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    敗北主義者

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    敗北主義者

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    隠し刀の過去編です。ほぼオリキャラ同士のいさかいでおわってるから何も面白くねーぞ
    隠し刀の名前→幼少期はツキ、現在は細雪
    片割れの名前→幼少期は雪五郎、現在は雪崩
    漫画になる前のト書きです

    過去編のやつ元旦、お正月。
    水戸の神社は晴天で、赤と黄と白のかわいらしい出店が軒を連ねる。
    「ツキちゃん、お兄さんが3人いますね?」
    「は?」
    占い師に頓珍漢なことを言われ、一家は素っ頓狂な声をあげる。
    水戸藩士、舎人(とねり)家は4人暮らし。昨年肺炎で祖父と祖母が相次いで亡くなり、広い武家を小さな家族で維持している。
    だがその分、小さな家族のきずなはより強固で、武家らしからぬ、平等かつ自由な家庭だった。
    「あの、うちには男の子は一人しかおりませんが」
    「おや、そうですか?じゃあ一人ですね」
    「はあ・・・。で、では結婚は?娘ですので」
    心配する母親のよそ、ツキは風車を吹いてくるくる回る絵に夢中だ。
    「ご主人は素晴らしいですよ。年上で沢山の方を率いる男性ですね」
    神社から出る。今年で5歳になる利発な兄がぶつくさと文句を垂れる。
    「あれで金とるとか詐欺だな 詐欺
    適当なこと言っておけばいいなら僕も占い師になろうかな」
    「まあまあ。占いなんてそんなもんだよ」
    優しい武士の父親がたしなめる。遠くにいる母がツキーーやがて細雪と名付けられる女の子と手をつないでいる。出店に夢中なようだ。
    「お兄ちゃん、ツキちゃんお雑煮食べたいんですって」
    「あんころのなら家にあるでしょう。僕は早く家に帰って剣術の鍛錬がしたいです、母上」
    父が眉尻を下げる。
    「棒振り回してるだけだろ」
    「違います」
    「たまには妹に譲りなさい」
    父の口癖で、包み込むように優しい言葉尻だった。

    「兄弟仲良く、な」



    長州藩邸。
    ーー私は隠し刀といいます。
    横浜で出会って長州藩士の皆さんにお世話になって、何年も経ちます。
    「ちゃんと食べないといかんだろう。藩邸からも近いし、今度から君の分も用意するよう頼んでおくよ」
    この人は桂さん。私はこの人から貰うお金で食い扶持を得ています。
    「刀ちゃん、私煮つけ作ったの。たべていってよぅ。」
    「この後一緒におでかけしない?蛸薬師に花札を買いに行きたいの、お茶屋さんにも寄りましょ」
    「おっ、三条に出るならついでにお使いをいいかい?しばらく出られなくてね」
    「もちろんです」
    文ちゃんはずっと私に目をかけてくれる、大好きな友達です。
    小さなめざし、京菜のお香子。里いもの煮つけ。
    長州藩士はこの小さな部屋でひざを突き合わせて食事をします
    お箸の音が隣で響きます。もしこの人と一緒になったら、と想像してしまうのはいけないことでしょうか。
    「ところで、今度の決起、来てくれるかい」
    「・・・」
    「君が来てくれるだけで、皆の士気が上がる。君の腕はそれほどのものだ。犠牲を抑えるため、よろしく頼む」
    侍の口調は今でも慣れません。

    ーーーーーーーーーーーーーーーー

    6月15日 お兄ちゃんの誕生日です
    奉公の男の子と剣の特訓です。私は絵がたくさんかかれたご本が大好きでしたので、剣を振り回すのは嫌いでした。
    「剣術ばかりではいけませんよ。あなたはもっと勉強をなさい。」
    厳しい母上の横で、父上が言います。
    「兄弟同士、仲良くな」
    兄は本をもらいました。
    この日はお兄ちゃんが大好きな果物と菓子を食べました。いつも布団にいた母上も今日はとても元気です。
    夜にこっそりお兄ちゃんが会いに来て、貰った本をくれました。
    「勉強はお前に任せるよ。ボク、字は嫌いなんだ」
    顔をくしゃりとして笑う。
    「ツキちゃん、おいでなさい。」
    急に、母上は私をぎゅっと抱きしめてくれました。
    「どおしたのですか」
    「なんでもありませんよ」
    母はその日の翌、旅立ちました。


