声をあげて泣いてくれ ひぃ、ふぅ、みぃ。
さくりさくりと足元が沈んで、後ろを見るとまっしろな地面に足の大きさ分だけがかたどられて沈んでいる。足の形はふたつ。後ろに向けた首をもっとぐぐぐ、と捻る。と、相手がおおきな白い息を吐いてさくさくと歩いてきてくれた。まっしろい雪の中で褐色の肌はよく目立つ。にこりと笑えば相手はまたおおきく息を吐いた。鶴丸が捻っていた首を体ごとぐぐぐ、と正面にもどしてくれる。
「鶴、何をしている。俺がいるか確認したいなら反対側に体を捻れば済むだろう」
「? 大倶利伽羅が、どこかへいった」
「行っていない。ずっとお前の左側にいた。右に体を捻ったから見えなかっただけだ」
「そうなのか」
「ああ」
はて、そうだっただろうか? そうかもしれない。何せこの大倶利伽羅、と言う刀はなんでも知っていて鶴丸にたくさんのことを教えてくれるから。今度はいないと思ったら左をむいてみよう。首がちょっと変だ。ぶんぶんと首を振ってみる。違和感がなおらない。これが人の身というやつか。ああ、そうだった。たしか昨日は付喪神時代の癖で壁をすり抜けようとして頭をぶった。ぐわんぐわんするのが嫌だったからあれはもうやらないようにしないといけない。なんだかこの身を得てから覚えないといけないことが多い。
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