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    summeralley

    @summeralley

    夏路です。
    飯Pなど書き散らかしてます。

    ひとまずここに上げて、修正など加えたら/パロは程よい文章量になったら最終的に支部に移すつもり。

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    summeralley

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    明治大正日本風パロ飯P。
    やっと🍚ちゃんパートに差し掛かった。
    最終飯Pですが前半空Pだし💅も出るし総受け感あるので無理な人は避けてね。

    #空P
    #二次創作BL
    secondaryCreationBl
    #飯P

    【飯P空P】りんごの庭と鳴けぬ鳥/08.鵺 あの日の真夜中、静かに扉を開いたお父さんの部屋は無人だった。僕も、どこへ行っていたのか分からないほど子供ではない。
     あれ以来、僕は床についてから眠りに落ちるまで、耳をすますのが癖になってしまっていた。決して聞きたくなどないのに、意識が勝手に聴覚へ集中してしまうのだ。幸いなことに、僕が寝るまでの間に何かが聞こえたことはなかった。お父さんも、年頃の……それも、懸想の明らかな息子に対しそこまで無神経ではないということだろう。
     今日は一日中曇っていたためか、三月も半ばだというのに冬に戻ったかのような寒さだった。夜風も強く、木々のざわめきと吹き抜ける叫びでうるさい程だ。僕はなかなか眠れず、いつものように耳をすまそうとする身体と、そうしまいとする意思を戦わせていた。
     ピッコロさんの部屋の扉が開く音がして、意思はたちまちの内にねじ伏せられる。お父さんの部屋の前を通りすぎ、台所の方へ歩いて行く音が聞こえた。ほどなくして、戻ってくる足音がする。水を飲んだだけなのだと、僕がほっとした矢先、不意に小さく声が上がって足音が止まった。
     暫く様子を伺っていても、聞こえてくるのは風の唸りだけで、再び歩き出す足音がしない。何か、あったのだろうか?
     気になって廊下へ出ると、ピッコロさんが壁際に膝をついて往生している陰が見えた。辺りに、濃い蝋の匂いが漂っている。手燭の芯が短くなっていて、急に立ち消えてしまったのだろう。曇り空の月明かりも弱々しく、廊下はほとんど真っ暗だった。
     僕も手燭を灯して出ればよかった。けれど僕には住み慣れた家で、ピッコロさんの部屋はすぐそこだ。問題なく、行けるだろう。ぽつぽつと考えながら、声も掛けず手を掴むと、顔を上げたピッコロさんが力なく身を寄せて来る。
     その身体がかすかに震えていることに気付き、僕はたまらなくなった。
     きっと、嵐に襲われた故郷を思い、強風の夜が恐ろしいのだ。それなのに長い間、野宿すら交えるような道のりを、たった一人で旅してきた……。僕より上背もあり武術だって一流なのに、時になんとも頼りなく嫋やかに感じられるのは、この人の抱えるその寄る辺ない心ゆえなのだろう。
     僕は思わず身を屈め、膝をついたままのピッコロさんを抱きしめた。ピッコロさんは抵抗することもなく、縋るように腕を回してくる。暗すぎて陰しか分からないが、抱き合っている内に、安堵のようなものが伝わってきた。今、これまで以上に、この人が愛しかった。
     廊下の窓が、がたがたとやかましく揺れている。その向こうに細く長く激しく荒れ狂っているのは、風が抜けていく音だろうか、遠い昔に鵺とされた、とらつぐみの叫ぶ声だろうか。不完全に燃えてしまった蝋の匂いが、鼻にまとわりつく。
     手探りで頬に手を添えると、滑らかな膚は、りんごを差し出した時の手と同じく冷たかった。ピッコロさんはそっと、僕の手に手を重ねてくれる。
     「……ここでは、やめてくれ……悟空」
    途端に血の冷える思いがして、僕はピッコロさんの腕を引いて立ち上がった。半ば強引に歩きながら、僕は呼吸を整える。
     「ピッコロさん、部屋へ着きましたよ」
     努めて普段通りの声音で話しかけると、ピッコロさんが驚愕に身をかたくするのが分かった。やはり思い違っていたのだ、お父さんと……このような時に助けに来るのがお父さんであると、疑いなく信じているのだ……。
     「悟飯か……」
    「蝋燭、消えちゃったんですね。僕たまたま、水飲もうと部屋から出たとこで」
     扉を開ける。部屋の中には行灯が灯っており、ぼんやりと明るかった。
     「すみません、何か話してました? 風がうるさくって全然……」
    「いや……助かった、手間をかけた……悟飯」
    「じゃあ、おやすみなさい。僕も寝ます」
     何か言おうとしたピッコロさんを遮るように言い置いて、僕は部屋へ戻った。布団を頭まで被り、眠りは重苦しかった。


