鋼鉄を取り外した腕。
普段は隠れる柔らかい先端に触れた。
「ん、どした?」
後ろから抱きしめられる彼がくすぐったそうに聞いて来る。
私は先端をもうひと撫でしてから、その腕と共に湯へ手を戻した。
ぱちゃり。
浴室内をかすかな水音が反響する。
「何も」
そう、特に深い意味は無い。
ただ、彼が彼たる部分に触れ、感じたかった。それだけだ。
不思議そうにする彼を改めて抱え直し、髪がまとめられて露わになったうなじへ唇を寄せる。
しっとりと温かい皮膚に、次は舌を。
「んっ、こら、こんなとこでサカるな」
「こんなところ、だからでは?」
「う、そりゃ、そうだけど……」
自宅のものよりずっと広く丸いバスタブは成人男性が二人入ってもまだ余裕がある。
水面には白い泡が踊り、お互いの体にまとわりついた。
細かい泡は肌のほとんどを隠してしまうが、彼の体のどこに身体強化があり、古傷があり、筋肉の筋があるか見なくても全て知っている。
彼が知らないであろう黒子の位置も。
「それに、誘ったのは貴方だ」
「それは……仕方ないだろ? 常連のお客さんから優待受けたら断れないって」
いくら自分に合わないからと、こんなものを職場の女の子に譲るなんて到底無理だ。
途方に暮れるように溢すグレゴール。
彼の言い分も理解している。
理解して、納得はできない。
日ごろの礼とはいえ『自身が経営するラブホテルの招待券』など寄越して来る人間まともだとは到底思えない。護衛中の彼にどんな目を向けているのか想像は容易く、不愉快極まりない。
彼は自身にどれほどの魅力があるか理解してくれないが、そろそろ自覚を持って貰わなければこちらも気が気でないのだ。
「ちょ、ムルソーさん? 手が」
「……準備は?」
「へ? ああ、まあ、一応してきちゃいるが……おい、まて、せめて上がって、から」
当然却下。
甘い声を漏らし始めた唇を求め、すぐに深く深く溺れていく。
彼は私のものだ。
愛して良いのは私だけだ。