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    ミヤシロ

    ベイXの短編小説を気まぐれにアップしています。BL要素有なんでも許せる人向けです。

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    ミヤシロ

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    72話がしんどいので幸せなシエルを書きました。
    私の精神を救うためにSSをアップ。桜ネタのクロシエです。

    #クロシエ

    桜の下の約束 満開の桜の並木道に、突如強風が吹き荒れた。
    「クロムさん!」
     通行人が二人以外誰も居ない早朝、クロムとシエルが二人並んで歩いている中での出来事だ。薄っすらと蒼い空の下を薄紅の桜が咲き誇る満開の下、突風は勢いよくクロムを包み込んだ。桜の花びらの渦が青年の姿を、まるで掻き消すように覆い隠す。シエルは眼前の光景に目を見開き、弾かれたように身を乗り出した。
     嫌だ。
     行かないで。
     居なくならないで。
     胸を高速でよぎった衝動に従い、シエルはクロムの腕を掴む。桜吹雪に囚われた想い人を捉え、彼はクロムを渦の中から引っ張りだした。勢い余ってつんのめったクロムの胸板にシエルの額が衝突する。青年の鍛え上げられた胸筋は硬く、正面からぶつかればそれ相応の威力があった。
    「痛ッ!」
    「大丈夫かシエル」
    「へ、平気ッス……」
     目をまるくするクロムの前で、シエルは強打した額に手を当てる。鉢巻越しに触れた額には鈍い痛みがあったが、こらえ切れないほどではなかった。彼にとって身体的な痛みなどどうという話ではない。心の痛みに比べればぬるま湯のようなものだ――シエルは無事だった青年に目に熱いものをたぎらせ、青年の虚を突かれた表情のかけがえのなさを噛みしめた。
    「よかった……クロムさん」
     少年の雷を宿す双眸がうるみ、今にも雫を落としそうだ。彼は自分でも説明出来ない痛みに胸を締めつけられ、顔をくしゃりとさせて笑う。悲しみと寂しさに耐えるような笑みで、彼はぽつり、ぽつりと口にした。
    「オレ……クロムさんが何処かに行ってしまうかと、思って。
     変ですよね……。何言ってるんだろ、オレ。自分でもよくわからないッス。
     けど、あなたが居なくなってしまう気がして、怖くて」
    「シエル……」
    「あなたを失いたくなかった」
     この世界ではクロムはシエルのそばに居た。
     こことは異なる並行世界では青年はシエルの前から消えた。救急搬送される過程で青年は得体の知れぬ連中に拉致され、力を求めるあまり道を踏み外した。並行世界での出来事をこの世界の彼等が知る由もない。だが並行世界の出来事がシエルに作用したのだろう……桜吹雪に恐怖し腕を突き出した。
    「すみません。変なコトを言って。もう大丈夫ッス」
     本能的に戦慄を覚え愛しい人を救い出し、シエルは今にも泣きそうな顔で詫びる。彼は大きな安堵を胸に、長身のたくましい青年に目を細めた。愛らしい顔は青ざめ、先刻の狼狽の痕跡を残している。気丈に振舞うシエルであったがクロムの目には無理をしているのが手に取るようにわかった。
    「――シエル」
     青年は一歩踏み出し、シエルとの間合いを詰める。動揺ゆえに少年は反応が遅れ、その場から一歩も動けなかった。驚く彼を青年の両腕が包む。
    「クロム、さん」
     突然の抱擁に体を固くするシエルにクロムは言う。
    「何処にも行かない」
     低い声は決して大きくはなかったが、決意を秘めるがゆえにシエルの耳にはっきりと聞こえた。
    「ここに居る。もう二度と君を苦しめない」
     たとえ何が起ころうとも、どれほどの強敵がXタワーに現れようと。彼は己がペンドラゴンのリーダーでありシエルと共に在ろうと誓う。シエルとシグルの近くが己の居る場所で、心の支えだ。昏睡の末目覚めたあの日、龍の髪飾りを失ってやっと気づいた。少年に非道な真似をした、と。己がどれほど身勝手で愚かであったのかを。
     二度と道を過(あやま)たない。間違いから学び、己の道を進んでいく。
     あの日の想い胸に蘇らせ、クロムは腕に抱いたシエルに言い聞かせる。
    「クロムさん…」
     大切な人の熱と頼もしい感触をその身に受け、シエルは青年の誓いが心からのものと実感する。苦しい過去は古傷となって時折彼の胸を疼かせる。しかし温かな現在が彼の胸の痛みを少しずつ和らげていった。苦しみ抜いた先に青年と今を生きる少年が、優しい抱擁に感極まって落涙する。
     喜びと安堵の涙が目尻から零れ落ちる。胸の中で嗚咽を漏らす彼を、青年が一層の力を込めて抱きしめた。
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    ミヤシロ

