「ね、千空、キスしようか」
ゼノが何かにつけてやたらそんなことを言う理由を、千空は最近になってようやく理解した。
思い返せば、恋人という関係になってすぐのうちは、それは確実にからかいの意を含んでいたといえよう。経験のない千空にひとつひとつ教えるように、だが科学を教えるときとは違って、千空が恋愛に対してあまりにも不慣れなところを可愛い可愛いと言って笑っていた。確かに照れくささはあったが、知らないことを教えてくれるゼノの手腕を千空は確かに信頼していたので、年下らしく素直に従っていたものだった。
様子がおかしいと思うようになったのは、それから季節が一巡した頃だった。覚えの早い千空はすっかり恋人としての触れ合いにも慣れてしまって__というのは半分嘘だ。むしろ至近距離になるとすぐ心臓が跳ねてしまうのはこういうことをするようになってからの弊害だが、それは一旦置いておいて。
1007