曙凉さんおめでとう2025
SFポエム
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『太陽系第三惑星地球
交信を開始します
罪人は呼びかけに応じよ』
両手を広げて、空を仰ぎました
東京の空は狭く、声が届きにくいのです
『GN0625
貴方の罪は?』
今、口に出せる音では表すことができません
地球の音はとても少ないから
『貴方の贖罪は?』
誰かを幸せにすることです
『成果の報告を』
最高の仲間が作った音楽をやる
最高のバンドで幸せを届けています
他にも、お菓子を配っていますが
バンドに比べれば微々たるものです
『"バンド"。
貴方の贖罪に、
それは本当に相応しいのですか?』
誰かを幸せに出来る
一番の方法だと思います
一等星の輝きを中心に
様々な色の星が輝きを放ち
その光をあびた地球人からは
幸せのエネルギーが溢れています
『GN0625
貴方の報告には虚偽があります』
いいえありません
なにが嘘だと言うのでしょうか
母なる星よ
『貴方は我が胸に帰ろうとしていない
貴方は地球を愛している
貴方はバンドを愛している』
幸せにしたいと願う者を
愛することは間違いなのでしょうか
『GN0625
貴方の罪は?』
……地球の言葉では
言葉にできません
『それは虚偽です、GN0625
嘘の報告は許されません
罪の忘却は許されません』
……空が遠く、声が届きません
交信を終了します
『罪人よ
決して己を愛さないように』
─── ─ ───
「凉、終わったのか」
「あ、ケンケン。うん、おわったよ」
曙凉はゆっくりと腕を降ろす。空を仰いでいた首も、声をかけてくれた友人の方へ向き直した。
「どうだったんだ、今日は」
「うーん、やっぱり東京に来てから電波が悪くて。あんまり聞こえなかったよ」
「そうか、残念だったな」
しっかりと話しを聞いてくれる友人──賢汰は、足元に置いてある数個のビニール袋を持ち上げた。
「ケンケンは、買い物終わったの?」
「ああ。ちょうどいい時間だったよ。これだけ持ってくれるか、想定していたより多くなってしまった」
「うん、いいよー」
差し出された袋と、もう一つを持つ。ありがとう、と笑う賢汰を見て、少量の幸せのエネルギーを感じた。
「おかえり凉ちん。悪いね〜〜主役に買い出しなんか行かせちゃって」
「凉さん、賢汰さん、おかえりなさい」
共同生活をしている部屋に帰ると、礼音と深幸が玄関まで出迎えてくれた。二人からも、少しエネルギーを感じる。
「主役って、なんのこと?」
「えー?」
「凉さん今日誕生日だろ」
「誕生日だと、主役?なんの?」
「なんの、か……改めてそう聞かれると、なんなんですかね?」
「はいはい、宇宙規模と哲学は一旦やめて。とにかく今日の主役は凉ちん!だからもうあとは俺たちに任せてリビングに座ってな」
持っていたビニール袋を奪われて、そのまま背中を押されてリビングのソファに座らされる。先客がいたけれど、黙って斜め向かいのソファに移動してしまった。
「にゃんこたろう〜〜おいで〜〜」
「構うな。好きにさせろ」
「那由多のお膝、幸せだもんね」
白い毛を揺らす二つからも、エネルギーを感じる。この家は、エネルギーの源だと思う。あまり幸せでいない時も多いけれど、幸せな時のエネルギーはものすごい量に溢れている。この家、ではない。ここにいる地球人たちが、源なのだ。いつか帰る星のようにキラキラと輝く力を放つ、類稀なる地球人たち。
「おい那由多!お前も手伝えよ」
「まぁまぁ、それはいつものことだし」
「キッチンに人がいすぎても動きづらいからな。礼音、ダイニングテーブルの方でグラスを拭いてくれ」
「わかりました」
今日は一段とざわざわとしている。自分の誕生日……故郷の星から地球へ流れ着いた日。罪が生まれ、贖罪の旅が始まった日。
「わ!賢汰、お前ちゃっかりワイン買いやがったな」
「組み合わせ自由のまとめ買いがお得だったんだ」
「だったらスパークリングを二本買ってこいよ、お祝いなんだからさ」
「全員の飲む量を考えたら一本で十分だろう?」
「おまえな〜〜〜〜」
「賢汰さん、終わりました」
「ああ、こっちも出来上がったよ」
目の前のテーブルに、キッチンからたくさんの料理が運ばれてくる。礼音が拭いていた背の高くて細いグラスが五つ置かれて、指でなぞって繋げると星のかたちになる。那由多の膝にいたにゃんこたろうが指の動きにつられたのかこちらの膝にやってきた。白い毛並みを撫でてあげたらゴロゴロと鳴いた、少しめずらしい。
「うん、幸せが集まってきた」
「お、主役がそう言うんだったらもう大成功だな」
キッチンいた三人もテーブルまでやってきて、ソファとスツールに座って、全員でひとつの輪になった。
「それにしても、全員でパーティーする日が来るなんて思わなかった」
「礼音くん、今それ言っちゃう?」
「う、ごめん……」
「まぁ、偶然全員オフだったんだ。明日は一日中練習だし、羽目を外しすぎないように楽しもうか」
「偶然ねぇ〜〜。なんだかんだ必然なのかもよ?」
「うん、そうだといいな」
オレはいつか、故郷の星に帰るけれど。
この太陽系第三惑星に生まれ落ちて、その恒星を超えんとする一等星。一等星に引き寄せられた惑星たち。それを地球人は運命と呼ぶ。
「それじゃ乾杯の音頭は、せっかくだし那由多?」
「知らねぇ。さっさとしろ」
「凉、誕生日おめでとう。これからも頼りにしている」
「ありがとうケンケン」
「ちょっと賢汰さん!?」
「ったく……相変わらずだなぁ俺たちは。それじゃ、乾杯!」
ポン、と炭酸の弾けて、グラスに注がれてしゅわしゅわと音がする。
『我が子よ、罪を忘れること勿れ』
「うん……忘れないよ」
「凉?」
「みんな、……幸せにしてくれてありがとう」
この命が星に帰るその日まで、贖罪は続く。
運命と共に。