ライトさんはいつだってサングラスを掛けている。
夜でも室内でも今ビデオを鑑賞しているこの時も。
サングラスを掛けている理由は聞いたし、それが悪いとも思わない。
…思わないのだけど、こちらとしては彼の隠すには勿体ない魅力的な瞳が見たい。
「…?なんだ、俺の顔をジッと見て。何かついてるか…って、前にもこんなやり取りした気がするな…」
いつの間にか映画は終わっていたらしく僕の視線に気付いたライトさんが不思議そうな顔をしては前にも同じやり取りをした事を思い出した。
確かに前もビデオ鑑賞した後に顔をジッと見て、どうしてサングラスを掛けたままなのかと問い掛けた。
「もしかしてまたグラサンのことか?」
「うん、そう…でも掛けている理由は聞いたし、それはいいのだけど」
「けど?」
「僕はライトさんの瞳が好きなんだ。それを滅多に見られないのは残念だなって思って」
そう言えば彼の手がサングラスに運ばれたものだからもしや外してくれるのかと思えば、少しズレたサングラスを押し上げ掛け直しただけだった。
「こいつを掛けている理由は…まぁ、前にも話した通りだ。昔に負った怪我のことと見たくないものを見ない為だな」
彼はビデオが終わり何も映していない真っ暗なテレビの画面を見つめている。
「だが最近、理由が一つ増えたんだ」
「え?サングラスを掛けなきゃいけない理由がかい?」
その理由というのは他のものと同様きっと良いものではないだろう。
また何か…彼を苦しめたり悲しませることがあったのだろうかと思わず眉を顰める。
「そうだ。その理由は…、あんただ」
「え?……僕、が?」
まさか、僕が彼に何かをしてしまった…?
知らない間に彼を傷付けたりしてしまっていたのかと不安に駆られる。
「あんたのその、真っ直ぐ俺を見つめる目が…あー…慣れないと言えばいいのか、どうにも、な…」
「…ええと、つまりそれは……、サングラスがないと恥ずかしくて僕の目を見られないということかい?」
「馬鹿、そうじゃない。慣れてない俺にだって分かるくらい、あんたの目が…ありありと伝えてくるんだ」
「なにを?」
「…言わせるな」
テレビどころか遂にはふいっとそっぽを向いてしまった。
どうやら理由は悪いことではないらしく、殆どを察した僕は上がる口角を抑えられない。
隣に座る彼との距離を詰めて腰に手を回すとライトさんは少し身じろぐ。
「ライトさん、やっぱり照れているんじゃないか。証拠に耳が赤くなっているよ?」
「だから慣れていないだけであってこれは照れているんじゃない」
「ふふ、そういう事にしておいてあげるよ。でも嬉しいな、僕のあなたへの想いが伝わってると分かったから」
「伝わらない方がおかしなくらいじゃないか」
観念したのかそっぽを向いていたライトさんはゆっくりと僕の方へ顔を向ける。
「ただ、これだけは言っておく」
「ん?」
「俺も負けないくらい、あんたのことを想ってるってな」
そうして再びサングラスへ運ばれた手によってそれは外され僕の大好きな瞳が目の前に現れる。
「急に男前になるのはずるいな。そしてここぞとばかりにサングラス外すのも」
「ははっ、やられっ放しは悔しいからな。それに慣れはしないが、あんたを見るならグラサンは無い方がいいとは思ってる」
「やれやれ、なんだかんだあなたには敵わないな」
「いいや、無敗のチャンピオンと互角だろう。誇ってもいいくらいさ」
ライトさんの冗談めいた言葉に互いにふっ、と吹き出すように笑う。
いつかサングラスで隠した彼のトラウマが癒えればいいと願いはするけれど、ライトさんのこの瞳を独り占め出来るのならそれも悪くないかもしれないな。