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    めぐほた

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    めぐほた

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    🩵夢

    202号室の住人になった夢主が、🩵の部屋からもの凄い呻き声を聞いてから始まるなにかの話

    ⚠️精神錯乱、過呼吸などの描写があります

    隣人愛202号室。
    それがこの家での私の部屋。
    驚くほどの美形揃いで、驚くほどの奇想天外揃いのこの家で、私は生活している。
    逆ハー展開など期待しても無駄なことは初日に痛感した。足を踏み入れた瞬間に奴隷契約書に捺印させようとしてきた彼であったり、靴を揃えないと笛を吹き鳴らす彼であったり、新しい入居者である私になど目もくれず鏡と対話して最終的にその日一回も目が合わなかった彼であったり。
    彼らが私を『女』として見ている可能性は早々に潰えた。いや見て欲しいわけではないけど。少なくとも誰も私を『恋愛対象』という名目の『女』としては誰も見ていないのだ。ありがたいことだが、なかなか複雑な乙女心である。
    しかしそんなことはどうでもいい。問題は部屋だ。部屋の位置だ。
    なんなのだこの部屋は。
    部屋自体は普通の部屋である。これからこのなかなかいい具合に広い部屋に、自分好みの家具を揃えて設えるというのはワクワクする……が、問題はこの部屋自体ではなく、両隣である。
    両隣からなにかしらの破壊音……というか、もっとはっきり言ってしまえば鏡やガラスが割れる音を聞かなかった日が、一度たりともない。毎日両隣のどちらか、もしくは両方から聞こえてくるのだ。
    最初の方こそ謎の破壊音にびっくりして201号室や203号室のドアをノックし安全を確認しに行ったりもしたが、201号室では部屋の主が鼻血を流し粉々になった鏡の破片を眺めてうっとりとしていたり、203号室はもぬけの殻で窓が割れており、そこから外を覗いたら何故か皆さんが迷わず外へ出ていて部屋の主は地面に突っ伏していたりで、これが日常茶飯事であると呑み込むのに少々時間を要した。
    日常茶飯事であれど、毎朝毎昼毎晩隣室から「無欠!」と聞こえてきたりこの世のものとは思えない呻き声が聞こえてくるのは、ホラー耐性とか関係なくちょっと怖くなるが。
    特に呻き声だ。
    隣人である、湊大瀬さん。
    彼はとても内罰的で、ネガティブで、自分のことが大嫌いだ。
    自分のことをひどく言って、だから死にたいと願って、何度も試みるけど成功した試しはなくて――その心に、寄り添ってあげたいと思うのは傲慢だろうか。
    誰かのケア役になりたがる……アダルトチルドレンのタイプにケアテイカーというものがある。献身的に対象の世話を焼き、心のケアまで負担しようとする『性格』というには病的な『症状』だ。
    私はそれなのではないかと――自身を忌み、嫌い、罵り、あまつさえ殺そうとする彼を見て、力になりたいと思ってしまった自分に気づいて、そして偶然知っていたケアテイカーの例と一致している気がして――愕然とした。
    そんな、他人を介して自身を肯定しようとするような卑怯な真似をするのが自分だなんて、考えたくもなかった。
    いや同居人の中にもっと度を越したケアテイカーみたいな人いるけど。でもあの人は自称奴隷だしなぁ……仕方ないかぁ……。
    今日も呻き声が聞こえる。絵を描いている最中に急に無理になったのか、なにか一日の中で耐え難い出来事でもあったのか……心配しているのは彼のためか、自分自身を肯定するためか。
    平仮名に濁点を無理矢理つけたような声。いつもの可愛らしい、男性にしては高い声が、まるでその長所を感じない自己否定の響きをもって耳に届く。
    ああ、早く部屋を訪ねてその呻き声と共に零れる言葉を受け、彼の心を助けたい。癒せるならばなんだってしたい。……ちょっと嘘。流石に身体を求められたら拒否する。大瀬さんがそんなものを求めるとは思えないけど。
    いつもなら小一時間すれば落ち着く呻き声が、今日は何故だか断続的に、長く続いていた。そんなに嫌な出来事でもあったのだろうか。流石に心配が大きくなり、部屋を訪ねるか、しかし「だからそれは自分の心が気持ちよくなるための行為じゃないのか、この偽善者」と自身を嘲る言葉に躊躇っている内に――呻き声が、叫び声に変わった。
    喉を掻きむしるような声だ。地獄の亡者の叫びだってもっと穏やかだろう。
    ――自分の心を気持ちよくするからなんだ。
    目の前で苦しんでいて、呻いて、叫んで、崩れそうな人間を前にして、それでなにもしないのは善か?
    自分の心を肯定するために大瀬さんを心配するのは偽善か?

