別離/夢・
夜中。降谷から呼び出された風見は、とある廃ビルに赴いていた。中に入り、真っ暗の中誰もいないことを確認する。懐中電灯を使い屋上まで階段を上り、扉を開けると、ポツンとひとつの影が見えた。その影から、鼻歌が流れてくる。90年代に放送されたドラマの主題歌で、今も歌い継がれている名曲だ。
その影の主は風見が現れたことに気づく様子もなく、気持ちよさそうに歌っている。その影にひっそり近づき、
「……降谷さん」
サビが終わるタイミングで風見が声をかけると、ピタリと歌声が止む。影の主──降谷は風見の方に振り返ると、頭を掻き、照れくさそうに笑った。
「恥ずかしいところを見られたな」
「珍しいですね」
普段ならこんなヘマはしないだろう降谷だ。風見が眉を顰めると、降谷は肩を竦んだ。曰く、歌いたい気分だったらしい。そういうときもあるだろう。
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