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    bamboocutter1

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    bamboocutter1

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    全年齢 じゅしひとss
    二十歳を迎えた十四が獄と一緒に両親に挨拶に
    出向くお話。十四のおばあちゃんの事にも触れてます
    月面ランデブーにて公開した作品。パスワード外しました。

    【明日への告白】

    「父さん、母さん。あの……ふっ二人に会ってもらいたい人がいます!」
     少し前に二十歳の誕生日を迎えた息子の十四がいつになく真剣な顔でそう切り出したのは、家族で夕食を囲んでいた時のことだった。ヴィジュアル系バンドでボーカルをしている十四は昼過ぎから夜遅くまで家を空ける事が多いし、私も妻もまだまだ働き盛りで忙しい為に三人揃って食卓に着くのは久し振りのことだった。そこにこの話だ。
    「会って欲しい……ということはつまり……“そういう挨拶”をしたいということか?」
    思わず取り落としそうになった箸をグッと掴み直し尋ねると、十四は真っ赤になって首を何度も縦に振る。
     私と妻は顔を見合わせ、深く頷いた。ついにこの時が来たのだ。親になったあの日から、待ち遠しいような、それでいて寂しいような気持ちで待ち続けた時が。私達が守るべき『子供』だった十四が成長し『大人』として人生を共に歩んで行きたいと思える人に出会ったのならば、親としてこれほど嬉しいことはない。
     それに禍福は糾える縄の如しとは言うものの、十四はかつて余りにも辛い経験をした。クラスメートによる陰湿ないじめ。加害者達は十四自身を傷つけるだけでは飽き足らず、陰になり日向になり十四を見守り愛してくれていた人を奪っていった。罪の意識すらなく、ただ彼らの残酷な退屈しのぎの為に。
     中学生が背負うには余りにも重すぎる出来事。心に深い深い傷を負った十四が心から信頼し愛せる人に出会い、その人から同じように愛されているのだと思うと早くも鼻の奥がツンと痛んだ。
    「わかった。父さんと母さんはいつでもいいぞ。十四とお相手の都合に合わせるから、話し合って日程を決めなさい」
    そう言うと、家族三人が同じタイミングで鼻をすすった。母が突然この世を去って以来、全員で心から幸せを感じる初めての夜になった。



     あの夜から二週間程過ぎた日曜日。四十物家には朝からそわそわと走り出したくなるのをグッと我慢するような、そんな雰囲気が満ちていた。
     妻が朝食の支度をあらかた済ませたタイミングで炊きたてのご飯とお茶を用意し、仏壇に供える。もちろん仏花の水換えも忘れずに。蝋燭に火を灯し、ひと呼吸置いてから線香へとその火を移す。線香立てからくゆる煙を追って視線を上げれば、写真立ての中で穏やかに微笑む人と目が合うような気がする。優しく響く鈴の音の中そっと手を合わせ、春の木漏れ日のようだったその人に語りかける。
    「母さん、今日も十四のことを見守ってあげてください」
     普段であればここでちょうど完成しているであろう朝食を摂りに行くところだが、今日はもう少し母に伝えたいことがある。
    「今日の午後、十四が私達に紹介したい人を連れてくるそうですよ。母さんはどんな人かもうご存知ですか?」
    写真の表情は変わらないけれど、その微笑みは『大丈夫。とても優しい素敵な人よ』と言ってくれているような気がする。
    「あの十四が選んだ人です。きっと優しくて綺麗で、芯の強い人ですよね」
    亡き母への報告を終えると深呼吸をして小さく気合いを入れる。大切な一人息子の『比翼の鳥』となる人を迎えるのだ。隅々まで掃除をし家の中を整えておかなくては。蝋燭の火を消し、母の遺影に軽く一礼してから仏間を後にする。
    「さぁ、忙しくなるぞ」
    廊下の壁に向かって呟き気合を入れると、朝食ができたことを知らせる妻の声が聞こえた。

     午前中のうちに家中の掃除を済ませる。私達夫婦の部屋まで慌てて掃除する必要はないのだが、そうでもしないと落ち着いていられない。そして早めの昼食を済ませると、妻と手分けして準備し忘れている事がないか何度も確認しながら十四達の到着を待つ。
    「お父さん、何かあれば着信音が鳴るんですからそんなにスマホの画面を見続けなくていいんですよ」
    「そういう母さんこそ、そのテーブルもう十回は拭いているよ」
    スマホと布巾を握りしめ、妻と私は互いにばつが悪そうに笑った。もうすぐ十四達がやってくるだろう。二人にかけるべき言葉を頭の中で何度も繰り返した。
    「ようこそ、十四がいつもお世話になっております。おひ…………。あ!コーヒーはちゃんと良いやつ買ってあるよな?母さん」


