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    ミヤシロ

    ベイXの短編小説を気まぐれにアップしています。BL要素有なんでも許せる人向けです。

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    ミヤシロ

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    桜ネタ、今回はシエルが桜にさらわれる役です。
    クロシエと言うよりはシエクロでしょうか。

    #神成シエル
    #龍宮クロム

    桜嵐 この日クロムとシエルは桜並木を二人並んで歩いていた。
     まだ夜が明けてさほど経たぬ、冷たい空気が身を竦ませる時間帯だ。二人は目覚めて間もない街を行き、誰にも邪魔されない空間を独占した。満開の桜が咲き誇っている。薄紅の花弁がはらはらと散り始めるさまを、クロムとシエルは柔和な笑みを顔に乗せながら眺めていた。
    「綺麗ッスね」
    「ああ」
     桜は今年もまた花を咲かせ、見る者の心を和ませる。開花予想が茶の間に流れるようになって半月、桜はほぼ予報通りの日にちに花を開いていった。盛りを迎えた途端散り始める潔さが胸に訴えるものがあるのだろう、桜は人々の心を惹きつけてやまなかった。青年と少年の心も、また。彼等は穏やかな心持ちで歩を進めていく。このときはまだ風がなく、花びらも重力に任せて静かに舞い降りるのみだった。
     強風が吹いたのは突然だった。
    「わっ…」
     凪の空の下、二人が言葉を交わした直後。二人の間を前触れなく突風が吹く。風はシエルを中心に巻き込むつむじ風だった――数多の花弁が少年を取り巻き、薄紅のカケラで包み込む。予期せぬ異変に少年は瞠目し、青年は息を呑んだ。桜の渦はこの世のものとは思えぬ美しさと空恐ろしさだった。
    「シエル!」
     クロムは眼前の光景に弾かれたように叫び、思わず手を伸ばす。桜の花びらが一瞬ぶわり、と、シエルを掻き消すように覆い隠した。
    (シエル…!)
     クロムにとってこのときの桜吹雪が、自分でもわからないほどに恐ろしかった。
     渦巻いた花びらが細く長い螺旋を作る。花弁が集まり成す形が、彼の目にさながら悪しき龍に見えた。生命を喰らい尽くす魔性の龍だ。薄紅の花から斯くの如き連想が湧いた、理由が不明だ。だがクロムには何故か桜の中に魔龍を見出した。彼は知るまいがこの世界とは異なる並行世界、彼は外道のベイを手にし魔龍をその身に宿した――それゆえだろう、平和に生きるこの世界であっても彼は魔龍を垣間見たのだった。
     異なる世界の記憶が無意識のうちにこの世界のクロムに作用する。彼は切羽詰まった顔で身を乗り出した。
     手を伸ばし花びらの渦の向こうにシエルを捉え、クロムは少年の腕を掴む。まるで愛する人を攫われたように彼は必死の形相だった。
    「行くな、シエル! シエル!!」
     掴む手に力を込め、クロムは桜吹雪から少年を"救い出す"。目をまるくする少年の目で、青年は息を切らせていた。
    「シエル……」
     青年の端正な顔は血の気が失せ、相当のショックを受けたと推察される。たかが桜吹雪だ、恐れることなど何もない。だがクロムにとって先刻の一幕は背筋が凍るほどの恐怖を覚えるそれだった。命を代償に宿主に強大な力を与える龍に愛しい人が攫われかけた、そんな気がした。クロムは衝動に突き動かされ、シエルを桜の中から引っ張り出して。真っ青な顔で大切な人と向き合った。
    「クロムさん」
    「すまない……取り乱した」
     焦燥の滲む面持ちで口にする。
    「君が、消えてしまうかと、思ったんだ」
     と。
     馬鹿げた想像だ。ただの桜が人に危害を与えるはずもない。しかしクロムは恐ろしくてたまらず、シエルに己の抱いた気持ちを零した。怖かった、言葉に出来ないほどに。バトルでは鬼神の強さを示す男が、ある晴れた春の日にてはひどく弱々しかった。
     シエルはじっと青年を見つめ、真剣な表情で向かい合う。満開の桜の下、彼はふっと、慈しみに溢れた笑みで口を開いた。
    「消えませんよ」
     青年の内面を完全には理解できないながらも、少年は大切な人の気持ちを出来得る限り汲み取る。彼もまた知るまいが別の世界で彼は敬愛する人と離れ離れになり、ひどく苦しい心境で茨の道を突き進んだ。その"事実"があるがゆえに、シエルはクロムの言語化不可能な想いを受け止める。離別におののく人に穏やかに言い、太陽さながらに温かく笑う。
    「オレはあなたを独りにしない。約束します」
     まだ十代前半の少年ながら、シエルの内面は成人男性並みに大人び、頼もしい。別の世界で険しい道を歩んだ彼は、クロムと共に居るこの世界でも強い心を持っていた。ブレーダーの鏡と称されれど本当はひどく脆い青年に、彼は力強い双眸を向ける。その瞳を目の当たりにすれば何があっても信じられる、そう思わせる緑色の目を。雷を宿す瞳はまっすぐに青年を見つめた。
    「ここに居ます」
     己の腕を掴む青年の手に触れ微笑する。柔らかな笑みに力が抜けたクロムはゆっくりと手を離す。シエルはその手を取り、自身の胸へと導いた。クロムの掌がシエルの胸に触れる。シエルの感触が、温度が掌越しに伝わる。クロムは少年が確かにここに存在する事実を、泣きそうな顔で実感した。
    「そんな顔しないで。大丈夫です……クロムさん。
     何があろうとオレはあなたと共に居ます。ずっと、大切なあなたと」
    「シエル…」
     チャンピオンの仮面の下に弱い本性を持つ青年が、痛みに耐えるよう目許にきつい皺を作る。孤独と悲しみを抱える彼に、シエルが木漏れ日を連想させる微笑みを浮かべた。
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