ダークニンジャとオッドジョブが満員電車に乗る話一体何故こんな事になってしまったのか!!
何故こんな事になってしまったのか
オッドジョブはぎゅうぎゅうに押し込められた電車内で己の不運さを呪った
本当に近頃ついていない
数年前に縁を切ったはずのザイバツ・シャドーギルドのあるじ、ダークニンジャが突如己の前に現れたかと思いきや、現世に現れるあるじが来るたびに面倒を見ねばならぬのだ
そして今
オッドジョブは芋洗い状態のネオサイタマのある列車の中であるじを人混みから守っていた
事の始まりはこうだ
レリックを探す為行動を共にしていた二人は…電車に乗ることになり…どうせならSS級のカチグミクラスの車両に…とあるじに申し出たところ、時間がないと拒否され、別に構わないとホームの最前列で二人は揉めていた
構わない、いやでも…構わない、いやーあるじをこんな下賤なモータルの巣窟に…
と言い争い…言い争いではなく、オッドジョブからすればこの先起こる惨劇を思えば回避したいと思うのは同然の事であった
何しろ時刻は午前八時
ネオサイタマのサラリマンが一気に押し寄せる地獄の時間
通勤サラリマン達は互いに狭い車両の中に押し込められ、息を殺し、下を向いて、己の目的の駅まで着くのをただ耐えるのみ…
ネオサイタマの通勤時刻に混み合う列車の中は正しく戦場であり、油断していると圧迫死するものまでいる
かようにおぞましい地獄の時間を過ごすにはただ息
を潜めて耐えるのみ…
揉める二人の前に列車が到着し、既に満員の電車の中を、サラリマン達がドアが開くと同時に我先にと押し寄せる
「グワーー!?」
オッドジョブとフジオはそのまま大量のサラリマン達に押し流され、満員電車の中へ入ってしまった
二人は列車の中の最奥へ押し込められ、
そしてオッドジョブは咄嗟にある考えが脳裏に浮かんだ
あるじと満員電車→汗臭い→知らんモータルにぎゅうぎゅうに押し込められる→不可抗力で触られる→不快!→不機嫌!
まずいぜ…このままだと俺のイサオシに影響がでやがる…!イサオシてか生命の危機…!
あるじの不興を買うわけにはいかない!
「イヤー!!!」
オッドジョブはフジオを列車の隅へ追いやると己の体をニンジャ跳躍力でとび
列車の壁へ手足をついて覆いかぶさるようにしてをフジオを人混みからガードした!
フジオは無言であったが、眉間に皺を寄せて己より頭1つ分高くなったオッドジョブを見あげている
明らかに訝しんでいる
何してんだ?こいつ…という無言の圧がある
一瞬やらかしたか?俺は一体何をしているんだ?男同士でこんなに顔寄せて何してんだ?など
後悔がよぎったが、
いざ列車が動き出すと
オッドジョブの背後にいた複数の肥満体型のサラリマンがぎゅうーーと倒れかかってきた
オッドジョブの背中にサラリマン達の重圧が押し寄せる
(うおーーーー!!あぶねぇところだった…!ニンジャじゃなけれゃ死んでたぜ…!)
これは実際真実である
事実、満員電車の中、大量のサラリマンに押し込められ熱中症となり更に壁際にいたため息ができず窒息死、圧死した例は多々ある
ニンジャであるオッドジョブでさえ厳しかった
だがこの苦難からあるじを守らねば、オッドジョブの明日は無い…!!
フジオはそんなオッドジョブの様子をじっと見あげている
後ろからは重圧
前方からはあるじの謎めいた視線
前門のタイガー、後門のバッファロー
あるじことフジオカタクラはじっとそれこそ穴が空くほどオッドジョブの顔を眺めていた
しげしげと観察するように
オッドジョブの顔をみている
気まずい
(あるじは何でこんな至近距離で俺の顔を凝視してんだ野郎の顔なんてみててもつまんねぇだろうに)
それは顔を上げるとオッドジョブの顔面が間近にあるからであるが、どうせなら他のサラリマンのように俯いてほしいものである
この男が下を向いて俯くというのはあまり想像できないが今はそうして欲しい
気まずい…気まずい…顔が良い…絶対俺今汗臭い…
ダラダラと滝めいた汗を全身の毛穴からブワッと吹き出させているオッドジョブであったが、尻に違和感を覚えハッとした
(痴漢だ)
実際それは痴漢ではなかった
オッドジョブの後ろにいたサラリマンは
(ナンデこのサラリマンでもなさそうなラリった男は壁に手足をついて余計な幅を作ってんだ…?こっちだって苦しいってのにもっと体隅に寄せろよ!押し込めよ!)