    ◇ ◆ ◇ ◆


    「おい十四。俺の格好、変なところねえか?」
     最寄りの駅から僕の実家までの道すがら、獄さんはもう何度も同じ質問を繰り返している。
    「大丈夫っす!今日も獄さんは最高に格好良いっすよ」
    トレードマークであるライダースジャケットにリーゼントヘアではなく、とても品の良いスーツに落ち着いた感じに整えられた髪。いつもと違う姿ではあるけれど、今日の獄さんもやっぱり格好良い。
     今日は獄さんを両親に紹介する日だ。獄さんはかつて僕を助けてくれた命の恩人であり、裁判でも共に戦ってくれたのだから当然両親とも面識はある。だが今日は『恩人』としてではなく、『恋人』いや『生涯の伴侶である連理の枝』として挨拶をするんだ。さすがの獄さんでも緊張するみたい。僕の実家の住所だって知っているのだから直接車で来ればいいのに『駐車スペースでご迷惑かけるわけにはいかん』といってわざわざ苦手な電車使って来るくらい、あれこれ気を回してくれている。
    「手土産はほんとにこれで良かったか?」
    「大丈夫ですって。このお菓子、母の大好物っすから」
    弁護士としての獄さんはどんな時でも一切の動揺を見せないのに、今はオロオロと狼狽えていてなんだか可愛らしい。
    「う〜……ご両親、びっくりされるだろうな。大事な一人息子がこんなおっさん連れてくるなんて……」
    獄さんはふらつく足取りで電柱に手をつくと、そのままヘナヘナとしゃがみこんでしまう。
    「そんなことないっすよ。それに万が一、いや億が一反対されたとしても自分は獄さんから離れたりしませんから、その時は駆け落ちしましょうっす!」
    「たあけ!お前のご両親に申し訳なさ過ぎて、んなことできるか!」
    励まそうとした一言だったけど、怒られてしまった。認めて貰えないからといって別れるなんてありえない。そう思うのは本心なんだけどな。
     両親には駅を出るときに改めて到着予定時刻を通話アプリのメッセージで送ってある。今頃は首を長くして僕達を待っているはずだ。
    「もう……自信持ってくださいっす。それよりあんまり遅くなると、話をする時間がなくなっちゃうっすよ」
    スマホに表示させた時計を見ながらそう言うと、獄さんはガバリと立ち上がる。
    「恋人のご両親を待たせるなんざマジ無しだ!急ぐぞ十四!」
    さっきまでの凹みっぷりは何だったのか。獄さんは僕の手を掴んでずんずんと進んでいく。いつもは『男同士が人前で手なんか繋げるか!』なんてすぐに怒るのに……、なんて考えていると実家が見えてきた。心拍数がどんどん上がってくるのは、早足で歩いてるせいだよね?

    「父さん、母さん。ただいま!」
    ほんの少し早くなった息を整えながら玄関でそう声を上げると、奥からパタパタと二人分の足音がやってきた。
    「おかえり、十四」
    迎えてくれた両親の顔にも緊張の色が滲んでいる。まぁ、獄さんほどじゃないけどね。
    「あっ、あの!本日はお時間を頂きありがとうございます。ご無沙汰しております天国です」
    僕を押し退けるようにして頭を下げる獄さん。緊張から少し早口になってるのがまた可愛くて、思わず抱き締めそうになるのをグッと我慢する。
    「天国先生!じ、十四がお世話になっております」
    父さんが勢いよく頭を下げる。勢いが良すぎて危うく下駄箱に頭をぶつけそうになったくらいだ。
    「あらあら。天国先生、こちらこそご無沙汰して申し訳ありません。さ、どうぞお上がり下さい」
    「しっ失礼します……」
    母さんに促され靴を脱ごうとした獄さんの体がぐらりと傾いた。
    「危ない!」
    咄嗟に腕を伸ばしてバランスを崩した獄さんの体を支える。つい抱き止めるような体勢になってしまい、獄さんの顔がみるみる赤くなっていく。
    「天国先生!大丈夫ですか!?」
    「あ、あはは大丈夫です!お恥ずかしいところをお見せしてすみません」
    ちょっと緊張しすぎの獄さんが心配になってきたので、助け起こすふりをして耳元で囁く。
    「獄さん、落ち着いて。深呼吸してください」
    ガチガチに固まった笑顔を浮かべる獄さんは僕の言葉通り深呼吸を繰り返す。
    「今日は自分達『二人の話』をしにきたんすよ。責任はもちろん、緊張も獄さん一人で背負わないで自分にも分けてください」
    ああ……両親の前でなかったら蕩けるようなキスをして獄さんの緊張を解すのだけど、今は言葉をかけるしかないのがもどかしい。
    「そ、そうだな。俺達『二人の話』だな……」
    「そうっす!どんなことも二人で一緒に乗り越えようって決めたじゃないっすか」
    いつも以上に斜め上へと上がっていた獄さんの眉が少しずつ下がってくる。責任感の強い人だから、年上としてこうあるべきって姿を追求しすぎちゃうんすよね。不退転の心で血の滲むような努力をする獄さんは格好良いけど、心配でもある。少し落ち着いてきた獄さんと二人、両親に続いて廊下を進んだ。