    11月1日
    この人は坂本龍馬さん。この人に出会ってから、5年もひとりだった私の人生にどんどん人が増えてゆきました。少し女性関係にだらしない方ですが、みんなをひきつける温かい人です。
    龍馬さんは先に食べたそうですが、かじかむ手をどんぶりにくっつけてきます
    「前・・・」
    「開いてまうんじゃ。別にモテたいわけじゃないき」
    家族の様に大事にしてくれます。
    「ところで、玄瑞の話とった御所の作戦は聞いたかえ。池田屋の件で桂さんを守り抜いて、倒幕につくことになったんじゃろ」
    「・・・うん」
    「また公使館を焼いた時みたいな、苦い思いをする羽目になるんかのう・・・ 倒幕派の威信かけるっちゅうとるけど、過激な手ばっかりつこうてもあかん気がするけんどのう」
    「私は入らない」
    「お?おまん、意外やのう」
    「どうせ大勢人が死ぬ」
    果たして本当に仲間になる日はいつくるのか。龍馬は目を伏せた。


    2月3日
    母が死んでから、仏様との糸が切れてしまったのでしょう。まず、我が家族は家を失いました。
    煮た花を食べたのは初めてでした。
    父は水戸藩を抜け、病気を理由に旅に出ることになったそうです。かつての同僚からお餞別をもらいながら、ときに人を斬り、時に人をたすけ渡り歩きました。
    親子は似るものなのでしょうか、今の私ととても似ていますね。
    そのあとは兄とウサギをとりにいきましたが、イノシシに追いかけられて私は大泣きしていましたが、兄が得意の剣術でイノシシを倒してしまいました。
    父の剣の才は兄に宿ったようです。その日の晩は、牡丹鍋でした。
    イノシシを食べるのはかわいそうでしたが、初めて食べた獣の肉は、この世のものとは思えないほどおいしかったです。
    頭にはシラミが湧き、体中がかゆかったこと、今でも思い出します。
    それでも父が忙しかった水戸藩士を抜け、兄は学問と道場をやめ、家族で一日中ずっと一緒だったこと、あんな楽しい日々はありませんでした。


    現在。
    鬼の手の雪崩。誰かと話している。
    「そうか、水戸の京屋敷に」
    「・・・知るかよ、構うかンなこと。騙されてんだよ、あのクソ共の言う耳障りの良いクソ寝言によ。」
    「桂の野郎は、アイツの父親に似すぎてる」


    過去雪崩のターン
    お江戸に来ました。
    「頼みます。娘も母親に似て、器量の良い女の子です。どうか、娘もともに」
    「心中察する。だが、我が家には家督を継げるものがいなくなってしまったのに、娘は2人もいる。いずれ嫁にいく女はいらない」
    そのころの私は幼く、何の話かわかりませんでした。
    「ツキ、ちょっとこっち来いよ」
    兄はそんな話もきいてかきかずか、ひろった花を頭にのせてきます。
    「女なんだから、もうちょっとおめかししろよ。母上みたいにさあ。」 
    「お前、ずっとその本読んでんなあ。」
    「兄上にもらったから」
    「おい」
    「あっ、呼んでる。後でその本返せよ、僕も読みたいから」
    そのやり取りが最後でした。

    「手ごろな家だねえ」
    ある豊かな村に空き屋を提供していただきました。今考えれば、兄が養子に行った家のツテを使ったのでしょう。兄を売り飛ばして家を買ったようで、あまりいい気分はしません。
    そこで出会ったのが雪崩です。
    新しい兄ができたような気分でした。大声で怒り、騒ぎ、そしてよく笑う人でした。(お家に行くとみんな大声で激しいやりとりしてる。ささめの家とは正反対)こんなににぎやかな人は初めてでした。