とイライラし、故意に体をオッドジョブにスモトリめいて押し付けたのであった
そうでなくとも車内は満員、押しくらまんじゅう状態、皆限界の状態でオッドジョブの謎めいた行動に気づいた物は皆苛ついた
でサラリマンはオッドジョブへ体を押し付けたのだが、手がオッドジョブの尻に当たったのである
触るところなんてどこでもいいのだ、この満員の状況、正気でない状態でサラリマンはオッドジョブの体へ体当りし、偶然手がオッドジョブの尻をがっしり触っただけである
だがオッドジョブからすれば
(痴漢……!!!!)
オッドジョブは屈辱に唇を噛み締め耐えるように瞼をきつく瞑る
(チクショウ…!何でこの俺が…!モータルごときそれもこんな時間に電車に乗るようなマケグミサラリマンなんぞに尻を揉まれねぇといけねぇんだ…!それもこれも皆あるじのせいだ…!大体俺はこんな電車なんぞに乗るような安い男じゃ…!)
だがここで耐えねば…耐えてあるじを満員電車の脅威から守らねば…
大体オッドジョブのような魅力のかけらも無いような男の尻を狙うような輩のいる列車である
あるじなんぞ見目が良いから当然狙われるだろう
そうすれば死ぬ…己も死ぬし痴漢は殺されて当然だし…だが俺が死ぬ…罰を与えられる…
(今は耐えるしかねぇ…!目的の駅までもう少し、耐えるしか…!)
オッドジョブが恥辱に耐え忍んでいると、下からオッドジョブの震える顔を見ていたフジオは無表情で、オッドジョブの背後で体当たりをしているサラリマンをじっと見た
そしてオッドジョブの尻を掴んでいたサラリマンの手へ己の手を伸ばし肉を捻り上げた
「ア、アイエーーー!!!?」
サラリマンはあまりの激痛に肉が潰れたのでは無いかと混乱して絶叫!
周りのサラリマンは叫ぶサラリマンに殺気を飛ばす!
するとオッドジョブにぶつかっていたサラリマンは痛みに震え今にも失神しそうになりつつ、
青ざめながら手を引っ込めオッドジョブへ体を故意に押し付けるのをやめた
それでも満員電車の中なので体はぶつかるが、オッドジョブの尻をつかむのはやめた
「オッドジョブ=サン」
目をぐっと瞑って無心になり耐え忍んでいたオッドジョブにフジオはやっと声をかけた
「この駅で降りる」
「エ!?あ、そうでやんしたね!!あたしとしたことが気付きませんでした!へへへ」
フジオは何も言わずにオッドジョブの肩を軽く掴んで前へ出ると、向かいのドアの方へ歩き出した
この満員電車の中、なんとでもないように素早く、目にも留まらぬ速さでサラリマン達を巧みに押しのけかわし、あっという間に駅のホームへ降り立った
オッドジョブは唖然としながらも慌ててサラリマン達を押しのけて車内から逃れた
全身滝のような汗をかいてびしょびしょにぬれている
対してフジオは涼し気で満員電車の中にいたのが嘘めいていた さっきまでエアコンの効いた部屋でクールにビジネスしていたカチグミのようである
(さすがあるじだぜ…)
オッドジョブは己の行動は無駄だったのでは無いかと肩を落とした
フジオは無言で出口へ出るためホームのエレベーターを上っていき、オッドジョブも無言でついていく
(考えてみりゃ、あるじ程のニンジャがあの程度の電車でもみくちゃにされるわけがねぇし…ファック野郎に痴漢なんてされるわけねぇのな…何を焦ってたんだ俺は)
本当に一体何をしていたんだ…?
という疑問だらけになっているところ、改札口の前
へ辿り着くとフジオは突然振り返り
「お前はよくやった」
「………はい。え?」
「お前はよくやってくれた」
フジオは若干オッドジョブにも分からぬほど小さく口元を吊り上げ
「だがそこまで気負う事はない。もっと肩の力を抜け」
それだけ言って唖然とするオッドジョブに再び背を向け、改札口へ歩いていくと切符を自動改札へ吸い込ませさっさと通り過ぎていった
オッドジョブは人混みに紛れて去っていくフジオを唖然として見ていたが、
「…ま、待ってくだせぇや!ある、フ、フジオ=サン!」
慌ててサラリマン達を押しのけて改札口を出るとフジオを見失わぬように追いかけていった