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    bamboocutter1

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    bamboocutter1

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    全年齢 じゅしひとss
    この国を二分する宿命の戦いのお話

    月面ランデブーにて公開した作品。
    パスワード外しました。

    【仁義なき戦い】

     天国法律事務所。『無敗の弁護士』が率いるこの事務所では選び抜かれた優秀なスタッフ達が日々一分の隙もなく業務をこなしている……はずなのだが、最近は代表のチームメイトである若者二人が何かと理由をつけては入り浸るようになっていた。
    「獄ー。拙僧腹減った。何かねえか?」
    「あ、自分もお腹減ったっす!」
    今日も今日とてミーティングという大義名分を掲げ代表執務室のソファに我が物顔で座る二人が無邪気に声を上げる。
    「ったく、ここは託児所じゃねえぞ……」
    この部屋の本来の主である天国獄は書類に視線を落としたまま嘆息する。
    「カウンターんとこに菓子置いてある。俺は手が離せんから、勝手に食ってろ。くれぐれも部屋は汚すなよ」
    迷惑極まりないという顔をしながらも、若者達の要求を叶えてやる彼は『実は面倒見が良い』と評判である。
     獄の言葉を受けて空却と十四は一目散にバーカウンターへと駆け寄る。
    「あ!ベビースターラーメン」
    「おぉ!小倉サンドあんじゃねぇか!」
    買い置きされた菓子類を喜々としてチェックしていく二人を横目でチラリと眺めて、獄は追加情報を提示する。
    「……チョコレートとかジュースは冷蔵庫な」
    「お!?コーラあるか?」
    「自分果汁100%のやつがいいっす!」
     間食への欲に忠実でいられるのは若い証拠だと獄は口元だけで笑う。35歳ともなると、めっきり脂肪の付きやすくなった体と能力の落ちた消化器官、この両者と相談してからでないと気軽に間食など出来はしない。うっかり変な時間に菓子など口にしようものなら深夜まで胃もたれが続いたりする。
    『俺もあいつら位の頃はしょっちゅう腹が減って何か食ってたな……』
    獄の意識が過ぎし日に浮遊し始めたところにいささか間の抜けた声が響く。

    「あ、きのこの山……」

    声の主は十四だ。バーカウンターの下に設置された小型冷蔵庫の中に保管されていた超有名お菓子を取り出し、微妙な表情を浮かべている。
    「なんだ?十四、お前きのこの山は嫌いだったか?」
    現実へと戻ってきた獄が問いかける声にはわずかに心配そうな色が混じっている。
    「んだよ、ガキじゃねぇんだから菓子の好き嫌いしてんじゃねえぞ。獄もいちいち気にすんな、甘やかしすぎだわ」
    「べ……別に嫌いなわけじゃないっすよ!」
    空却の呆れたような物言いに十四は慌てて否定する。
    「嫌いじゃないんすけど、ちょっと気になったっていうか……」
    「何が気になったっていうんだよ」
    仕事の手を止めた獄が心配そうにカウンターの側までやってくる。
    「おいこら銭ゲバ弁護士、仕事はどうした。どうせくだらねぇことなんだから十四を甘やかすなっつの」
    「く、くだらなくはないっすよ!ただ、これは自分の問題というかなんというか……」
    「別に甘やかしちゃいねえよ四流坊主見習い。どうした?何か気になるなら言ってみろ、な?」
    奥歯にものが挟まったような十四の態度に、獄は明らかに動揺を示している。これで甘やかしている自覚がないというのだから、空却が薄ら寒い気持ちにもなるのも当然というものだ。
    「どうせあれだろ?きのこ党か、たけのこ党か……みたいなしょーもねえやつ」
    空却がそう口にした瞬間、部屋の中が水を打ったように静まり返る。獄も十四も一切表情は変えていない。変えていないのだが、その身に纏う空気が一変していた。
    「あ……?図星……か?」
    人の心の動きに敏い空却が頬を引つらせると、獄と十四はまるで錆付き始めた自動人形のようにぎこちない動きで互いを見遣った。
    「なんだ……?十四はたけのこ党か……?」
    「獄さんは……きのこ党なんすね……?」
    お互い相手を窺うような言葉が、戦闘開始の銅鑼の音になる。
    「たけのこの里よりきのこの山の方が美味いだろ!」
    「いやいや、たけのこの里の方が美味しいっす!」
    「きのこの山とたけのこの里が店にあったらきのこしか買わねえよ!」
    「何言ってんすか、若い世代にはたけのこの里の方が人気なんすよ!」
    「はっ、お子ちゃまにはきのこの山の魅力が分からねぇだけだろうが」
    言葉を使うことを生業にしている上に、ディビジョンバトルの代表選手でもある二人だ。怒涛の勢いで言葉を紡ぎぶつけ合う。
    「おいおい……獄まで熱くなんのかよ……」
    あまりの剣幕に空却はポカンと口を開けたまま二人の顔を見つめている。
    「きのこの山の方が発売が早い!きのここそ正統だ!」
    「後から発売されたってことは、きのこより美味しく改良されてるってことっす!つまりたけのこの方が優秀なんっす!」
    「きのこの山は、クラッカーの軽い食感とチョコのバランスが最高だろうが!」
    「きのこのクラッカー、よく箱の中で折れてるじゃないですか!バランスも何もあったものじゃないっすよ!」
    「んだとゴルァ!たけのこはクッキー生地が粉になってて、食う時に手が汚れるじゃねぇか!」



     ぎゃいぎゃいと喧しく言い合う二人に辟易した空却は、コーラを手に取ると二人に背を向けそのままソファにどかりと腰を下ろす。ソファの片隅に置かれていた弟子の親友がその振動でコロリと転がった。腹を天井に向けたまま寂しげに虚空を見つめる弟子の親友をつまみ上げると、空却は真っ黒なその目を見つめて話しかける。
    「おいアマンダ。あいつらいつの間にか盛大な告白合戦になってんのに気付いてねぇんだぞ。信じられるか?」


    「獄さんのことは大好きですけどこれだけは譲れません!」
    「俺だって十四のこと好きだがな、この件に関しては譲れん!」
    「獄さんは世界一格好良くて可愛いっすけど、勝つのはたけのこっす!」
    「十四は確かに一等綺麗で男前だが、きのここそ至上!」


     空却の言葉通り、今や二人が言い争っている言葉の半分は相手の好ましい点を述べているだけという不思議な状態になっている。
    「こんだけ好き好き言っといて、まだ付き合ってねぇってんだから巫山戯た話だで」
    そう呟く空却の顔はどことなく楽しそうで、指先はアマンダの喉元をくすぐっていた。



    「はぁっはぁ……空却さんはたけのこ派っすよね!?」
    「はっ……はぁっ……空却、お前はきのこ派だよな!?」
     戦闘開始から二十分強。さすがにボキャブラリーの限界に到達したらしい二人が空却へ縋るように問い掛けてくる。
    「あぁ?拙僧はワサビーフ派だわ」
    もはや冗長といえるほどに続く茶番劇にすっかり飽きた空却は、助勢を請う二人をばっさりと斬り捨てるとアマンダをお供に一人ワサビーフを堪能するのだった。
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