     その後数ヵ月で僕は書生として家を出て、もう七年近くになる。たまには実家へ顔を出しこそしたものの、ピッコロさんに会うたび恋慕は募るばかりだった。
     春を前に仕事が忙しくなり、この門扉の前に立つのは、二月に立ち寄って以来、二ヶ月振りだった。
     神社で働き始めた人のことは、噂に聞いた。目を引く長身に整った面立ち、柳葉色の不思議な膚……すぐにピッコロさんのことが思い出され、僕は知らせるべく実家へ向かった。恋慕とは全く別のところで、ピッコロさんを、探し求めた同族に会わせたかったのだ。
     ところが、そこには既に縁に掛けて話す二人がいた。
     僕は門扉から静かに手を離す。浅葱の袴は、神職に間違いないだろう。
     話に聞いていた通りの美丈夫で、ピッコロさんととても親しげだ。それに、なんと絵になる二人なのだろう。どことなく似ている二人ではあるが、抑えた紫の袷がなよやかな印象のピッコロさんと、それを守るかのような、凛々しい袴姿……ピッコロさんの若草の膚と、その人の柳葉の、わずかな明度の違いさえ、計算し尽くされたように調和している。
     やはり、同郷の誰かだったのだ。よかった、と思うと同時に、何だか嫌な気持が湧き上がってくる。
     語らう内容こそ聞こえないが、見ているだけで古くからの絆を感じさせる。ピッコロさんがずっと探し求めた、懐かしい相手だ。会えてよかった、という気持は嘘ではなかったが、ピッコロさんに近付かないでほしい、という気持もまた真実だった。
     やがてその人が立ち上がり、歩き出す。僕は反射的に身を隠し、その背を見送ってから、入れ違いに門扉を開けた。
     「ピッコロさん、ただいま……」
     顔を上げたピッコロさんは、涙ぐんでいた。僕は驚き、隣に掛けながら慌ただしく尋ねる。
     「どうしたの? 今の、故郷の方ですよね? 何か言われたんですか?」
    「いや……ネイルと言う幼馴染みだが、同じように生き残りを訪ねていたそうで……懐かしかっただけだ」
    「……そう、あの人も旅を」
     先程まで親しく話していた二人の姿が思い出される。別の道程ではあったが、同じ目的で旅していた幼馴染み……それも、涙を見せるほど心を許している相手だ。
     「ピッコロさん……また旅に出るんですか? ネイルさんと」
     僕は不安と焦燥に急かされ、ピッコロさんの方へ向き直った。
     「行かないでください、ここにいて。あなたが行ってしまったら、僕……」
     話している内にどんどん不安が増して、僕はピッコロさんの手を掴んだ。ピッコロさんは潤んだ目を瞬いて、僕の手を握り返してくれる。
     「何故そう思う」
    「だって……親しいネイルさんと二人なら、旅も心細くないでしょう。でも、嫌です、ここを出て行かないでください、いいえ、行かせません」
     ピッコロさんが僕を抱き寄せ、落ち着かせるように軽く背中を叩いてくれる。春のやわらかい風のように優しい手つきに、乱れていた心が自然とおさまる。
     「どうしたんだ……そもそもお前が、ここに住んでいないじゃないか。出て行ったのは、お前だろう? 勤め先は、通える距離だと聞いた……」
    「それは……だって、分かるでしょう? あの時は、あなたとお父さんを見ているのが辛くて」
     やはりそうか、とピッコロさんが呟く。しまった、と僕は思う。僕の勝手な思いなのに、こんな言い方をしてはまるで責めているようだ。僕はそっと身体を離して、立ち上がった。
     「……ごめんなさい。つい、取り乱しました」
     りんごの花がいくつか咲いて、四月の陽光にきらめいている。芝桜も、金魚草も美しかった。けれど僕の心には上滑りしていくようで、庭の隅に歩き回るとらつぐみの方が目についた。あの、お父さんと間違えられた夜と違い、今は静かに土くれをつついている。
     「どうかここにいてください。ピッコロさんが愛し、愛されたお父さんはもういません……だけど忘れないで、僕も、あなたを愛していることを」
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