お月様が見てる!(快平と聖平)ビルの屋上、大きな満月の下、そこに 2人分の人影があった。
「こんばんは、名探偵!またお会いしましたね」
「待てキッド!おまえ、俺の唇奪おうとしたこと、絶対に許さんからな! 」
「なんだよ!まぁだそんなこと言ってるのか!!」
先ほどまでの紳士の口調と違って、友達同士で話すようなタメ口にがらりと変わる。
「いい加減、キスの恨みの帳消しってことで記憶から消しちゃいなよ」
「そんなことできるわけないやろ!」
西の名探偵が純白の怪盗に詰め寄る。
月の光のせいでお互いの顔がよく見える。
『あぁ、やっぱりよう似とるな』
そんなことをぼーっと考えてしまった。
自分の大親友であり、自分のライバルであり、今は体の小さな、自分と同い年のこちらも名探偵。
「あの時しっかりと助けてやったじゃないか」
「それは感謝しとる」
「じゃあ何?」
ふ、と表情が和らぐ。
世界中でただ自分一人しか知らない、この怪盗の素顔を。
自分はただ、ただ今、独占している。
何とも言えない不思議な感情。嬉しいとか悲しいとかイライラするとか、そういうことは一切関係ないような、何か特別な誇らしいような感情。
『これに名前はつけられへんと思うわ』
顔が赤くなったのを悟られないように、顔を背けた。
「記憶から消したくないほどに既成事実、ってやつにしたいって事?」
「は、はぁ?!」
背けた、けどすぐさま睨みつけた!に変更。
顔が赤いのはそう、怒、おこ( #`꒳´ )だから!
「だってそういうことでしょ( ≖ᴗ≖)ニヤッ」
「ちゃうわ!( º言º)」
「(´・ω・`)じゃあ何さ」
「だから、(;(;(//̀Д/́/););)それは、」
「西の名探偵殿は、嘘が得意じゃないタイプ、なのですね(*´艸`)」
「ほんなら怪盗はんは嘘つきだらけの詐欺野郎ってことになるんか?」
服部平次の目がキラリと光った。
「演技なのか、それとも得意のポーカーフェイスなのかは知らんけど。お前がいつも狙うお宝、本当に欲しい訳やないんやろ、わかるわ、そんなん」
その言葉に怪盗も些か驚く。
「狙う真実は1つ、いつもそれに辿り着けん、こういうこっちゃ」
「へぇ、何故そのように思うのです?」
「満月に宝石かざして、いつも悲しそうな、悔しそうな、辛いカオ、しとるやろ」
『よく、見てるな』
こちらの事情はいくらなんでもこの探偵に全て見透かされている訳は無いハズ。
「探偵の場合は狙う真実、怪盗の場合は狙うお宝。そういうこっちゃろ」
お互いの表情がすぐ近くに。
観察しあえる程の。近距離にいるこの状況。
あの福城聖もこの服部平次に救われて。
今は間違いなくこの彼の事の方があのポニーテールの子より気になるハズだ。
だって今、自分が救われた気持ちに、少しなったから。
分かってくれる人が自分以外にも、そりゃいるけど。
まさかこの西の名探偵殿が。
「やっぱ、苦しくなる事情、抱えてるんやな」
眉を潜めて見つめてくる。
『なんでお前が泣きそうなの』
「あー、あー、もう。好きだなー」
「は?やっぱ宝石全部がか!」
「違う、いや違うって言うわけにもいかないか、自分怪盗やってますので」
「じゃあ、金か?(ΦДΦ)それとも金の延べ棒か?」
「なぁにそれ、大阪人のボケなの、ツッコミなの?もうちょい、関西人のお笑いのレベルって高いんじゃないの( '-'* )?このままだと笑いの方向性違って解散しちゃう漫才師じゃんよ」
「はあー!関西の純粋で!崇高で!神がかったお笑いをw関東のひっくーい下品なお笑いがなぁにを言うとる!ふん( ^言^)」
「ほ、本題逸れてるよ( ˊᵕˋ ;)」
ひゅお、風が唸った気がした。
「好きって、じゃあ、なんなん」
夜空の風が吹いて、場の空気をまた元に戻してくれた。
「既成事実にしよ?」
フワリ、白い影が降ってきた。
重なった唇同士。
きっと5秒くらい。
いや、もっと?
もっと、ずっと続いてくれて良いけど。
「はい、恨みはなくなりました。」
「な、な、な、な?」
慌てて袖を唇にあてる、でも。
擦らなかった。
消えるのは、
「唇、拭かないんだな」
「そ、」
嫌。
「そんなにチュー良かった?」
「なああああ?!」
「それではまたお会いしましょう、麗しき孤高の漫才師、ではなく、失礼?名探偵服部平次様?」
またキスされた。別れ際の軽い唇同士が一瞬触れる程度の。
夜空に白い翼が現れ、勢いよく飛んでいく。
遠ざかる。
「好き、って、いうのは、まさか」
そう、そのまさか。
「あー、良かった、な、アイツとのキス。」
夜空の星は綺麗だ。
「で、あれか、お月様にも見られてたって訳か」
ああ、いかん、これは。
だって、気になる奴、好きだな、って奴と。
チューしちゃったんだもん。
「福城聖、あいつ絶対服部平次に惚れただろなー」
確信した。
お互い満月の下で顔だけが赤い。