恋は闇皆が寝静まったバスの中、2人掛けの席に座った私の炎だけが壁に色を落として揺らめいている。
不寝番の日の密やかな楽しみ。彼の来るのが待ち遠しい。
背中越しに小さく扉が閉まるのがわかった。眠る時の格好にしては似つかわしくない、硬い革靴の音がゆっくりと乱れなく近づいてくる。
「管理人様」
<うん。おいで、ムルソー>
これがいつものお約束。窓の方につめて、彼に席を譲る──いや、元から彼の定位置であるその場所を返すのがいつの間にかできていた習慣だった。
今日は誰が突っ走っただとか、夕飯の何がおいしかっただとか。他に誰もいないのをいいことに、ただとりとめのないことを話すこの時間が私はとても気に入っている。ムルソーも問えば答えるばかりか、最近は抱いている疑問や彼の持ちうる情報についても少しずつ教えてくれることが増えてなかなか嬉しい。
1529