なみぎわによせ「あなたはどなたでしょうか」
黒髪に青い目をした褐色の青年は、ミスルンにそう言った。
「下手な冗談だ」
「そう思われても仕方ありません。わたくしどもも、カブルー様の冗談であればどれほどよいかと……。しかし現状、このとおりです。頭を打った際に、記憶が一部失われてしまったようなのです」
横に控えていた宮廷医師と治癒魔術師がミスルンに現状を伝えようと話しかけてくる。
「どの程度だ」
「人物は……城のものは全員わかりません。王のことも。自身のことすらも。精神自体は年齢相応で、生活習慣などは覚えているようで生活するのに問題はなさそうですが……」
「技術も治癒魔術も、あらゆる方法を試しました。しかし医療でも魔術でも現状回復する手段はないのです」
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