Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    summeralley

    @summeralley

    夏路です。
    飯Pなど書き散らかしてます。

    ひとまずここに上げて、修正など加えたら/パロは程よい文章量になったら最終的に支部に移すつもり。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 👏 💚 🎉 💯
    POIPOI 70

    summeralley

    ☆quiet follow

    急いで進めてるけど12話くらいにはなってしまいそう……少し先でベッドシーンで丸々一話使ったせいで……。
    ネイPのP、ちょっと子どもっぽく書いてしまう。

    #ネイP
    nayP
    #二次創作BL
    secondaryCreationBl

    【ネイP】解剖台で夢を見た/04.聴診器の語るもの ネイルは殆ど、家へ帰らなくなっていた。職員がみな帰るのを待ってから仮眠室へ下りるので、それから帰宅となるとどうしても遅くなる。
     元々、仮眠室へ寝泊まりすることはそう珍しくなかった。同じフロアに、簡易的なシャワールームもある。食事は水で事足りる。コインランドリーは研究所の道向かいだ。
     ――家へ帰ったところで、仮眠室の様子が気になって眠れず、警備員が驚くような早朝に出勤することになる。
     自らが切り刻んだ研究対象への執着なのか、単純な個への執着なのかは、判然としなかった。それでも、寝袋を持ち込んで寝泊まりするようになるのは、ネイルにとって自然な選択だった。
     その日ネイルは、どこか浮き足立っていた。
     石室の標本に関する嘘の報告書は問題なく受理され、更に詳しく検査を進めるようにとの文言を添えた、検査項目のリストだけが戻ってきた。それも、時間がかかることを誰もが理解できる検査項目ばかりで、当分の時間は稼げそうに思われる。
     これにほっとしたのも勿論だが、一番は自分のロッカーへ入れた紙袋……。一日中、そのことが気になり、仮眠室を訪ねるのが待ち遠しくて仕方なかった。
     夜が更け、ネイルは水を注いだコップと、紙袋を手に仮眠室へ下りる。
     ピッコロはベッドから脚を下ろして座り、ネイルが持ち込んだ本を読んでいた。壁に凭れなくても、安定した姿勢を保てている。
     「今日は詩集か」
    「知らない言葉が少しある……絵はどれも良い」
    「それは絵ではなくて、写真だよ。目で見たままを紙に残す技術だ。まずは水を飲んで……清拭が済んだら、体温を確認させてくれ。それから、心音も」
     ネイルがベッドの端へ腰掛けると、ピッコロも一度本を閉じる。
     水を受け取って飲んだあとは、ネイルの手に一切逆らわない。丈の合っていない術後着の前を開けさせると、新芽色のはずの膚は、仮眠室の暗さのせいで松葉の色に沈んで見えた。心音、呼吸音……聴診器から伝わる全てが、標本からは感じられなかったものだ。
     「……よし、生きてるな」
    「生きてるよ」
     笑いを含んだ声で答えて、ピッコロは聴診器をじっと見下ろした。
     「おれの知ってる医者は、こういうものは使っていなかった」
    「そりゃあ、これが出来たのはせいぜい二百年前……昔のこと、少しでも思い出したのか?」
    「……よく会う医者が、いた気がする。薬草の匂いも、覚えている」
    「私が見たところ、健康そのものだが……助手でもしていたのかな」
     ネイルは話しながら、外した聴診器をピッコロの耳にかけてやる。ピッコロは俯き、自らの胸に聴診器をあてて目を閉じる。何百年も沈黙していた心音に耳をすます様子を、ネイルは見るともなしに見ていた。
     ふとピッコロが、顔を上げた。目が合ったかと思えば、伸ばされた腕がネイルの服の裾を摘まむ。
     「なんだ?」
    「……前を開けて」
     ネイルは一瞬だけ躊躇うが、ピッコロの面差しには悪意も誘いもなく、好奇心だけが滲んでいた。躊躇うことこそ、不純だろう。白衣を羽織ったまま、自らシャツのボタンに手をかける。一つ、二つ……じっと注がれる視線を、必要以上に意識してしまう。それを振り払って、三つまでボタンを外した。胸元の肌が空気に晒されて、なんとも心許ない。
     「どうぞ、お医者さん」
     努めて平らかにネイルが言うと、聴診器がゆっくりと胸にあてられる。金属の冷たさに身構えたが、ピッコロの体温に既にあたためられており、思ったほどではなかった。
     目を伏せ、ひたすら聴診器に集中している、四本の長い指。持ち慣れない聴診器を、辿々しく動かす手付き。しばらくの間、生真面目に診察の真似事をしていたピッコロだったが、やがて初めて見つけた秘密を耳打ちするかのように囁いた。
     「……生きてるな、ネイルも」
    「……生きてるよ」
     言われた通りに返せば、かすかに笑う気配がする。狭い地下の仮眠室に、不思議なほど穏やかな時間が流れていた。
     聴診器を受け取り、ネイルは持ち込んだ紙袋を引き寄せる。中身を取り出し、ピッコロへ差し出した。
     「気に入るかどうか、分からないが」
    「気に入る?」
     ピッコロが訝しげに広げたそれは、仕立て屋の札のついた、真新しい服だった。ピッコロは困惑した様子で、広げた服と、ネイルとを見比べている。
     「寸法は、標本だったお前を調べる時に測ったから合うはずだ……測ったその日に仕立て屋へ頼んで、昨日の夕方、やっと出来たと連絡があって」
    「もらっておいて何だが……死体のための服を、仕立てたのか?」
    「……おかしな話だが、どうしても死んでいると思えなくて……目が覚めた時に、まともな服の一枚もなければ悲しむだろうと」
     ピッコロは改めて、服を確かめる。簡素なシルエットの服だったが、生地と仕立てが上等で、術後着よりもずっと着心地がよさそうだ。きちんと丈も合っている。裾と袖口に、刺繍が入っていた。
     「この刺繍……」
    「そのために時間がかかった。石室でお前が見つかった時、着ていた服の刺繍の写真を仕立て屋に見せたんだ。あの服自体は、不用意にお前を運び出したせいで、崩れてしまったそうだが」
    「そうか……ありがとう。何だか懐かしい模様だ。石室に入れられる前に、よく着ていた服だったのかもしれない」
     感慨深そうに呟き、ピッコロの指先が静かに刺繍を辿る。黒瑪瑙の爪に、乏しい照明が宿り、厳かに輝いていた。


