桜嵐 この日クロムとシエルは桜並木を二人並んで歩いていた。
まだ夜が明けてさほど経たぬ、冷たい空気が身を竦ませる時間帯だ。二人は目覚めて間もない街を行き、誰にも邪魔されない空間を独占した。満開の桜が咲き誇っている。薄紅の花弁がはらはらと散り始めるさまを、クロムとシエルは柔和な笑みを顔に乗せながら眺めていた。
「綺麗ッスね」
「ああ」
桜は今年もまた花を咲かせ、見る者の心を和ませる。開花予想が茶の間に流れるようになって半月、桜はほぼ予報通りの日にちに花を開いていった。盛りを迎えた途端散り始める潔さが胸に訴えるものがあるのだろう、桜は人々の心を惹きつけてやまなかった。青年と少年の心も、また。彼等は穏やかな心持ちで歩を進めていく。このときはまだ風がなく、花びらも重力に任せて静かに舞い降りるのみだった。
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