    偽善、上等。

    やらない善よりやる偽善だろうがよ。

    私は部屋を飛び出して、ノックもそこそこに大瀬さんの部屋に飛び込んだ。
    大瀬さんは過呼吸かパニックかに陥っていたらしく、目を見開いて浅い呼吸を繰り返していた。しゃっくりのように続く呼吸は吸うことしかできず、それも十分に肺に届いているようには見えない。
    「大瀬さん!」
    「……っ、つ、あ……っ、は、」
    「落ち着いて、呼吸、できますか」
    浅く吸う息の狭間で、涙にまみれた大瀬さんは首を左右に振る。背中をさすると小刻みに跳ねて痙攣に近い状態だ。
    「大瀬さん、私の目を見てください」
    「……っ、……は、ぁ、あ」
    「呼吸、私と一緒にできますか」
    大瀬さんの視界に私しか映らないくらいの近さに寄って、わざとらしく吸って吐く。それを何度も繰り返す。
    「すー、はー、すー、はー」
    「は、ぁ……ふ、ぅー、……はぁ……」
    「上手です。大丈夫」
    「うぅ、ふぅ……はー、ゔ、ぅぅ」
    もはや唇が触れ合わんとする距離だ。……というより、何度も軽く触れている。しかしそれくらい近くないと、大瀬さんは余計な情報を視界から入れてしまうだろう。
    「大瀬さん、私の質問に答えてください。答えたくないものは、答えなくていいです」
    「は、はぃ……」
    呼吸が完全ではないが落ち着いた頃合いを見て、もっと気を紛らわすために質問を投げかける。
    「依央利さんの料理、なにが好きですか」
    「た、……玉子焼きです。いおくん、の、玉子焼きは、甘くて美味しいん、です……」
    「好きな本はありますか」
    「……バー○パパ?」
    「どの子が好きですか」
    「バー○モジャ……彼は、芸術が、得意で」
    「はい」
    「素敵な家族に、囲まれてて……」
    「はい」
    「あの家族は、まるで、この家、みたいです」
    「個性豊かですもんね」
    「ふふ、はい……」
    唇がぎこちなく綻んだ。まだ安心はできないが、笑うことのできる余裕は生まれたようだ。
    私は向き合っていた大瀬さんの身体を寝袋の上へ寝かし、手を握って話を聞いた。
    「あなたが来る前、ふみやさんは天彦さんのゼリーを食べちゃったことがあるんです。あなたも食べられないよう、気をつけてくださいね」
    「はい。名前を書いておきましょうか」
    「多分気にせず食べちゃいますよ」
    「対策のしようがないじゃないですか」
    「そしたら、自分が怒ってあげます。そんなに強く言えないかもしれないけど、あんまり舐めたことするのはダメですからね」
    「頼もしいです」
    もう涙は流れていない。呼吸も安定している。
    なにが彼を蝕むのだろう。どうすればその心を救えるだろう。
    この気持ちは、なんだろう。
    大瀬さんのケア役になりたい?
    頼りにされたい? 依存されたい?
    それは大瀬さんが苦しんでいないと満たせない感情ではないか?
    しかし私は、いつの間にかスヤスヤと私の手を握って眠りに落ちている大瀬さんの穏やかな寝顔で満たされているのだ。
    大瀬さんが私を頼りにしなくていい。
    激しく錯乱して震える肩に手を添えて、隣にいるのもいいだろう。それもひとつの形だ。
    しかし私はそんなもの望まない。彼が苦しまない世界を望む。
    それは難しいかもしれない。不可能かもしれない。
    けれど私の手のひらだけでここまで心穏やかな寝顔になれると言うのなら、私はいつだってこの手を差し出せる。
    大瀬さんの見る夢が、せめて優しいものであるように願うのは――果たしてなんという症状の病気だろうか。
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