かいかお キスの話 きっかけは何もない。ただ、私がしたい、と思っただけ。
ソファーに座ってるかいちゃんの隣に座る。本当にこう言う時じゃないと、私はかいちゃんの顔に触れることすらできない。身長差とは神様のいたずらか、それとも嫌がらせか。
「薫ちゃん? どうした?」
「どうもないよ! ちょっとした気まぐれ?」
「そう?」
雑誌を眺めていたかいちゃんの視線がまた雑誌に落ちる。ぺたりと頬に手を当てて、邪魔くさいんだろうなあ、と思いながらも、ぺたぺたと触れて、自分の顔を引き寄せる。
頬にキスを落とせば、粘着的な柔らかいものを感じてか、かいちゃんが目を丸くしてこちらを見ていた。
「……そういう雰囲気だっけ?」
「じゃないと思うよ?」
「そ、そうだよな?」
「私がしたかったから! それだけ」
「そっかぁ」
納得してるのか、してないのか、微妙な回答が帰ってくる。私もやりたかっただけだから、またぽすんとソファに腰を下ろす。少しだけ鼓動が踊っている。これだけのことなのに緊張していたのか。
「唇」
「え?」
「唇には欲しくないの?」
「……ほ、欲しいです」
思わず敬語になってしまった。かいちゃんは声だけで笑って、それから、なんてことないみたいに、私の顔に手を添えて、一つキスを置いて行った。
「アンコールはセルフサービスで」
「………………いじわる」
「いじわるかあ? 薫ちゃんの方がいじわるだと思うけど」
「そんなことないよ!?」
唇に指を乗せる。まだかいちゃんの感触が残っている気がして、ドキドキする。
ソファの上で膝立ちになる。またかいちゃんの視線は雑誌に戻っていて、私だけがドキドキしているような気がして悔しくなる。
指先でかいちゃんの頬を撫でて、そのまま手のひらをかいちゃんの頬に押し当てる。かいちゃんの目線がこちらに来て、じっと私を見つめる。その視線に私は弱いの。隠したくなる気持ちをぐっと抑えて、息を止めて、そのまま吐息を漏らす唇に自分のを押し当てた。
「……隠すかと思った」
「隠さないでって言ったのかいちゃんじゃん」
「そうだけどさ。……恥ずかしい?」
「恥ずかしいよ!!!」
かいちゃんの胸にぐりぐりと額を押し付ける。宥めるように、ぽんぽんと頭を叩かれて、ちょっとだけ落ち着く。それがずるいと思うんですよ。
「あー、桃でも食べる? 確か一個余ってたけど」
「食べる!」
「あいよ。じゃあむいてくるな」
「私も手伝う。お皿出せばいい?」
「いいよ、座ってな」
こうして私たちは桃を堪能して、キスで満足するのだった。