夏の木陰を思わせる瞳が俺を射貫く。
頬に添えられた手。その指先で唇を柔らかく揉み、次にしたいことを言わなくても教えてくれる。
だから俺は力を抜いて瞼を降ろす。
思った通り降りて来るキスを受け止め、求め、再び出会う深緑に心を染められていく。
何度同じことをしていてもこの瞬間は新鮮だ。キスが、ではなく、好きな男とのキスが。
普段から……命のやり取りですら澄ました顔の男が俺だけに向ける熱。
強さ意外に求めるものなど無いと言わんばかりの騎士に求められる盾。
独占欲。
充実感。
愉悦。
胸の内が満たされる多幸感に溺れてしまいそうだ。
この色に染め上げられてしまっている。
もし、まさに今、彼から別れを切り出されても俺はきっと身を引けるだろう。常にその心積りはしている。
そして一生、死ぬその時まで後悔し続ける。嗚呼、嗚呼、どうして縋りつかなかったのかと。
みっともなく取り乱して、喚いて、彼にしがみつかなかったのかと生涯に渡って己を責め続けるだろう。
自分のことだからよくわかる。情けないくらい、分かってしまう。
満たされる幸福と背中合わせの恐怖。
彼の愛だけに夢中になれない自分が恨めしく腹立たしい。
いっそ本当に溺れきってしまえたら。
いざとなって命を捨てられない盾になってしまえばいいだけだ。
故に、それだけはできない。
己を優先して、護るべきものを護れないなんてことは絶対に許されない。
俺が盾である限り……俺が死ぬまで、この恐怖は付き纏う。
死ぬ恐怖よりも恐ろしいものを抱えながら彼に抱きしめられ、彼を抱きしめ、愛を受け止め続ける。
こんな俺を許してほしい。……否、許さないでくれ。
お前を一番にできない俺を。
お前で満たされるわけにはいかない俺を。
どうか。