     ネイルは照明を常夜灯だけにし、寝袋に潜り込む。窓のない地下の仮眠室は閉塞感に満ちているはずだったが、すぐそばで身じろぐ衣擦れの音が、ずいぶん心を落ち着かせてくれた。
     「……ネイル」
     既に眠ったかと思っていたピッコロに呼ばれ、ネイルは目線だけをベッドへ向ける。
     「上がって来ないのか?」
     壁側に寄ったピッコロが、ベッドの片側を手のひらで軽く打った。
     「……その仮眠ベッドは一人用だ、二人も横になれない」
    「嫌ってことか?」
    「……狭いってことだ」
    「狭くて、嫌ってことか?」
    「お前が、嫌だろう。病み上がりみたいなものだぞ」
    「……ネイルがいない方が嫌だ」
     拗ねたような響きで、小さく呟かれる。ほんの数秒間、二人の間に沈黙が落ちた。迷った末に、ネイルはゆっくりと立ち上がり、ピッコロが空けたベッドの片側を見下ろす。空きスペースは、0.8人分と言ったところだろうか……やはり、二人並ぶのは無理がある。
     逡巡していると、仰臥してこちらを見つめていたピッコロが、ごそごそと寝返りを打って壁の方を向いた。諦めたのか、場所を空けたのか、それとも目も合わせないほど拗ねたのか、判断できない。とはいえ空いたスペースが広くなり、これならネイルも横寝であれば、無理なく眠れそうだ。
     無言でベッドへ横たわると、背中と背中、脚と脚がところどころで触れ合う。妙に熱く、一度触れると意識してしまい、離せない。
     常夜灯のわずかな光が、書き物机に積まれた本を照らしている。鉱物図鑑、天文図鑑、海と波の詩集、古都の写真集、身体の記憶、花を散らす人、新雪の足跡……。
     「おやすみ、ネイル」
     ネイルは答えない。声を出すと、体温が逃れていってしまうような気がした。その代わりに、片手を後ろに伸ばして、手探りでピッコロの手を掴む。解剖台で腕の動きを確かめた時とは違い、しっかりと握り返す力を感じた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💯💯💯💯💯💯💯💯💯💯💯🙏☺☺☺☺💯💯💯💯💯💯💯😍😍😍😍😍🙏😭🙏😭🙏😭💚💙💚💙
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    summeralley

    DONE急いで進めてるけど12話くらいにはなってしまいそう……少し先でベッドシーンで丸々一話使ったせいで……。
    ネイPのP、ちょっと子どもっぽく書いてしまう。
    【ネイP】解剖台で夢を見た/04.聴診器の語るもの ネイルは殆ど、家へ帰らなくなっていた。職員がみな帰るのを待ってから仮眠室へ下りるので、それから帰宅となるとどうしても遅くなる。
     元々、仮眠室へ寝泊まりすることはそう珍しくなかった。同じフロアに、簡易的なシャワールームもある。食事は水で事足りる。コインランドリーは研究所の道向かいだ。
     ――家へ帰ったところで、仮眠室の様子が気になって眠れず、警備員が驚くような早朝に出勤することになる。
     自らが切り刻んだ研究対象への執着なのか、単純な個への執着なのかは、判然としなかった。それでも、寝袋を持ち込んで寝泊まりするようになるのは、ネイルにとって自然な選択だった。
     その日ネイルは、どこか浮き足立っていた。
     石室の標本に関する嘘の報告書は問題なく受理され、更に詳しく検査を進めるようにとの文言を添えた、検査項目のリストだけが戻ってきた。それも、時間がかかることを誰もが理解できる検査項目ばかりで、当分の時間は稼げそうに思われる。
    3016

    summeralley

    DONE10話くらいで終わりたいとか言ってたのに、少し先の話に性的なシーンを入れたので予定が狂って10話で終わるの無理になりました。ネイP次いつ書くか分かんないし、どうせならって……。
    【ネイP】解剖台で夢を見た/03.新しいラベル 「石室の標本について、何か分かったか?」
    「報告書の通り、特段変わったことはありません……何しろ前例がないので、手探りで。慎重に進めています」
     ムーリは頷き、引き続き任せる、と研究室を出て行く。ケースの観察窓を覗かれなかったことに、ネイルは胸を撫で下ろした。研究者としては、それが正しい振る舞いだ。以前ネイルがそうせずにいられなかった、無闇に観察窓の蓋を開ける行為は、暗闇で保管されていた検体にどのような影響を与えるか分からない。
     ネイルの返答は、完全な嘘ではなかった。このような現象に、前例があるはずもない。腐敗せず、硬直もしない遺骸など……ただし「変わったことはない」という部分は、真っ赤な嘘だ。
     石室の標本はもう、標本ではない。さりとて、それを報告できようか? おそらく、上層部の判断で、もっと大きな研究所へ送られることになるだろう。戸籍もない古い時代のナメックが、「呼吸する標本」……良くて「実験動物」として扱われることなど、目に見えていた。
    3184

    related works

    recommended works