのは、ピンクと黒と灰色の3色で編み込まれている15センチくらいの紐だった。
    「なんだこれ」
    「ミサンガ」
    聞いたこともない。不思議に思ってムッとした顔でその紐を眺めていると、いおはペラペラと話し始めた。どうやらこのミサンガとかいう紐は、手首や足首に巻くアクセサリーのようだ。いおのクラスで今ミサンガ作りが流行っているらしく、こいつはそういうの得意だから、たくさん作ったという。これはそのうちのひとつ。
    「これをつけるときに願い事をすると、ミサンガが自然と切れたときにその願いが叶うんだって。」
    「ふん」
    願い事が叶うまじない。そんなの子供だましだ。なんだかムカつく。
    「俺は願い事は自分で叶える。こんなのいらねー。」
    ん!とミサンガを突き返すと、いおは困ったような顔をした。
    「えー。せっかく作ったのに。じゃあ別に願い事なんてしなくてもいいから貰ってよ」
    一度返したのにまた突きつけてくる。頑固な野郎だ。まあ、ちょうど俺の好きな色合いだし、貰っといてやるか。
    「あ、わざとミサンガを切っちゃだめだよ。自然と切れたときでなきゃ願い事は叶わないんだって。」
    「だから、願い事なんてしねーよ。」

    施設に帰ってから、ミサンガを足首に巻いた。
    巻くとき、何も考えないわけではなかった。願いというか、こうなってほしいとか、あれがほしい、これがしたい、とか、そういう気持ちはいろいろある。でもその気持ちを、こんなただの紐に託すのはムカついた。願いを叶えるのは俺自身であって、この紐じゃない。だから、俺はあえてなにも願わずにミサンガを巻いた。

    次の日、靴下を履くときに、足首に見慣れない色が巻きついてるのを見て、あ、と昨日のことを思い出した。そういや昨日ミサンガ巻き付けたんだった。いおのニコニコした顔が思い浮かんだ。靴下を履いて、ミサンガを覆い隠した。

    「猿ちゃんおはよう」
    いおは毎日わざわざ施設まで迎えに来る。
    「ミサンガつけてくれた?」
    「うん」
    「願い事した?」
    「だから、してねえって。…お前はミサンガ着けたのかよ」
    「うん、足首に着けたよ」
    「願い事した?」
    「してない」
    なんなんだよ、と思いながら小石を蹴っ飛ばした。

    学校に着き、俺は4年生の棟へ、いおは5年生の棟へ。
    「また帰りにね」
    いつも通りのそのセリフを聞いて別れた。
    学校はつまらない。大人の言うことを聞いて、おとなしく授業を受けてろなんて、めんどくせえにもほどがある。体育と給食しか楽しみがない。はあ〜と大きなため息と舌打ちをした。
    まあ今日は4時間目に体育があるから、体育のない日よりはマシだな。体育だって、他の授業よりは面白いってだけで、ルールの中でやんなきゃいけねぇからそこまで楽しくはないが。早く4時間目にならねーかな、と授業中は時計を見て過ごした。

    そしてやっと4時間目、体操服に着替えるとき、勢い余って靴下まで脱いでしまった。足首が晒されてピンク色が視界にちらつく。
    横で着替えてたやつが「なにそれ」と声をかけてきた。
    「んだよ」
    「足首のやつ、なにそれ」
    「ミサンガ」
    「学校にアクセサリーつけてきていいの?」
    「うっせ」
    なにやら言ってきたけど無視して着替えた。

    体育が終わって、給食を食べて、もう今日の楽しみはなくなった。帰りてえ。5、6時間目は寝て過ごした。

    6時間目の終わりを告げるチャイムが鳴って、さっさと教室の外へ飛び出した。帰りの会はいつもパスだ。

    下駄箱で待っていると、5分後くらいに小走りでいおが来た。
    「おまたせー」
    「おせーよ」
    こいつは真面目に帰りの会に参加するから、いつも俺の方が先に下駄箱で待っている。
    「今日も寄り道する?」
    「おう」
    放課後は大体いおと遊んで過ごす。公園に行ったり、駄菓子屋に行ったり、いおんちでゲームしたり。今日はどこに行こうか考える。学校なんかよりいおと遊んでる時間の方が何億倍も面白い。
    その日はいおんちでゲームして遊んだ。いおの母ちゃんが帰ってくる頃に解散して、施設に帰った。