     客間で両親と僕達、座卓を挟んで座る。座卓の上では、母さんが用意してくれたコーヒーが良い香りを漂わせている。これ、普段うちで飲んでるやつじゃないな。一般家庭で出されるコーヒーとしてはかなり上質だし、お茶菓子も甘すぎない上にコーヒーとの相性抜群のチョコレートだ。これなら獄さんも納得してくれそうな気がする。
    「あ、あの!」
    覚悟を決めて話しだそうとした獄さんの手を握り制止する。
    「獄さん、自分から言わせて欲しいっす」
    獄さんがちょっと困ったような顔をしながらも頷いてくれたのを確認して、僕は居住まいを正して両親の顔をまっすぐに見つめる。
    「父さん母さん、自分……僕は獄さんとお付き合いしてます!獄さんに出会った十四歳の頃から、ずっとずっと好きだったんだ」
     一世一代のカミングアウト。膝の上に置いた手は白くなるくらい力が入るし、心臓は破裂するんじゃないかと思うくらい激しく拍動している。
    「この度、十四君とお付き合いをさせていただくにあたり、ご両親のお許しを頂きたく参上した次第です」
    獄さんも背筋を伸ばして、続いてくれる。
    「二人の気持ちはわかった。少し確認したいんだが……その、二人はいつから付き合い始めたのかな?」
    父さんが今まで見たことない位真剣な目をしている。隣の母さんの目は潤み、口元は微かに震えている。やっぱり男同士っていうのはショックだったのだろうか。何だか不安になってきて、つい視線をコーヒーに落としてしまう。
    「僕は、ずっと好きだったんだけど、獄さんが『大人として、未成年を相手にするわけにはいかない』って。だからお付き合いを始めたのもこの間の誕生日からなんだよ」
    「年齢差や性別を考えれば、お父様とお母様がお怒りになって当然です。ですが、二人で真剣に考えて結論を出しました」
    僕達の答えを聞いて、父さんはグッと目を閉じる。眉間には深い皺が刻まれてるし、段々顔が赤くなってきている。どうしよう……。隣の獄さんの方を見ると、獄さんも両親の反応に不安そう。
    「十四、天国先生……」
    やっと口を開いた父さんに、僕達はピンと背筋を伸ばして身構えてしまう。
    「わかった。幸せになるんだよ」
    「おめでとう、十四。ほんとにっよかっ……よかった……うぅ……」
    「天国先生……十四が成人するまで待ってくださってありがとうございます。十四を守ってくださってありがとうございます」
    父さんが大きく頷きながらそう言うと、母さんの目からは涙がボロボロ流れ出した。ハンカチに顔を埋めるようにして泣く母さんを見ていると、こっちまで涙が出てきてしまう。
    「か……母さん泣かないでほしいっす!ぐすっ……」
    「十四……母さんのは嬉し涙……だぞ。父さんもっ嬉しいよ……うううっ」
    ついには家族三人でわんわん泣き出してしまった。涙でぼやけた視界の端で、獄さんが『ティッシュ、いやタオルの方がいいか!?』と焦っているのは見えたけど、こうなると四十物家はしばらく止まらない。実は両親もかなり涙もろいところがあるんすよね。自分程じゃないってだけで。


