宵っ張りこの部屋で映画だけが、毛布に包まったミスタを照らす。この男はいつも静かだ。いびきどころか寝息すら、隣にいても分からない。耳を澄ませても、すっかり強くなった雨音と、ボリュームを絞った俳優の声しか聞こえなかった。台詞を遮るエンジン音も、とっくに鳴りを潜めている。ミスタの涎を垂らした口を拭うと、こいつは不満そうに眉をしかめた。
「ううん……」
小さく唸って、文句でも言いたげに唇を引き結ぶ。恩知らずなこの口は、少し前まで今日こそ寝ないと嘯いていた。
「今度は絶対、最後まで観れるって!」
そう息巻いていたが、やはり主人公の独白は長すぎたらしい。段々と口数を減らし、先週と同じシーンで意識を手放した。うっかり起こさないよう、独り言は小さく、囁くように零す。
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