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    nousonam19

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    nousonam19

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    👹🦊
    威嚇🦊

    お持ち帰り祭囃子が遠くに響く。

    初めて来た土地の、楽しいお祭り…オモテ祭りに参加した帰り道。
    まだまだお祭りは続くみたいだけれど、はしゃぎすぎて疲れてしまったわたしは、襲いくる眠気には勝てなかった。

    提灯の明かりが届かない木々の間を歩く。

    さっきまでの熱気とは打って変わって、夜独特の冷たい空気が頬を撫で、木の葉が風に揺れてカサカサと音を立てる。

    がさり

    草を分けるような音と共に、目の前に長い黒髪の女の人が現れた。
    和服の裾が月光に映え、鋭い金の瞳と視線が絡む。

    「誰?」
    こちらを警戒するような低い声。

    えっと、と突然のことにびっくりしたせいで言葉が出ない。

    「この辺じゃ見かけない顔ね。何、よそ者?」

    訝しむような、鋭い視線。

    「その…。」

    しどろもどろになりながら、なんて答えようかと恐々様子を伺う。

    わたしがもじもじしていると、彼女の表情が急に変わった。
    口角がゆるりと上がり、金色の瞳が妖しく揺れる。

    ジロジロとわたしを見て、一言。

    「へえ…?あんた、狐?かわいいわね。」

    その言葉に警戒心がぶわっと湧き上がった。

    (バレた!?)
    お祭りでも誰にもバレなかったのに、目の前の彼女はにやにやと、さも当然のようにわたしの正体を見抜いてきた。

    只者じゃない、と慌てて変化を解く。
    狐耳がピョンと立ち、ぶわりとしっぽが膨らんで、牙と爪が伸びる。
    ぐるると喉を鳴らして、警戒体制に入った。

    「わたし、強いよ!」
    強気な声で言い放ち、口を大きく開けて牙を見せつける。

    狐妖怪の世界では口と牙が大きい方が勝ち。
    今までだって、誰にも負けたことはない。
    わたしは自信満々にガバッと口を開く。

    ぎゃうぎゃうと唸り声を上げて威嚇するけど、彼女は首を傾げて、意味がわからないというような顔をする。

    「何それ?」
    こう?彼女が呟くと、わたしの真似をするようにガバリと口を開けた。

    「…え?」
    彼女の口があまりに大きく、鋭い牙が月光に光る。

    (やっぱり、人間じゃない…!)
    狼狽えるわたしに、「そうそう、あたしは鬼だから。」と彼女は思い出したように言う。
    にょきりと額からツノが生え、背後の月がゆらりと彼女の姿を照らした。

    牙なんて、わたしの2倍くらいはありそうなほど長くて鋭い。
    これは…。

    「負けた…。」
    唖然として、耳がぺたんと倒れる。

    「よくわからないけど、あたしの勝ち?」
    うふふ、と楽しそうに笑っている。

    負けたとわかった瞬間、わたしはきゅんきゅんと鳴きながら地面に転がり、お腹を見せた。

    …狐妖怪の本能が嫌でも出てしまう。

    「うう…。」
    恥ずかしさで、顔が熱くなる。

    しゃがんで顔を覗き込む鬼。怖くてギュッと目を閉じた。

    「かわいい、かわいい。お腹まで見せちゃって…。」
    彼女の手が頭を撫でてくる。
    気が強い声なのに触れる手は優しくて、ついしっぽがパタパタ動いてしまう。

    ぎゃう!と吠えても、はい、あーん!と口を大きく開いて見せつけられたら、きゅんきゅん鼻が鳴る。

    「目的は何…?」

    狐妖怪の妖気は美味しいから、他の妖怪が欲しがると聞いたことがある。
    わたしも食べられちゃうのかな、と考えて、ブルリと震えた。

    「あんたがかわいいから、連れて帰りたくなっただけ。」

    彼女はわたしの手を握り、立ち上がらせてくる。

    「連れて帰る…?」
    心臓が跳ねる。やっぱり食べられちゃうんだ…。
    怖くて、不安で、しっぽもだらりと垂れ下がってしまった。

    急に静かになったわたしを不思議に思ったのか、じっと見つめてくる。

    「なに…?」
    「あたしはゼイユ。あんたは?」
    これから食べるのに名前なんて、と思ったけれど、負けたわたしに拒否権はない。

    「わたしはアオイ。」
    「ふうん。」

    アオイ、アオイね。と噛み締めるように繰り返すゼイユ。

    「あたしの家、近くにあるの。静かでいいとこだから、気に入るよ。」
    ニタリと笑うゼイユに返す言葉が見つからないまま、手を引かれる。

    満月の光がゼイユの背中を照らし、祭囃子が遠くに聞こえた。

    まるでどこにも行かせないと言うように、わたしの腕は硬く握られている。

    サクサクと夜の道を歩くわたしたちの足音だけが暗い森に響いた。
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