    「いや〜、よかった。そうじゃないかとは思ってたんだけど、もし天国先生以外の人を連れてきたらどうしようかとドキドキしたよ」
     一通り泣いて落ち着いてきた父さんはそう言って、文字通り胸を撫でおろしながら声を上げて笑った。
    「ほんとねぇ。天国先生のお顔が見えたときはほっとしたわぁ」
    母さんもまだ目は真っ赤だけど、ニコニコと嬉しそう。そんな二人の言葉を聞いて慌てるのは獄さんだ。
    「え?ご…、ご存知だったんですか?」
    「ふふっ、十四を見てたらわかりますよ。天国先生の事が好きなんだなぁって。急にコーヒーを飲み始めたり、バイク雑誌も買ってきてましたから。そうそう!他にもライダース……」
    「ちょちょちょ母さん!やめてほしいっす!」
    突然の暴露大会を始めた母さんを慌てて止める。これは一旦母さんを獄さんから引き離さないと、何を言われるかわからない。そこで僕はコーヒーを淹れ直すのを手伝うという大義名分を掲げて母さんをキッチンへと連行していくことにした。


    ◇ ◆ ◇ ◆


    「天国先生、どうか十四をよろしくお願いします」
    「そんなっ……頭を上げてください!」
     二人きりになった客間で改めて頭を下げると、天国先生は座布団から転がり落ちるようにして私の姿勢を元に戻そうと肩に手をかけてくる。
    「さっき妻は『見ていればわかる』と言っていましたが……私達夫婦は六年前に十四を『見ていなかった』ことを後悔し続けているんです」
    六年前という言葉に天国先生の眉が悲しそうに下がる。
    「六年前、私達がもっと十四を見ていれば早くいじめに気がつけたはずです。そうすれば母は今も元気でしたでしょうし、何より十四が傷付かずに済んだでしょうから……」
    あの頃は忙しさを理由に、十四の事は母に任せきりだった。そして十四は優しい祖母に心配をかけまい、私達親に迷惑をかけまいと一人で耐えようとしてしまった。結果、あの子の心には一生消えないであろう傷が出来てしまったのだ。
    「実は……十四君から告白された時はとても怖かったんです」
    「怖かった……?それは一体何故……」
    「私と十四君の出会いは、忘れられるのであれば忘れた方がいいきっかけでしたから。私と関わる限り十四君の傷は痛み続けてしまう、そう思ったんです」
    天国先生は裁判の時とは全く違う、とても柔らかな声で言葉を続ける。
    「でも十四君は違いました。心の傷は痛むけれど、その痛みごと抱えて前に進みたいと言ってくれたんです……うわぁっ!?」
    「そうっす!自分は過去の幸せな記憶も辛い記憶も全部まとめて、獄さんと未来を作っていきたいんす!」
    いつの間に戻ってきていたのか、十四が後ろから天国先生に抱き着いてきた。
    「十四!いきなり危ねえだろうが!」
    「えへへへ。ずっと我慢してたから、どうしても獄さんにくっつきたくなっちゃったんす」
    「おま……親御さんの前だぞ!?このたあけ!」
    「これぐらい大丈夫っすよ!」
    嵐の様な勢いで繰り広げられる会話に、二人の関係性が見えていて吹き出してしまう。
    「ははははっ!ほんとに仲が良いんだな」
    「そうっす!自分と獄さんはラブラブっすよ!」
    「だから!恥ずかしいこと言うなって!」
    まるでじゃれ合うような言葉の応酬を楽しんでいると、急に天国先生が真剣な表情に戻る。
    「こんなことしてる場合じゃねぇ!」
    天国先生は再び正座すると、私と妻の方に向き直る。
    「お祖母様にも、ご報告させていただけないでしょうか」
    その申し出に、再び嬉し泣きし始めた妻をなだめながら天国先生を仏間へと案内する。仏壇の前に背筋を伸ばして正座した天国先生はそれはそれは綺麗な所作で線香をあげ手を合わせる。
    「お祖母様、十四君とお付き合いさせていただいている天国と申します。必ず十四君を幸せにします」
    あぁ、この人は本当に十四の事を大切にしてくれているんだな。十四にとって大切な人だからと、故人に対しても真剣に向き合ってくれている。
    「母さん、天国先生はとても素晴らしい人ですよ」
    「お義母さん。こんな人と結ばれるのだから、十四の事は心配しなくていいですよ」
    妻と私は天国先生の後ろで手を合わせ、亡き母に語りかける。
    「そうっす!自分は獄さんと一緒に幸せになるっす。だから……ばあちゃん、安心して」
    その時、どこからともなく柔らかな風が吹き込んできて仏花の花弁の一片が天国先生の膝元へと落ちる。
    「これは……」
    その花弁を拾い上げた十四は天国先生を強く抱き締めた。
    「ばあちゃん……ありがとう……」
    母さんも認めてくれたんだな。今度は、四人分の涙が溢れた。それは暖かく、最高に幸せな涙だった。
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