    「おかえり」
    傘張りの仕事をする父。そして雪崩は輝く目で刀を見る。
    「お侍になるにはどうしたらいいんだ」
    「お侍に?ならなくていいよ、ただその家に生まれたというだけで、なんにも特別なものじゃないよ」
    「それでもアンタら特別だよ。俺は普通の農奴としておわんのは嫌だ。ギラッギラした刀持ってよお、肩で風切ってよォ、みんなを守れるようなかっこいい侍になりてえ。
    俺、アンタんトコに生まれたかった」
    一瞬真顔になり、苦笑いをして雪崩の頭をなでる。
    雪崩の最大級の賛辞だったが、実際にその立場で生まれた兄は捨てられたのだ。

    ーーーーーーーーーーーーーーーー
    6月10日。

    雪崩から衝撃的な手紙を受け取り、龍馬が憤慨している。
    「何ちゅう奴じゃ!
    こんな文を送るだなんて・・・。
    のう、もう片割れなんぞ追う必要はない。あんな奴。」
    「悪いな、呼び出して」
    「ええんじゃ。おまんに呼び出されるのは珍しくてのう。ほいで、なんでじゃ?」
    「・・・一人じゃ、その」
    きょとんとしたかと思えば、嬉しそうにわしゃわしゃと頭を撫でまわしてくる龍馬。
    「やめろ」
    「おまんが甘えてくるのがうれしくってのう!さあて、どこじゃどこじゃ!
    こいつを使うて、ちゃあんと改めるんじゃ。片割れの出まかせの可能性もあるきのう。里心がついたら戦いなんぞできんじゃろ」
    アメリカ製の双眼鏡を覗く。すると。
    「兄だ」
    フラッシュバックする。混乱して胸が張り裂けそうな顔をする。
    「ああやって笑う」


    7月。
    肩車をして盆踊りを見せてくれました。風車をくれた屋台のおじさん、鼻緒を直してくれたおばさん。みんな優しく、頭をなでてくれました。
    一人、若い男女が手を握り合って寄り添っていました。その姿はとても美しく、また新しい幸福の形を知りました。
    雪崩は大雑把で、心根がとても優しいひとでした。家族も温かく、こんな男の子に育つのも納得でした。

    「あ。おっとうとおっかあ、どうしたんだよ、ツキの家で」
    「ツキと遊んどいで!」
    雪崩の親と窓越しにやりとりしている。
    「ツキをお願いします」
    「そんなこといったって、子供は親のところにいるのが一番だよ。あんた良いお父さんじゃないか。」
    「そうだ、この家を直してあげようよあんた。布団もやろう。ずっと一緒にいてやんなよ」
    「私の看病で、未来ある娘の人生を食いつぶさせたくないのだ・・・。私の様な、無価値な病人を・・・」
    雪崩の父親が言う。
    「なあ、あんた確か水戸藩士だったか。アンタの価値をこの村に見せる番だ。」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    長州藩邸。
    「調べさせたが、どうやらもうじき幕臣に抜擢されるところらしいじゃないか。相当優秀なんだな、お前の兄貴は」
    顔色が悪いながらも、珍しく高杉が床からでている。
    「貴様、まさか間者ではあるまいな。しかも、武家の娘だったとは初耳だ。」
    久坂も疑惑の目を向け、高杉の横で腕を組む。
    「知らなかった」
    「これは片割れの陰謀じゃ!」
    龍馬が床を叩いて口をさいた。
    「載せられちゃアいかん。全部見ないふりしてればええ。アイツはおまんを揺さぶって長州から引きはがそっちゅう魂胆じゃ。
    今までだって生きとった。でもなんもおきんかったじゃろ。」
    「兄貴のほうも隠し刀を探してるようだったけれどな。」
    つまらなそうに足の爪を切りながら、冷めた口調で高杉がつぶやく。
    桂は腕を組んで眉間にしわを寄せている。正座をしているときは、きまって疑念を抱いている時だ。
    「・・・ともあれ、このまま敵対している長州のお抱えでいるわけにはいかんだろう」
    「・・・」
    「実はだ。
    君のことは、江戸のころから長州藩邸の下女として認知してもらっている。侍ではない。」
    「?」
    「存在を隠すためだ。隠し刀だけに、その方が取り回しがきく。君が誰と付き合おうと取りだたされんのは、そのためだ。
    裏を返せば、いつでも縁をきれる、ということ。ただし、完全なる放免には条件がある。刀を捨てるのが条件だ」
    「そんな」
    少し微笑んで言う。
    「お嫁に行きたくなることもあるだろうと思ってね」
    ーーこういわれたようなものでした。「君は私にとって”ナシ”」だと。
    高杉がおおきくせきこむ。結核がひどくなっているらしい。
    「人生は短い。悔いのない選択をしたまえ。」