    次の日もいおが施設まで迎えに来て、学校へ行く。おんなじ毎日のつまらない繰り返しだが、今日はなにやらざわついている感じがした。
    下駄箱のあたりで、いおのクラスの女がいおを見つけて話しかけてきた。
    「ねえ、教室で先生が抜き打ち検査してるよ」
    「なんの?」
    「うちらのクラスでミサンガ流行ってるじゃん。でも、学校にミサンガつけてくるのダメって言われて、みんな外すようにだって。」
    「えぇ〜」
    それを聞いて、俺はため息をついた。あのただの紐のなにが駄目なんだよ。ガクギョーにシショーが出ないからいいだろ。んな指図に従う必要はねえ。
    だというのに、いおは靴を脱いだあと靴下も脱いで、細い足首からするりとミサンガを抜きやがった。
    「おい!」
    「ん?」
    「外しちまうのかよ」
    「えーだって抜き打ち検査してるらしいし。ここで外さなかったら教室で外させられるだけだもん。」
    「てめー優等生かよ。んなもん無視しときゃいいんだよ」
    「ダメだよー。言うことは聞かなきゃ」
    チッ!と舌打ちした。んだこいつ、ヘタレめ。
    「じゃあ猿ちゃん、また放課後ねー」
    「ふん」
    いおと別れて自分のクラスへ向かう。
    学校ってのはやっぱりめんどくせえ。意味のわからない無駄な決まりが多すぎて、俺はそのすべてに反発したくなる。朝からイライラする。今日は体育もねえし、給食しか楽しみがない。早く帰っていおと遊びたい。

    朝の会。机に突っ伏していると、センコーが話し始めた。
    「5年生のクラスでミサンガ……アクセサリーが流行っているみたいですが、学校はアクセサリー禁止だから、みなさんはつけてこないように。」
    わざわざ俺のクラスでまで言うことか。バカバカしい。アクセサリーくらい別にいいだろが。禁止って言われるとやりたくなってしまうってことがわかんねえのか。

    「先生、猿川くんが足首にミサンガしてました」
    突然、自分の名前が耳に飛び込んできて目を見開く。昨日、体育の着替え中に話しかけてきたやつだ。そういえばこいつに見られていたんだった。
    「そうなの?猿川くん、ミサンガは外してね」
    「いやだ」
    突っ伏したまま答える。外して、と言われるともう絶対に外したくないという気持ちになる。
    「猿川くん。」
    センコーの声が冷たく、キツくなる。
    「外しなさい」
    「いやだ。別にいいだろ。」
    「ダメだよ!決まり守れよ!」
    チクリ魔が野次を飛ばしてくる。ムカつく。てめえが言わなければ隠し通せたのに。んだよ、クソが。
    「うっせえ!ミサンガくらいつけててもいいだろ!」
    イライラして思わず声を荒らげる。
    「でも決まりは決まりなの。ほら、足首出しなさい。」
    センコーがしゃがみこんで上履きと靴下を脱がせてくる。足首がさらけ出されて、ピンク色の紐が出てきた。がたん、と音を立てて立ち上がった。センコーは怒ったような呆れたような顔で俺を見てくる。俺が間違ってると言いたげな目で。俺のなにが間違ってるんだよ。ムカつく。どうでもいいことばっかり気にして命令してくるやつらがムカつく。
    「てめー、言ってんじゃねえよ」
    立ち上がった勢いで、裸足のまま、チクったやつの席に近寄り机をばんと叩く。
    「は?逆ギレ?なに?」
    そいつはバツの悪そうな半笑いで俺を見てきた。
    「猿川くん!座りなさい。」
    「うっせぇ」
    命令されるたび、指図されるたび、頭に血が上って、もう自分では歯止めがきかなくなっていくのを感じた。猿川くんはカンシャク持ちだから、とかなんとかセンコーが言ってたのを思い出しながら、チクリ野郎の肩をどん、と突いた。
    「はあ?おい!やめろよ!」
    やつもムカついたのか、俺に仕返しとして蹴りを入れてきた。
    周りの席のやつらがザワザワとし始め、俺たちから距離を取り始める。始まったぞ、また喧嘩か、とか口々に言って。
    「決まり守らないお前が悪いだろ!」
    「うっせえ!死ね!」
    叩かれて、叩き返す。相手もまた俺を叩き返す。そうして喧嘩はヒートアップしていった。頭に血が昇って、ムカついて何も考えられなくなる。センコーが大声でなにか叫びながら俺らの間に入ってくる。それでもムカつく気持ちを止められない。
    揉み合っているうちにやつに足首を掴まれて、ミサンガがぶち、と千切れた。

    あ。

    千切れたミサンガを見て、なんか急に冷静になってしまって、相手を殴るのをやめた。ミサンガを拾って、相手に背を向けて教室を飛び出した。逃げんなよ!とかいう声が聞こえたが無視して走った。
    顔が熱い。
    下駄箱で自分のスニーカーを履いて、走って校門の外へ。そのままひたすら走る。
    走っているうちに、頭が冷えて、虚しい気持ちになった。
    やがて誰も通らない路地裏に辿り着いて、座り込んだ。

    握りしめていた拳をゆっくり開く。いおが作ってくれたミサンガは、何度見てもやっぱり無惨に千切れていた。

    「わざとミサンガを切っちゃだめだよ。自然と切れたときでなきゃ願い事は叶わないんだって。」

    いおが言ってた言葉を思い出す。
    はぁ、はぁ、と息を切らしながら、壁に囲まれた狭い空を見上げる。

    ミサンガ巻くとき、普通の家族がほしいとか、いおとずっと一緒にいたいとか、なにも願わなくてよかったな、と思った。
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