それは遠い昔にあったような、そうでもないような、ぼくの中のセピア色の記憶──
「ねぇ、みてみて要!どう?お母さん似合う?」
そう声を弾ませながらぼくに問いかけたお母さんがその場でくるんと一回転した。その動きに合わせてレースのあしらわれた長くふわりと膨らんだスカートが花のように広がる。幼いぼくはその光景を見て思ったことをそのまま口にした。
「お母さん、おひめさまみたい、きれい」
「お姫様!?ふふ、ありがとう要〜!」
「わっ」
ぎゅっと笑顔のお母さんがぼくを引き寄せて抱きしめる。お母さんの腕の中はあたたかくて、だからだろう、胸がぽかぽかとする。ぼくもお母さんを抱きしめ返す、お母さんからは優しい香りがした。
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