    燃やされる雪崩の村。お父さんとお母さん、雪崩の兄弟が死んでいる。臓物と血で埋め尽くされ、もはや、誰がどの兄弟の身体で首なのか判別すらできない。人の体が徹底的に破壊されている。
    「(徳川家への疑念を抱いている者も多く、水戸も分断状態にある)」
    「(今の幕府のやり方は間違っている。そう思わんか)」
    「(水戸のお侍が支援すると約束してくれた)」
    「(協力しよう。わしらの力で打ち壊すんだ)」
    幼い雪崩は叫んだ。
    「おっとう!おっかあ!!!!!
    どうしてこんなひでえことできんだよ、なんで殺すんだよ!!」
    幕府の刺客に次々と斬られていく。盆踊りで会った屋台の人、声をかけてくれたやさしいおばさん、そしてツキに新しい愛の形を教えた若い二人も、最後まで抵抗したのでしょうか、鎌をもって亡くなっていました。
    刺客に襲われる。だが、なにかがそれを一刀両断した。よろける。後ろには体に鞭打って立ち上がるささめの父がいた。病に侵され顔は変形し、関節も悲鳴を上げている。
    「はやく!」
    生き残った村の人たちが走っていく。
    「侍としての務めを果たす」
    ーー優しくて、つよくて、誰よりもかっこいいおっとう。
    「おっとう!!」
    後ろからお腹を刺される。
    だが最後の余力を振り絞り、3人を一気に始末する。が、失血で倒れる。
    敵の影が炎と煙の向こう、こちらに走って来る。
    「雪崩君、これをやる。」
    腕で血を拭うと、雪崩に刀を差しだした。
    「立派な侍になれ」
    刀を受け取る。さっきまで泣きじゃくっていた雪崩の中の何かが変わり、「いくぞ!」とささめを引っ張っていく。
    最後にもう一人。刀を抜いて向ける。
    「待て!私は幕府の者ではない」
    雪崩はその刀に責任を受け継いでいた。引き下がらない。
    「よい目だ。」
    研師だった。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    刀は脇に置いてある。
    温かい煎茶。茶菓子に落雁がついている。だが、細雪と文は手を付ける気にはなれなかった。
    「村を抜けてから、ずっと面倒を見てくれていたんだな、片割れ君は」
    「・・・あぁ」
    「その子は?」
    「杉文です」
    「そうかあ。ずっと心配だったんだよ。お前の周りには女の子がいなくて、いつも一人だったから。」
    「長州藩士が来ると思われて?」
    「うん。」

    兄はため息をついた。
    「役に立てているのかい。男社会で、こんな引っ込み思案なコが…うまくいくとは思えない。そこまで出来のいい子じゃなかったからな。」
    「少なくとも、私は刀ちゃんにあこがれています。
    本をよく読んで物知りで、刀も振るって、みなさんよりずっと強いんですよ。
    女であるがゆえ、私は兄や夫のためになれないと思っていました。でも、刀ちゃんはそれを否定してくれました」
    「・・・父の剣の才がツキにもあると。」
    「お兄様は、刀を捨ててほしいとお思いでしょうけれど・・・」
    「・・・うん。お侍なんかやめて、昔みたいに家族で暮らしたいと思っている」
    「私も、その方が刀ちゃんのためだと思います・・・けど」
    細雪が抑える。
    「待て、私の行く先を勝手に決めるな、文。お前と離れ離れになりたくない。せっかく仲良くなれたのに」
    「もういい、もうやめろ。刀チャン刀チャンって、まるでモノみたいに」
    「違う。隠し刀であることは、私の誇りだ。
    ツキなどという子供の名前ではない。侍としての名前も授かっている。」
    「・・・誇り」
    「私は戻らない」
    「家族を捨ててでも、そんなに人が斬りたいのか。」
    細雪は顔色を変えない。
    「お前はそんな人をあやめるような子じゃなかったのに。長州はお前を”刀”と呼んで、人間性を奪ってる。お前にはツキという人の名があるだろう」

