午後五時の朝食 そろそろ、人間界でいう日没の時間になるのだろうか。厳密にはこの「世」に日没という概念はなく、二十四時間毎日薄暗い世界で雪がしんしんと降り続いている。自分の仕事は墓守をするだけの単純な作業だが、それ以外はずっと書庫に箱詰めで本を読み耽っていた。
寂しいこの世界で、楽しい事はなかなか見つからない。外の世界の事をたくさん書いてあるここが自分の楽園だった。知らない事を知る事はとてもわくわくする。だからこそ、凪砂はこの喜びを共有したかった。一冊の本を手に取ると急いで書庫を飛び出した。
古城の屋敷は歩くだけで音が鳴り響く。この屋敷の者たちはオルガンを演奏したり、儀式を行ったり、様々な自分の役割を行うのだが、それもしばらくは見ていない。何年か前に訪れた人間の少年が最後の訪問者で、ここに訪れる者も随分減った。あの時から消沈していた零に少しでも喜んで欲しかった。
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