    DONE82話『七色の決意』後のシエルのお話。
    引きこもっていた頃のシエルはやつれていて、ご飯食べてるのかなと心配になって思いついたお話です。
    決意を新たに シグルと別れ帰宅したシエルは、まずは荒れ果てた部屋を元に戻すことから着手した。
     メダルとトロフィーが床に散乱していた。
     ゾディアックとの戦いで大敗しどん底を味わったあの日、シエルはアマチュア時代の栄光を衝動のまま床に叩きつけた。500勝無敗、アマチュアの王、これらの賞賛は無意味でしかなく、彼はあの日自分が塵芥(ちりあくた)と思えるほどに打ちのめされた。クロム不在の間ペンドラゴンを守ろうという誓いは無残に打ち砕かれた――あの日の自分と決別するため、シエルは夕闇が窓に垂れ込める時間、惨憺(さんたん)たる部屋を凝視し硬い握り拳を作った。
     ひどいザマだ。だが時間さえ掛ければ原状回復は可能だ。幸いトロフィーもメダルも破損は見られず、ただ元の位置に戻せばいいだけだった。ひたひたと忍び寄る闇が苦しく、シエルはしんどい気持ちの中それでも自身のやらかしに向き合う。一つ一つ、昔の誓いを改めて胸に刻むように。彼は自分の歩みの証を、クロムの言葉を思い出しながら手に取った。
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    ミヤシロ

    DONE80話『最遅の者』~81話『オールイン』の石山メインのお話。石山の部屋の描写は私的設定です。あとマルチが新ベイを完成させた日時がはっきり特定できない為、80話の翌日に完成したという設定にしています。
    石山は登場するたびに魅力的なキャラになっていますね…! 今回のお話を書いてみて、彼の歩みがアニメ本編でとても丁寧に描写されていると感じました。
    不変の道 石山は母親に頼んで手に入れたスイーツを、翌日ファランクスの二人と共に味わった。
    「すっげー!」
    「うまそうだな」
     昨日バーンの部屋で拒んだ甘味を、この日石山は仏頂面ながら親しき者にはわかる上機嫌で堪能する。母親に電話したあのとき“一人で三つ食べてしまおうか”と頭をよぎったものの、彼はすぐさま思い直し三人で食することにした。予定の空いていた二人は報せを聞き、喜んで石山の家を訪れた。石山の住まいはとある賃貸物件の一室であり、そこはさっぱりと片付いて私物がさしてない場所だった。
     十年間、無骨な男は簡素だが清潔な部屋で暮らしている。勝手知ったるファランクスの二人は用意されたスイーツに目を輝かせ、石山の淹れた紅茶と共に舌鼓を打った。その後は今後の予定やトレーニング内容を確認し、世間の話題にも触れる。彼等の話にはトーク番組の撮影やスタジオに乱入したカルラ、そして黒服への言及があった。
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    ミヤシロ

    DONE『夢か現か』のシグル視点。シグルは台詞も少なく感情を表情から読み取りにくく、お話を書くのはとても難しかったです。彼女も彼女なりに二人を案じたり、ペンドラゴンを好きでいてくれたりするといいな、って。
    来週のアニメにシグルが登場しますね! 楽しみです。
    バイオレット シエルがクロムの中で大切な存在になっていく。
     彼がクロムにとってどれほど支えになっているのか。心の傷を癒してきたか。私は彼に感謝してもしきれないんだろう、上手く言葉に出来ないけど。
     私は何も出来なかった。見ているだけで、壊れていくクロムを気遣う言葉を持てなかった。
     でも、クロムが昔の自分を取り戻しつつある今、私は。今度こそ、何かあったら彼を支えたいと思う。シエルと共に。
     そしてチームのために戦おう。持てる限りの力を尽くして。

    「オレ達の、イメージ香水…!」
     私がモデルを務めるブランドの会議室で、シエルが上ずった声で言った。
     ペンドラゴンの三人をイメージして香水を作る。期間限定で販売される香水が完成したから、と、私達はこの日企業から呼び出しを受けた。雑誌に載せる写真を撮ってインタビューを受けて。私にはそう珍しくない仕事だけど、シエルにとっては初めてのコラボ企画だった。彼はベイについてのインタビューならたくさん受けてきたけど、香水については初めてだ。彼はそわそわしながらイメージ香水に向き合った。営業社員に勧められて香水を試す彼はおっかなびっくり、とても危なっかしかった。
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    ミヤシロ

    DONEバーンと石山のお話。
    また香水のお話です。先月クロムの匂いがどうのと騒いでいましたので、つい書いてしまいます。実は現在も香水ネタでお話を考えていたり。
    彼の香りは 石山タクミが不死原バーンと会う約束をしたその日、バーンは珍しく遅刻してきた。
    「すまない。待たせてしまったね」
     いつもは早い時間に二人とも待ち合わせ場所に到着しているか、あるいはバーンの方が早いくらいだ。石山は“珍しいな”と意外に思うものの、相手に怒りや苛立ちを覚えはしなかった。バーンはベイバトルの時間には度々遅れていたが、石山との約束の時間を破ったことは今日以外に一度もない。そもそもほんの数分の遅れであってバーンが謝るほどでもないのだ。石山は謝罪をさらりと受け入れ相手が向かいに座るのを見つめる。優美な男性の所作は美しかった。
     二人はバーンがマウンテンラーメンを買収して以来定期的に顔を合わせ、互いの近況を報告し合う間柄となっている。彼等の関係は実に良好で、石山のまとう空気も彼が出せるものの中では穏やかである。彼は引退の窮地を救われたがゆえバーンに少なくない恩義を感じている。たかが数分の遅刻で文句を言う気は毛頭なかった。
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