    「あなたこそ、どこか人を見下してる雰囲気のある人ではなかった。」
    一瞬目元が揺らいだ、激しい出世競争でなにかを失った自覚があるらしい。
    「・・・変わったな」
    「何年もたった」
    ぶるぶると震え、思い切った顔で立ち上がる。
    「頼むから帰ってきてくれ!!!!!」
    大声が茶屋に響いた。
    「お前はここで死ぬんだ!ここで帰って来ると決心してくれなければ、俺はここでお前を斬らなきゃならない!!」
    「!」
    「新選組も包囲している!京にお前の剣の腕もとどろいている!長州のお抱えだということも、江戸でしでかした罪も、すべて知ってる!!
    帰って来るんだ、俺にお前を斬らせないでくれ、ツキに戻ってくれ、なあ頼む、頼むよ・・・!」

    文。龍馬、高杉、久坂、桂。いままでの因縁が押し寄せてくる。
    ーー兄上。私は確かに戦いは嫌です。でも、勝利の高揚も、今までに感じたことのない一体感も、確実に本物でした。それでいて、この腕を持ち合わせた以上、逃げるわけにはいかない。
    ーー誰かが平和のための盾を担っているのです。
    ーー銃後のお龍、楢崎先生、そして文のために。
    「ごめんなさい、兄上。
    私はもう、彼らに死んでほしくないと思ってしまっている」
    兄上はすべてをさとり、抜刀。それに合わせるようにささめは銃と刀のほうに体当たりし、即座に短銃で兄に発砲する。
    「ツキにしては強すぎる」
    速攻で跳ね返される。なんて腕だ。刀の鞘で椅子をひっくりがえし目くらましにする。
    「文!逃げろ!!」

    即座に出てきた新選組に捕まる。
    「しまった・・・!」
    「斬るな!もう一度交渉に使う!」
    ささめも襲われるが、桂と龍馬と久坂が加勢しにくる。
    「新選組は我々が抑える!久坂君、隠し刀を追って文さんを!」
    「桂さん・・・!」
    桂は布で包んだライフル投げ、額をこんこんと指でつつく。
    「これを貸す。2度目だぞ、ここをつかえ」

    刀を交える隠し刀と兄。
    「本当に帰ってこないのだな。友人がどうなってもいいと」
    「こんな卑怯な人間だったのか。ここまで腐りきるだなんて」
    「あぁ。お前にみすてられて」
    くしゃりと笑う。
    「その顔で笑うな!!!」
    「俺はお前と暮らして、幸せだったあの頃をやり直したいだけなのに
    本当に戻ってこないんだな」
    「あなたも変わった。私は・・・私はたくさんの人たちに今の私を作ってもらった。裏切るわけにはいかない
    家族を再興できない、だが文と久坂の・・・家族を壊すわけにもいかない」
    「じゃあ、もういい」
    文の喉が斬られそうになるところで、新選組隊士の頭が突然はじけ飛び、文の顔が赤く染まる。久坂のライフルが隊士の頭に当たったのだ。
    「なっ・・・!」
    飛び出してくる久坂が一気にほかの隊士を退け、兄にもとびかかる。
    一撃を与えようとする兄の体勢を崩す。大きなスキが出来る。
    細雪は柳生新陰流から無明流に変え、全身全霊の刺突を加えようとした。

    だが、近くにあった洞から何かが飛び出した。
    細雪の刃がその人物に当たる。肉が繊維を掘り進みずぶずぶと入っていく。
    即座に抜く。しかし、その顔には見覚えがあった。

    「兄弟同士、仲良く」

    吐き気が襲う。生まれて初めて人を斬ったように、臓器の下から恐怖がぞるぞると沸き起こる。
    ーーー気が狂いそうでした。
    「わあああ!ああああ!父上、なぜ、なぜ・・・・!!」

    私が、私が、私が、おっとうを。父上を。

    兄がふらふらと父親の近くに寄り、触れ伏して泣くと、憎しみがにじむ表情でこちらに向かってくる。
    「・・・父上は、水戸での働きを評価されたから、助けられたんだ」
    「病人であるのに、俺は養子にいけたし、村で死にかけたときも、たまたま居合わせた幕吏が便宜を図ってくれたんだ」
    「わかっているのか?俺たちは、父の名声にタダ乗りして生きてきた・・・なのに、なのに、倒幕派についてその恩を仇で返すなんて」

    冷める。頭が冷えていく。

    「お前は勝手だ」

    兄上が刀を振り上げ、細雪の頭を割ろうと斬りかかる。
    ーーなんで、なんでこんな時にこんなことを考えてしまうのでしょう。
    示現流に似てる。しかし、明らかに太刀筋がぶれている。
    こんな感情任せの刀では、見切られてしまいますよ。

    ーーー急に、いつかの思い出が脳裏を走ります。
    「どうするの?お馬さん、いなくなっちゃったよ」
    幼いツキが細雪の記憶の中で、家族に訴えます。
    「あるいてかえるの?」
    「そうだよツキ」
    「アハハ もう一匹いるじゃん。4人は乗れないけどな」
    「これも鍛錬よ、おツキちゃん。辛抱なさい」
    優しい父、兄、母がヘラヘラと笑っている。ネガティブな性格の持ち主であるツキは、幼いながらに納得いっていないようだった。
    「おばあちゃんが死にそうって、うそだったらどうするの?」
    家族は顔を見合わせた。
    「いいじゃん、嘘でも。あの人まっすぐ帰れんだから」
    「遠いとこ、家に早く帰れる」

    ーーーそうだった、あなたたちはそうやって、いつもさらりと善良だった。
    兄上、ごめんなさい。新しい親のもとで、さぞかしつらい思いをしたことでしょう。運命のせいとはいえ、罪の意識にさいなまれています。
    父上、ごめんなさい。あなたの様な素晴らしい侍になれるよう努めていたのに、あなたの味方であったたくさんの人々の命を奪っております。
    母上、ごめんなさい、あなたに命をいただいておきながら、私は過去に何度も生きていたくないと願ってしまいました。

    私はあなたのような母を持ち
    あなたの様な兄をもち
    あなたのような父を持ち
    とても幸せでした

    目の前で、兄がこと切れていた。

    その日の晩。
    「隠し刀。今夜は藩邸にいていいから。ここにはみんながいる」
    「いや、帰る」
    隠し刀はどうでもよくなった。尊属殺をした己に、人斬りの良し悪しを語る立場はないと自覚した。固まった背中からは、いつ崩壊してもおかしくない危うさが漂っている。部屋を出た桂に龍馬が話しかける。
    「桂さん・・・」
    「私が親を斬らせた。・・・私が」
    「違う、アイツの片割れのせいじゃ」
    「そうだろうか。
    私が斬らせた・・・」
    桂は重い責任を感じている。先日の言葉は、君はいつでも抜けられて、「仲間ではない」と告げたに等しい。振られる前に振る、そんなような感覚で。
    だが、今日はその一線を越えた。
    親を斬ってでも長州を愛しているといわれたに等しいのだ。
    「桂」
    顔を出す隠し刀。
    「今度の決起、私も参加する」
    「隠し刀」
    「本気だ。生きてるだけでこんなに痛いんだ。
    どうせ痛い思いをするのなら、お前たちの為がいい」
    桂は激しい痛みを抱えながら、「すまない」という言葉を絞り出すように吐いた。
    「すまない。本当にすまない、隠し刀。
    必ず君の傷に報いる。絶対に後悔させない。」
    寝床の高杉は三味線の調弦をしていたが「縁切ってもいいだなんて言ってたくせに」とこぼし、龍馬も「絶対そんなことおもっとらんかったじゃろ」と笑う。
    「桂」
    やっと涙が出てきた細雪に、桂が肩を支える。
    「助けて、痛い」
    「そうか」
    龍馬と久坂、文も駆け寄る。
    「いつだって頼っていい。私がいる。私じゃなくてもいい、みんなが待ってる」

    「はあ。この世はとっとと去るには少しもったいないか」
    ベン、と三味線の音が響く。調律は完璧だった。


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